第156話 ミーガンの事情
「へえ、4級にランクアップですか。おめでとうございます。初めてお会いした時に初めてハンター登録でしたよね。それから1年も経たずにそれはとんでもない勢いですね。これはお祝いをしないといけませんね」
「いえ、そこまでのことは……」
「いや、皆さんのおかげで、今回非常に大きく儲けさせてもらっています。これからもこの縁を大切にさせていただきたいという、私からのささやかな気持ちです」
というミーガンさんと瑶さんのやり取りがあって、あたし達は、以前もお世話になった女神の横顔のレストランでお祝いのパーティーを開いてもらっている。
「ささ、ご遠慮なさらず、お召し上がりください。今日は特別料理を頼みましたのでお楽しみいただけると思います。お酒もエールからワイン、シードル、ミードなどの良いところをそろえています。最近新しい保管方法を導入したということで味が以前の何倍もよくなったということです。こちらも是非味わってください」
ミーガンさんの紹介に瑶さんの目つきが変わったわね。
「ほうほう、なるほど。酒は、まずは全種類を少量ずついただけますか?」
「ちょ、瑶さん、それはちょっとわがままじゃないですか?」
瑶さん、美味しいお酒が飲めないって嘆いていたけど、それはないんじゃないかしら。
「いえいえ、お気になさらないでください。小さなカップもありますから大丈夫ですよ。最近では色々なお酒を楽しまれるお客様も増えたので少量ずつ楽しんでいただけるように工夫をしてみたのです。お好みのものがありましたら、それを通常サイズのカップで味わっていただけます」
へえ、小さいカップ。エルリックの高級宿のレストラン、イコール、安全。これはチャンスかしら。
「あ、あの小さいカップってどのくらいの大きさなんですか?」
「朝未、何を……」
瑶さんが止めようとしたところで、ウェイターさんがカップを見せてくれた。
「こちらになります。よほど弱い方やお子様でも問題の無いものと思います」
それは、本当に小さなカップで、パパが日本酒を飲むときに使っていたぐい飲みよりも一回り小ぶりな感じがした。これくらいならきっと大丈夫。
「一番口当たりがよくて、酒精の弱いお酒ってどれになりますか?」
「朝未……」
「こちらの白ワインが甘口で口当たりもよく、酒精の弱く女性にもにんきがありお勧めのお酒になります」
「じゃあ、それを小さなカップに少な目にいただけますか」
「はあ、朝未。お酒はまだやめておきなさいって言っただろうに」
「良いじゃないですか、こんな小さなカップに少な目ですから。それにここなら安全にも問題ないですよね。それにあたし、多分そんなに酔わないと思うんです」
「飲んだことの無い人間は根拠なくみんなそう言うんだ。でお酒で失敗して後悔するんだよ」
「え、あたしは根拠ありますよ。ほらあたしって毒が効かないじゃないですか。きっとアルコールだって平気だと思うんです。瑶さんだってこの国に来てから酔ったことないでしょ」
根拠は瑶さん以外には聞こえないように、瑶さんの耳元でそっと囁く。
「……」
「……」
なんかミーガンさんとマルティナさんの視線が生暖かい気がする。話を変えよう。
「ところでミーガンさん。なんでミーガンさんは、エルリックで商売されてるんですか?ミーガンさんなら王都でもっと儲けられるんじゃないです?。それともベルカツベ王国の王都よりエルリックの方が栄えてたりするんですか?」
ミーガンさんはしばらく困ったような顔をしていた。
「あ、いや、言い難いなら別に……」
「いえ、別に大した理由ではないんです。実はわたしの実家は王都の商家なんです。結構な大店で、そこの長女として育ったんです」
「え、それじゃミーガンさんは王都の商家の跡継ぎ?そしたらその修行のために?」
あたしが、そういうとミーガンさんはちょっと悔しそうな切なそうな顔でうつむいた。そして顔をあげると話を続ける。
「わたしはそのつもりだったんです。でも周りはそうは思ってなかったんですね。ある日、両親に連れられ食事にいきました。そこには見知らぬご夫婦とそのご子息が居たんです」
ミーガンさんは、そこで一度言葉を切ると何かを振り切るかのように頭を振った。
「そして、両親はこういったんです。”彼がおまえの夫となる人だ。”と”妻として彼のもとで彼を支えろ”と。よく聞くと、新興の商家の主とその長子だそうでした。両親は、その新しい商家と縁を結ぶための道具としてわたしを……。商家の女子であるのなら、それに従うのが当たり前であることは理解していました。ですが、わたしは、それに従うことは我慢が出来ませんでした。そこで自ら商いを行い自立することを選んだのです」
そして、あたしに視線を向け言葉を続ける。
「そんな事情があるのでわたしは現状では王都には足を踏み入れることは出来ないんです」
「そうすると、エルリさんは……」
「エルリは、王都でわたし付きの使用人でした。ついてこなくても良いと言ったのですが、わたしを支えるのが役目だと言って付いてきてくれたのです」
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