第155話 エルリックハンターギルドにて

「依頼達成の報告に来た。確認と清算を頼む」


エルリックのハンターギルドでは当然アレッシアさんに頼むのだけど、ちょっとアレッシアさんわかってない?


「え、と、暁影のそら様?」

「えーアレッシアさん、もうあたし達のこと忘れちゃいました?寂しいなあ」


戸惑うアレッシアさんにあたしはちょっとからかってみることにした。


「えと、ヨウ様と一緒にいてそういわれると言うことは、アサミ様ですか?」

「そんなわかってもらえないなんて」


ちょっとヨヨと泣いて見せる。


「た、たしかにその赤い髪、その話し方、アサミ様、ですけど。その、あの、随分と成長され……、あ、ハンターとして極限まで成長するとその人の最適な年齢の姿になるという話が、あれ本当だったのですね。ということはアサミ様は、そのレベルまで、そういえばヨウ様も若返って……、マルティナ様は、あまりお変わりないようですが、年代的にあまり変わるような年代ではないですよね……」


オロオロするアレッシアさんとのやり取りを楽しんでいると、よこから呆れた声がした。


「朝未、そのくらいにしてあげたらどうかな。アレッシアさんお久しぶりです」

「本当に、3人ともご無事で何よりでした。あの後クリフに移動されたんですよね。そのご様子だと相当にご活躍されたんですね」

「活躍?というよりあそこは狩場が近いですからね。街の門を出てすぐから魔物の出る森なので1日の狩りの時間がエルリックの数倍取れるんですよ。しかも強い魔物が出てくるので鍛えられました。あっという間にこれです」


あたしはハンター証をみせて、チラリと視線を流す。入り口横でさっきまで睨んでいた顔が悔し気に歪んでいるわね。


「朝未、自慢話はそのくらいにしようか。それよりアレッシアさん依頼達成の処理をお願いします」

「あ、そうでしたね。……はい、間違いありませんね。報酬を持ってきますので少々お待ちください」


そういうと、アレッシアさんは奥に入っていった。


「ね、瑶さん、マルティナさん、ミーガンさんもですけど、アレッシアさんもあたしが分からなかったみたいですね。そりゃ背は伸びたし胸とかもですけどあたしそんなに分からないほど変わりました?」

「変わったというより、成長したって感じだね。朝未だって例えば10歳の女の子と半年後にあった20歳くらいの女の人が同一人物だとは思わないんじゃないかな?」

「ああ、そういう……」


確かにそれだけ年代が違えば最初から別人だと思われるのも納得ね。


「あれ?でも瑶さんは分かってもらえましたよね」

「そこは、私はもう年齢的に多少若返ってもあまり外見は変わらない年代だからだね。身長が伸びるわけでも、特別身体が大きくなるわけでもないからね」

「むう、瑶さんもマルティナさんもずるいです」

「いや、朝未の年齢でその容姿の方がずるいと思うよ」


あたしがちょっと頬を膨らませて文句を言うと瑶さんは、あたしの方がなんて言うんだもの……。


「ふふ、朝未様、男性は少し貫禄の出てくる年代の容姿を好まれる事も多いのですよ、それに対してわたし達女性は最も良い年代の容姿を維持できるのです。男性からしたらその方が羨ましいと言われるのも納得できるものですよ。しかも朝未様はお若いうちからですから、わたしからでも羨ましいです」

「むー、そんなものですか?」

「そんなものです」


マルティナさんにまで言われては、あたしも引き下がるしかないのだけど、何か論点がズレたきがするのよね。




ギルドで報酬を受け取ったあたし達は、特に用事もないのでエルリさんが迎えに来るまでギルド併設の酒場で何か飲み物でもと、足を向けようとしたのだけど、そこに声を掛けてくる人がいた。


「ちょっと待った。暁影のそらの3人、奥に来てくれるか」


ギルドの受付カウンターの向こうに立っていたのはエルリックハンターギルドのギルドマスターステファノスさん。あたし達は、顔を見合わせて首を傾げたものの、ギルドマスターに呼ばれては無視するわけにもいかず、ついていった。



「ああ、座ってくれ」

「はい」


以前も入ったことのある、内密の話をするときに使う部屋で、あたし達は、ステファノスさんの前に並んで座った。


「ここを離れてから順調なようだな」

「え、ええ、おかげさまで」

「それで、男爵級ヴァンパイアを討伐したのは、お前たちで間違いないか?」

「え?」


トランのハンターギルドで報告してすぐに移動してきたあたし達の情報をステファノスさんが持っている?


「ああ、驚かせたか。ギルド間では物を運ぶことは出来ないが、情報のやり取りを出来る魔法道具があるんだ。それでお前たちがヴァンパイアを討伐したって情報が送られてきてな。しかも報告では物理攻撃で斃したって言うじゃないか。それで確認が必要になったってとこだ」


あたし達は、お互いに頷き、事の経緯を話した。


「じゃあ、本当に物理攻撃で斃したんだな。てっきりそういうことにしただけで、アサミの聖属性魔法で斃したものだとばかり思ってたんだが」

「でも、攻撃に聖属性魔法は基本的には使いませんでしたけど、ヴァンパイアからのあれは魔眼ですかね、あたし達を従属させようとしてきたんですけど、それにはレジストしました。あ、弱めのホーリーを1回だけ使いましたね。耐えてましたけど」


あたしが、追加で説明をすると、ステファノスさんは、天井に目を向けて何かを考えるそぶりを見せた。


「わかった、ちょっとこのまま待っていてくれ。すぐに戻る」


そして、そう言い置くと部屋から出て行ってしまった。

大した時間も掛からず、戻ってきたステファノスさんは革袋を持ったアレッシアさんを伴っている。あの革袋って多めの報酬をもらう時に使うものに似てる気がする。


「まずは、ヴァンパイアの討伐に関する情報提供に感謝する。アレッシア」

「はい、これは、情報と討伐に対する報酬となります。お納めください」

「こんなに?」

「爵位持ちヴァンパイアの討伐報酬としては少ないとは思うがな、受け取ってくれ、それからハンター証を出せ」



あたし達は、全員が4級ハンターにランクアップした。3人だけでアンデッドの群れを率いた男爵級ヴァンパイアを斃すハンターが5級ではまずいということらしい。


「さすがに3級には出来ないが、4級は通常のハンターの実質的なトップだ。例の女神の雷みたいな事はもう無いと思っていい」


そして受け取った報酬は、なんと200万スクルド。庶民なら1年は暮らせる金額ね。

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