第154話 再びのエルリック

マシューさん達と別れてからは、アンデッドを含めまとまった数の魔物に遭遇することもなく順調に旅路をたどることが出来、結果として思ったより早くトランルーノ聖王国とベルカツベ王国との国境を超えることができた。


「思ったよりも順調にトランルーノ聖王国を出られましたね」


ミーガンさんもホッとした表情をみせる。


「特に昨日はあたしの探知魔法にも反応ありませんでしたし、やはりあのハンス・フォン・ゼーガース男爵というヴァンパイアを斃したのが効いたんでしょうか?」

「行きと帰りでこれだけ違うとなれば可能性は高いだろうね」

「それでもトラン近辺はアンデッドの群れが多かったのは、噂の勇者召喚の影響でしょうか」

「どうだろう。勇者召喚のために周囲の聖なるエネルギーを使ったとすれば、バランスが崩れてそういう事が起きても不思議ではないかもしれない。でも、それも憶測にすぎないからね。そうだ、ミーガンさん、過去の勇者召喚ではどうだったのか記録とか言い伝えとか残っていませんか?」


瑶さんの言葉に、あたしはミーガンさんに目を向けた。


「そう、ですね。伝承では、すべて先に魔物が大量発生したか、神託によって予告されて、その対応のために勇者召喚を行ったことになっています。ただ、トランルーノ聖王国は、ああいう国ですので事実を隠蔽してきた可能性もありますね」

「今回の勇者召喚の理由はどうなんでしょう?私達もトランで話を聞いて回ったのですが1年ほど前に召喚されて、戦力としてもとても強い3人組ということ以上には分からなかったんです。ミーガンさんなら商業ギルドあたりから情報ありませんでしたか?」

「少しだけですが、一応今回は魔物の大量発生の神託があったことになっているようです。瑶様達もハンターギルドで問い合わせをすれば、この程度の情報なら手に入ったと思うのですが」

「ああ、今回、例のヴァンパイア討伐のことがありましたので私達は出来るだけハンターギルドに近寄らないようにしていたんです。そのあたり失敗でしたね。先に情報収集だけでもしておけばよかった」


「しかし、これだけはっきりと違うと瑶様の推測もあながち的外れとは言えないかもしれませんね」

「ん?私の推測?」

「さきほど言われた勇者召喚で聖なるエネルギーを使ってしまったというところです」


ミーガンさんの言葉にあたしも納得感があるので頷く。


「魔物や魔獣は瘴気により活性化するとされています。それを聖なる力が抑え込んでバランスをとっているのだと言われています。勇者召喚が聖なる力を大きく使うものだったとするのなら、召喚を行った周囲で瘴気と聖なる力のバランスが崩れて魔物が活性化したとすればトラン中心にトランルーノ聖王国でアンデッドの出没が増加したとしても当然とも言えますから」


あれ?でも……。


「でも、それならなんでクリフでまでアンデッドの群れが現れたの?」

「朝未様、それはクリフの立地によると思われます」


今度はマルティナさんが、当然と説明を始めたわね。


「立地?」

「はい、クリフはベルカツベ王国領の辺境ではありますが、距離としてだけなら、トランにかなり近い場所にあるのです。ただ間に魔物の住む大きな未開拓の森があるため、直接行き来が出来ないだけです」

「あー、そうするとクリフのアンデッド騒ぎも収まった感じになるのかしら?」

「その可能性は高いと思います。」

「じゃあ、ミーガンさんをエルリックまで護衛したら、またクリフに行ってみたいわね」

「え、クリフにですか?」

「もともとクリフで力をつける予定だったじゃないですか。ならアンデッド騒ぎさえ収まっていればクリフに戻るのが良いと思いませんか?ね、瑶さんもそう思いません?」


「うん?そうだね。クリフの森も探索しきったとは言えないし、それもいいだろうね」



その後、ベルカツベ王国領内では、特に強い魔物が現れることもなくエルリックに到着出来た。




「エルリックまでの護衛ありがとうございました。わたしはしばらくエルリックに滞在しますが、先日のお話だと皆さんはクリフに向かわれるのですよね」

「ええ、そのつもりです」

「それでも、このまま旅立たれるわけではなのでしょう?夕食をご一緒にいかがですか?護衛成功のお礼に今夜ささやかながら席を設けさせていただきたいと思います。場所は前回お泊り頂いた女神の横顔を予定しております。確認ししだい、エルリを使いに送ります。そちらはハンターギルドでよろしいでしょうか?」

「それは、ありがとうございます。ご一緒させていただきますね。そうですね、ハンターギルドで依頼達成の報告をするので、そのまま待っていますね」

「楽しみにしております。あ、そうそう、先に依頼書にサインをさせていただきますね」


ミーガンさんから依頼書に達成確認のサインをもらったあたしたちは、ハンターギルドに報告に向かった。


「ねえ瑶さん、なんで、こうピンポイントで厄介ごとがやってくるんですかね」

「まあ、まだ厄介ごとと決まってないよ。普通に報告を済ませればいいさ。ただ、朝未もマルティナさんも1人にならないようにね」


あたしたちを睨む3人のハンターの前をハンターギルドのカウンターに向かう。へんなちょっかい出してこないでよね。

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