第144話 トラン到着
不足している品物を持ち込んだ商人とその護衛ということで、あたし達一行は問題なくトランに入ることが出来た。
「無事到着、ですね」
「ええ、護衛ありがとうございました。そして、5日後からまたお願いします」
トランに入ると、護衛依頼の達成証明にミーガンさんのサインをもらい、いったん分かれることになった。ミーガンさんは商業ギルドへ、あたし達はハンターギルドへ依頼達成の報告に行くことになっている。
ミーガンさんに教えてもらったハンターギルドの場所は門からのメインストリートを少し入ったところにあった。
「さすがに大きいですね」
「さすがは聖都と言うところだろうね」
「マルティナさんは、ここに来た事あるんですか?」
「いえ、わたしはベルカツベ王国から出たのは今回が初めてですので……」
弓と剣が支え合うハンターギルドのシンボルも何か立派に見えるわ。
「ここでこうしていても仕方ない。さ、入ろうか」
瑶さんに促されて、あたし達はハンターギルドに入った。
まだお昼過ぎだというのに、開いている受付カウンターには列ができている。あたし達は短めの列に並んで順番を待つことにした。
「瑶さん、昼間から人が多いですね」
「まあ都会で人が多いからじゃないかな」
「でも、怪我をしている人が多い気がします」
マルティナさんの言葉に見直すと確かに傷の大小はあるけど、ハンターギルドに集まっている多くの人が怪我をしているわね。
「怪我をしているのは、ハンター、なのかしら?」
「怪我をしている中でも身のこなし周囲への目配りを忘れていないところを見れば、多くは中級以上のハンターだと思います」
「中級ハンターってあんなに怪我しましたっけ?」
あたしは思わずぽつりと漏らしてしまった。初心者は自分の力も相手の力もわからず怪我をし、場合によっては命を落とす。上級ハンターはめったなことでは怪我をしない。ただし、より上位の者への挑戦によってその命を散らすことも珍しくはないらしい。そういう意味で中級ハンターは最も安定しているはずなのよね。本当の未知への挑戦は上級ハンターが行うし、自らの力も正確に把握している。無理無茶無謀を乗り越えたハンターだけが中級ハンターにたどり着くはずなの。その中級ハンターが傷ついている。それも1人や2人ではない。となれば、中級ハンターが怪我をするようなイレギュラーが多発している?
あたしは、そっと瑶さんの様子をうかがっった。
「多分アンデッドの対応に失敗してるんだよ」
「え?でもこの辺りで出るアンデッドってそんなに強くは……」
そこまであたしが口にしたところで瑶さんがあたしの口を左手でふさいだ。ちょっとムッとして瑶さんの顔を見ると、人差し指を立てて唇に当てている。あ、黙ってなさいってことだわ。何かあたしが言い過ぎそうになったから遮ったってことね。あたしがコクコクと頷くと手をはなしてくれた。マルティナさんもちょっと呆れたような顔であたしを見てるわね。
「アサミ様。おふたりがアンデッド特攻をお持ちの事をお忘れです。アンデッドの群れ相手なら中級ハンターは多少の怪我はやむを得ません」
マルティナさんが、あたしの耳元で囁くように教えてくれた。うっかりしてたわ。あたし達って武器にも防具にも聖属性をエンチャントしてるんだったわね。ちょっと周囲の感情をマインドサーチで確認。特に悪意を向けてきている人がいなかったのでほっとした。
そこからは並んでいる間は黙っていたから大丈夫。
しばらく待って、あたし達の順番になった。
「ようこそ、ハンターギルドトラン支部へ。わたしは受付のギーゼラと申します。本日のご用件は何でしょうか?」
「暁影のそらだ。依頼達成の報告に来た」
瑶さんが、依頼完了の手続きを進める。その途中ギーゼラさんが目を見張った。
「はい、では……。え、サカブスからトランへの護衛?えと、護衛人員は他に何名でしょう?」
「私達3人だけです」
「いえ、その。サカブスからトランへの街道はアンデッドの群れが多く出没して、現状ほとんど通行不能と聞いているんですが、どうやって」
「そのあたりに関して、色々と報告がある。少しばかり纏めたいので、後日報告とさせてくれ」
「は、はい、いつ頃にご報告いただけますか?」
「4、5日あれば、纏められると思う」
「わかりました。お待ちしております」
「それで、依頼達成の承認は?」
「あ、はい、こちらも問題ございません。依頼料をお持ちしますのでお待ちください」
依頼達成の手続きを済ませたあたし達は、聖都を散策している。散策しているのだけど、
「この雰囲気って明るいのか暗いのかわからないですね」
「アンデッドの大量発生で外部との行き来がほとんど遮断されて物資が不足しているようだね」
「ミーガンさんの読みがバッチリ当たったんですね」
「それ以上だよ。あの時、ミーガンさんはサカブス経由の街道が使えなくなっているからって言っていたよね。ところが実際にはサカブス経由どころか他国はおろかトランルーノ聖王国国内の移動さえままならないようだからね。今のところ食糧なんかの必需品は質や値段に目をつむればなんとかなるようだけど、それもいつまでもつか。あの感じだとミーガンさんは結構儲けたんじゃないかな」
「もうひとつ、気になる噂もありましたよね」
「勇者のことだよね」
「勇者が3人召喚されて成果を上げているって噂。あれ本当でしょうか?」
「……勇者召喚自体は多分本当だと思う。成果についてはなんとも言えないかな。国のプロパガンダかもしれないし、本当に成果を上げるほど強い勇者を召喚したのかもしれない。でも、たとえ本当に強い勇者を召喚したとしてもこの現状を少数の人間でどうにかするのは難しいと思うんだけどね」
「会って話がしてみたいですね」
「それは、多分無理かな。プロパガンダなら外部と接触を断つだろうし、本当に強い戦力なら囲い込むだろうからね。可能性があるとすれば」
「すれば?」
「戦っている現場に居合わせるくらいかな。さすがに、戦っているときになら、どんな形にしても接触自体は出来ると思うから。でも、まだ避けた方が無難だよ」
「まだ?っていうのはあたし達のハンターランクですよね」
頷く瑶さんの様子に、あたしは空を見上げた。5級じゃ、まだ上級ハンターの一角でしかないものね。国や神殿から身を守るには3級以上にならないと……。
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読者の皆さんへご連絡
今日はなんとか間に合いました。
まだリアル事情により執筆時間が取れない状況が続いています。
金曜日の更新も出来ない可能性が高い状況です。
なんとか土曜日は更新したいと思っていますが、はたしてどうなるか……
お楽しみいただいている皆さんには大変申し訳ありませんが、ご了承ください。
2021年10月13日
景空
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