第145話 トランで情報収集を始める

トランに到着した翌日、あたし達はゆっくりとした朝を過ごし、いつもより遅めに宿を出た。


「ねえ、情報収集なら別々で動いたほうが効率良いと思うの」

「ダメだ」

「どうしてですか?」

「どうしてもダメだ」

「瑶さん、ダメだけじゃ納得できません」


情報収集の一環として色々な場所を回ることになったのだけど、どうしても瑶さんが3人纏まって動くって言うのよね。


「朝未は、こういったことには、まだ経験がないだろう。一緒に動いたほうがいい」

「そりゃ経験は無いですけど、やらなきゃ経験もできないですよ。それに場所によっては女の子だけじゃないと近づけない場所もあると思うんです」


そんなやりとりを瑶さんとしていると、マルティナさんが、妙に生温かい目で見てきてるのが気になるわ。


「朝未様、瑶様のお気持ちを汲んであげてはいかがですか?」

「瑶さんの気持ち?」


マルティナさんがふふふと笑っている。


「瑶様は、朝未様が可愛いのですよ。それこそ何にも変えられないくらいに」

「マルティナさん、言い方を、誤解されるような言い方をしないでほしい」


マルティナさんの言葉に瑶さんが慌てているわね。


「誤解も何も、そうなのではないのですか?ずっと床もご一緒されていますし、わたしはてっきり……」

「違います。いや、朝未の事は大事だと思っているのはたしかだけれど言い方を考えてください。それに朝未は、まだ14歳、いや、この国の数え方なら16歳になったところです。そういうのはまだ……」

「朝未様は十分に独り立ちしておられます。成人として認められるでしょう。それにそうでなくても16歳ならもう、早い事はありません。それに朝未様は料理もお上手ですし、お2人の仲もとても良いように見えます。何が問題なのかわからないのですが」


瑶さんとマルティナさんが、何か良い争いを始めたけど、とりあえず瑶さんは、あたしを大事にしてくれているってことよね。でも過保護じゃないかとも思うのよね。あたしもだいぶ強くなったし、なによりあたしには魔法があるもの。マナセンス展開していれば悪意をもって近づいてきたらわかるから、もう少し信用してほしいな。少し主張してみようかしら。


「ね、瑶さん。瑶さんがあたしのことを大事に思ってくれているのはわかるし、それはとっても嬉しいのだけど、あたしもその辺の人には負けないくらい強くなったと思うの。だから、あたしとしては、もう少し信用して欲しいです」

「でもなあ……」


まだ渋る瑶さんに、ふと思いついたので言ってみる。


「それとも、瑶さん、あたしと一緒に下着みてくれます?ベルカツベ王国では辺境をウロウロしたせいか、ちょっとこれって単なる布じゃないの?って感じのものしか無かったんですよね。その点、ここはトランルーノ聖王国の聖都ですから少しは期待できるんじゃないかって思ってるんです。過去の勇者召喚もこの国ばかりって聞いているので、ひょっとしたらそのあたりで何かあるかもとも思ってて」

「ぐっ、わ、わかった。そういうところには朝未とマルティナさんで行っておいで。それ以外は纏まって動くよ」

「もう、それじゃ対して効率変わらないじゃないですか」


思わずほっぺを膨らませてしまった。そこで、そういえばとあることに気づいた。


「ところで、瑶さん、今更ですけど、このトランに入るときどうでした?」

「どう、というと?」

「ベルカツベ王国では大き目の街に入るときには翻訳の結界を感じましたよね」

「ああ、そうだったね……え?」

「ね、このトランは聖都であるのに翻訳の結界が無いでしょ?すんなり入れたから気づくのが遅れたけど、あの何かを突き抜ける感じありませんでしたよね」

「そういえば、感じなかったね」

「言葉を勉強しておいてよかったです。そうじゃなかったら何も出来ないところでした」

「まあ、さすがに言葉が通じなかったらそれ以前に色々とダメだろうけど。それはそれとして、情報収集に向かおうか」


情報収集と言っても、特に目を付けた場所があるわけではないので、あたし達はトランの街をぶらぶらと歩いている。


「ね、瑶さん、こういう情報収集だと酒場でっていうのが定番だと思うのだけど」

「まあ、わからないでは無いよ。アルコールで口も軽くなるしね。でもさすがに午前中から酒場でってのは無理があるかな。それに食事にも早すぎるしね。ここは、街の噂レベルから当たってみようか」

「街の噂ですか?わからないではないですけど、どうやって?」

「何、大したことはないよ」


瑶さんの提案に従ってあたし達が来たのは、露天商の集まる市場のようなところ。


「瑶さん、ここ市場に見えるんですけど」

「そう、市場だよ」

「情報収集が目的ですよね」

「そうだよ。そして、こういう市場っていうのは割とバカにできない。もちろん最終的に正確な情報ってなれば別のことも必要になるけどね」


そう言うと、瑶さんは近くの露店に足を向けた。


「こんにちは。これはどういうものですか?」

「ああ、これはヌールっていってな、普段の食事に少しずつ入れて食べると病気知らずって言われてる、それに、急に倒れた人間に食べさせると回復する薬草としても使える便利な野草だ」

「へー、そりゃ凄いですね。いくらですか?」

「1束5000スクルドだ」

「おっと、結構しますね。1回にどのくらい使うんですか?」

「回復薬として使うなら1束で1回分だな。普段の食事に入れるなら1束で10回分ってとこだ。値段はなあ、1年前なら500でよかったんだが、最近は魔物が多くて手に入りにくいんで仕方ないんだ」

「そんなにですか。それでも、保険に1束ください。国は魔物の討伐とかしてくれないんですか?」

「いまんとこは、そんな様子はないなあ。でも、勇者様が討伐を始めたそうだから、そのうちどうにかしてくれるんじゃないかって俺たちは噂してるとこだ」

「そうですか。はやいとこ勇者様が討伐してくれるといいですね」

「おう、ありがとうな。俺は大体この場所で売ってるから、何かあったらまた来てくれ」


瑶さん、あまり関係ない話から自然に引き出してきたわね。

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