第143話 トランへの道すがら
男爵級ヴァンパイア、ハンス・フォン・ゼーガースに襲われた以降はアンデッドこそ襲ってくるけれど、それはゾンビやスケルトンといった低位の実体系のアンデッドだけだった。そして、今あたし達は聖都トランまで馬車であと5日の街ウェスモンの宿の部屋で打ち合わせをしている。
「この程度なら、5級ハンターパーティー以上、6級なら複数パーティーが護衛していれば、無傷とまでは言い切れないにしても十分に移動できるのではないかな?どう思いますか、マルティナさん?」
「そう、ですね。ヴァンパイアに統率されたあの群れを除けば瑶様の言われる通りだと思います」
「となると、この街道での被害はヴァンパイアが原因だったと考えてよさそうですね」
瑶さんとマルティナさんが、トランへの街道での魔物の状況を分析しているわね。ミーガンさんにはパーティー内での打ち合わせだからと席を外してもらっている。そして、やっぱりゲームと同じで統率する上位種がいると戦力が桁違いというのは間違いなさそう。そうすると問題は……。
「活動していた上位ヴァンパイアがハンス・フォン・ゼーガースだけとは限らないのが問題ですよね」
あたしが吐き出すように口にしたその言葉は瑶さんとマルティナさんを憂鬱そうな顔にするのに十分だったわ。でも、ふたりともが否定をしないということは、ふたりともが同じことを考えていたってことね。
「さすがに、これだけ大きな問題はわたし達暁影のそらという1ハンターパーティーが抱える問題ではないと思います。ハンターギルドに報告し、国にあげてもらい対応を求めるべき案件でしょう」
「問題は、どこのハンターギルドに報告するかだけど。噂を聞いた感じではトランルーノ聖王国での報告は悪手な感じなんだよね」
「でも瑶さん、あまり時間をおいて報告するのも手遅れになる可能性が怖くないですか?」
しばらく天井を見上げていた瑶さんが口をひらいた。
「トランのハンターギルドで報告して、さっさとトランを離れる。ミーガンさんがトランにどのくらい滞在するかにもよるけど、場合によってはミーガンさんの護衛はそこまでにさせてもらうことも考慮しないといけないかもしれないな」
「瑶さん。そこは大丈夫じゃないですか?サカブスでミーガンさんが、話してくれたじゃないですか。居心地が悪いから短期間しか滞在しないって」
「そういえば、そんなことも言っていたね。じゃあ、ミーガンさんの予定を聞いてそれに合わせて報告。ミーガンさんの護衛としてトランルーノ聖王国を離れるという流れかな。まあミーガンさんから護衛依頼があればだけどね」
翌日、ウェスモンの街を出たところで瑶さんが馬車の中のミーガンさんに声を掛けた。
「あと5日ほどでトランに着くわけですが、ミーガンさんはそのあとどうされる予定なんですか?」
「そうですね。できれば5日くらいでさっさと売り買いを済ませて、ベルカツベ王国に戻ろうと思ってます」
「戻りの護衛は、予定ありますか?5日後くらいであれば、当てがあるので無ければ、よろしければ私達もベルカツベ王国に戻りながら護衛させてもらいますが」
「それは助かりますが、良いんですか?5日っていうのは、ハンターにとってはちょっと中途半端な時間でしょう」
「いえいえ、噂が本当なら私達も活動しにくそうですし、休息がてら観光するのにちょうどいい期間です」
「では、一応トラン滞在5日予定で、そのあとサカブス経由でエルリックまでいいですか?」
「エルリックまでですか……。わかりました。それでよろしくお願いします」
エルリック。護衛だけなら多分大丈夫よね。
「瑶さん。エルリックだと……」
「わかってるよ。でも、辺境伯領の領都でもあるし、最終的にヴァンパイアの件の報告をするにも多分一番良いと思うからね」
「え?トランでは報告しないんですか?」
「ふふ、ちゃんとトランでも報告はするよ。ただし、トランを離れる直前にね。トランルーノ聖王国の国や神殿に絡まれるのは得策じゃないから、そういったところが動く前に離れるようにするからね」
そんな話をした5日後、トランルーノ聖王国の聖都トランの巨大な城壁が見えてきた。
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読者の皆さんへご連絡
今日はなんとか間に合いました。
昨日もご連絡いたしましたが、10月11日から1週間リアル事情により執筆時間が限られる状況となりそうです。
そのため、通常より更新が減る可能性があります。
お楽しみいただいている皆さんには大変申し訳ありませんが、ご了承ください。
2021年10月10日
景空
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