第139話 トランへ向かって

「おはようございます」

「おはようございます。朝未様、瑶様。トランまでの護衛よろしくお願いいたします」

「ミーガンさん、依頼主様なんですから、もう少し普通にしてください」


あの後、護衛依頼の内容を一応確認ということでミーガンさんと打ち合わせをしたのだけど、食事の提供については、エルリックからグライナーへの移動時に護衛をしたマルタさんと偶然に話をする機会があって、その時にあたし達が護衛をしたことや、その時の様子を話した中で知ったということらしい。エルリックを通商ルートに入れている商人同士ということで知り合いではあったからそういった話も気軽にしたということなのね。


「では、行きましょう。一応調査結果として、南側の方が魔物が少ないことがわかっています。街道の南半分を使って移動するようにしてくださいね。それと、昨日の打ち合わせの際にもお願いしましたが、私達の戦闘行為については秘密にしてください」

「ええ、もちろんですとも。恩人のそれもハンターの秘密を漏らすなどしませんとも。トランに無事につくのは運よく非実体系のアンデッドに襲われることが無かったからですね」


瑶さんが念のためと改めてミーガンさんに口止めをしている。


「そういえば、打ち合わせの時にはわざわざ聞きませんでしたけど、ミーガンさんはトランルーノ聖王国にもよく行かれるんですか?」

「そう度々ではありませんが、年に1度程度ですね。あまり居心地のいい国ではありませんから」

「それでも行かれるということは……」

「そう、ですね。軍というか聖堂騎士団ですが、を中心に金回りだけは良いので比較的高価なものを持ち込んで短期間の商売をする感じです。今回も滞在は5日からせいぜい10日程度を考えています」

「そこまでですか。ちなみに居心地が悪い理由をお聞きしても?」


ミーガンさんは、ちょっと目を泳がせ躊躇ったあと、そっと口をひらいた。


「その、何かと言うと神の御心がとか、神のご威光がとか言い出すんです。窮屈すぎて商売もやりにくいんです」

「それほどに厳格なんですか?」

「いえ、厳格なのではなく、自分達の都合の良いように言い換えるだけですね」


ああ、それは窮屈ね。いつも神殿関係者のご機嫌を伺っていないといけないってことでしょう。しかも勇者召喚疑惑もある国だものね。あたし達も気を付けないと。

そんな話をしながらもトランへ向けて移動する。基本的にトランへのメインルートの街道を使うことになっていて、5日に1度程度は途中の街で宿をとる予定。

サカブスを出てすぐにあたしの探知魔法に反応があった。


「瑶さん。マルティナさん。探知魔法に反応です」

「敵かな?」

「いえ、場所は少し先の街道なんですけど、これは人かしら?数は反応としては16ですが、あまり強そうではないですね。敵意もなさそうですが」

「まあ、敵意がないならとりあえずは無視で良いんじゃないかな?一応警戒はしておくにしてもね」


そしてしばらくすると2台の馬車と、その周囲を囲むように護衛らしき人が立っていた。こんな中途半端な場所で止まっているってどういうことかしらね。


「よう、そっちもトランまでかい」


護衛らしき人たちの中の一人が声を掛けてきたわね。でも、これってあたし達が返事していいもの?


「ああ、わたし達の目的地はトランですよ。そして、そういう言い方ということはそちらもってことですか?」


あたし達が黙っていると、ミーガンさんが仕方ないという感じで返事をしてくれた。


「ああ、そうなんだよ。で、どうせならキャラバンを組まないかって事でここで待ってたんだ」


ん?変ね。そういう事は雇い主が交渉することじゃないかしら?


「そっちの雇い主の意向かな?」

「ああ、そうだ。キャラバンを組んだ方が安全性が上がるからな」

「ということですが、暁影のそらさんとしては、どう判断されますか?」


ミーガンさん、そこでいきなり振ってくるのは困るわ。こういうのは瑶さんにお任せよね。あたしは瑶さんにアイコンタクトでお願いしてみた。


「私達としては、この街道の現状からすると少数で動く方が安全性が高いと考えている。なので私達暁影のそらとしてはキャラバンを組むことには賛成できない」


仕方ないと、瑶さんがした返事はキャラバンへの参加を否定するもの。


「と言う護衛のハンターの判断を尊重して、わたし達は、別で移動させていただきます」


その護衛達は不機嫌そうな顔をしたけれど、それ以上は何も言ってこなかった。


「多分あれは、あなた方が5級ハンターだと知っていて寄生しようとしている感じだと思います。無視でいいでしょう」


ミーガンさんの言葉を裏付けるように、2台の馬車が後ろからついてくる。

これは面倒ね。


「瑶さん。このままの移動は好ましくないですよね」

「かと言って、ついてくるなって言えるものじゃないだろう」


仕方ないわね。今までやったことはないけど、提案してみようかしら。


「瑶さん。馬に強化魔法掛けて先を急ぐのはどう思います?」

「馬にも掛けられる?」

「ええ、多分ですけど」

「ちょっとミーガンさんと相談してみよう」


そう言うと瑶さんはミーガンさんと相談に行ったけど、ちょっと浮かない顔で戻ってきた。


「ミーガンさんが言うには馬車がもたないんじゃないかって」

「なら、あたしが馬車にエンチャントします。そしたらいけるんじゃないですか?」

「馬車にエンチャントって、できるの?」

「多分ですけど」

「わかった。ミーガンさんに許可もらってくるね」


馬への強化魔法と馬車へのエンチャントの効果でかなりスピードを上げることが出来て、少なくともあたしの探知魔法の範囲には入らない程度に引き離したところで普通の速さに戻した。


「朝未様、あのまま次の街まで行くわけにはいきませんか?」

「やめた方が良いと思います。馬車の走る音が結構大きかったですから、遠くから魔物を呼ぶ可能性があります」

「え、それじゃ……」

「ああ、今のところは大丈夫ですよ。でも魔物が多いエリアで大きな音は避けたいですから」


ミーガンさんが納得してくれたところで、そこからは普通の速さでいどうした。







幸いなことに追いつかれることなく進み、2日目までは、ゴブリンやオークの群れを日に1回ずつ撃退する程度だった。


「ここまでのところは特に問題なく来られましたね」

「い、いえ。この辺りの街道にゴブリンやオークとはいえ魔物が出ることなど、これまでであればほとんどありませんでした。昨日今日とゴブリンやオークの群れに2日連続で襲われたこと自体が異常です。それに群れの規模も20体を超える群れなど、この街道沿いでは聞いたこともありません」

「とは言っても、恐らく距離的に今晩から明日あたりが最初の魔物の襲ってくるピークだと思います。魔物が現れた時にはミーガンさんは馬車の中でじっとしていてくださいね」


ミーガンさんと瑶さんの交わす言葉からして、夜の見張りと明日の探知が重要そうね。

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