第140話 ミーガン護衛。対アンデッド戦。

「瑶さん、マルティナさん、探知魔法に反応です」


その晩、あたしが最初の見張りについて2時間くらい経った時、あたしの探知魔法に反応があった。北側からゆっくりだけど間違いなくまっすぐこちらに向かってくる。


「敵かな?」

「多分。向かってくる位置、反応の強さからしてグール、スケルトンナイトあたりだと思います。シャドウも多分。北側から26体がまっすぐこちらに向かってきています。このままなら30分後くらいにこちらにつくと思います」

「わかった。朝未は、戦闘直前に補助魔法とエンチャント、その後、森の中5メートルあたりにライトを5か所頼む。私とマルティナさんは、森から出てきたところで迎え撃つよ。あと魔法は火属性とホーリーは出来るだけ避けて風属性中心で。マルティナさん、ミーガンさんに報告を、私は、森の中に少し罠をしかけてくる」


「わたしへの報告はいりません。聞こえていました」


準備を整えてマルティナさんがミーガンさんに報告に行こうとしたところでミーガンさんが馬車から出てきた。


「聞こえていたのなら、説明はいいですね。ミーガンさんは、戦闘中は馬車の中に隠れていてください。あ、朝未、戦闘に入る前に馬車の中に外に光が漏れない程度でホーリーを……」


準備を整えて、待ち構える。そこにガサリと藪が揺れて瑶さんが戻ってきた。


「ただいま。森の中に簡易の罠を仕掛けたから森には追い討ちするのでも入らないようにね」


あたしは瑶さんの言葉に頷き、補助魔法を掛ける。さらにまずマルティナさんの武器防具に続けて自分の武器防具にエンチャント掛け身構えた。


「右の太い木の右側から1体目、その左側から2体目来ます。3体目は、その木から左に2本目と3本目の間からです。10秒後にライトを使います、そのまま来ればその2秒後にゾンビが突入してきます。ライトを使うまであと5秒、4秒、3,2,1、ライト」


続けて、あたしは馬車の守りのために馬車の中にホーリーを発動させる。


「ミーガンさん、その光の中は安全です。その中からでないようにしてください」


森に目を向けると、アンデッドの群れがあたしのライトの光に照らし出されていた。微妙に動きが鈍いように見えるのは、ライトにも聖属性が乗っているからかしらね。それでも、アンデッドの群れはじわじわとこっちに向かってくる。奥で3体ほどが何かに足を取られたように転がった。あれは瑶さんの仕掛けた罠ね。多分草を結んで輪にしただけの簡単なものなのだろうけど、こういう時には十分な効果があるわね。


最初の1体が森から出てきた。即座に瑶さんが剣で切り捨てる。瑶さんの聖属性魔力ののった剣戟を受けたゾンビは、その場で崩れ落ちた。2体目の頭をマルティナさんの槍が貫くと、こちらもあたしが乗せた聖属性魔力によって魔石を残して消え去る。あたしも風属性のエアカッターを飛ばす。聖属性の乗った魔法が奥にいたスケルトンを切り裂き、その場で塵にする。


動きの遅い下位アンデッドは、多少数が多くても油断さえしなければあたし達には大した脅威ではない。

瑶さんの剣の一振り、マルティナさんの槍の一突きがアンデッドの群れを削り取る。あたしの聖属性ののった魔法の前にスケルトンナイトがまとめて崩れ落ちる。あとで魔石を拾いやすい位置で斃すように場所を選ぶ余裕さえあった。

あたし達は短時間でアンデッドの群れを殲滅していく。

そして、最後のレイスを瑶さんの剣がかき消した。


あたしは、撃ち漏らしを確認するために展開したままの探知魔法に意識を向け、違和感を感じた。


「何かしらこの感じ?」

「朝未、どうかした?」

「いえ、探知魔法に何か違和感があるんです」

「違和感?」

「ええ、何か、まるで陽炎を見ているような、揺らめく水を通してガラスが探しているような……」


あたしが、違和感のもとを感じる木に近づき手を伸ばしたその時、何か魔力を纏ったものが、あたしのリフレクにぶつかり破壊し跳ね返った。


「ぐわっぁあ」


違和感のもとだった木の横に男の人が弾かれるように現れた。

瑶さんとマルティナさんが、咄嗟に武器を構える。あたしは、いったん剥がれたリフレクを掛けなおして、その男の人の様子をうかがい、声を掛けた。


「あなたは、誰です。なぜいきなり、あたしに攻撃をしてきたんですか」

「貴様たちは何者だ。我が眷属を瞬く間に駆逐し、あまつさえ我が力をはじき返すとは」


あ、これって話が通じない人かしらね。それに今何か妙な事を口にしたわね。


「眷属?」

「我が、不死の眷属を切り倒すのでも、砕くのでもなく、滅ぼした。人であれば神官にも出来ぬはず」


何これ?アンデッドを眷属と呼ぶなんて。


「まさか、知性を持つアンデッド?」


あたしの言葉にその男の人はピクリと反応した。瑶さんとマルティナさんが、警戒してくれているから、もう少し探ってみようかしら。


「やはり、貴様らは危険だ。我が王の偉業のために屍を晒してもらおう。そしてその力、我ハンス・フォン・ゼーガース男爵が、アンデッドとして蘇らせ大いに主の役にたたせてやろうぞ」


そう言ったとたんに、背中に蝙蝠の羽が生え空に飛び見下ろしてきた。


「やっぱりヴァンパイア。瑶さん、マルティナさん、こいつヴァンパイアです。エナジードレインに気をつけてください」





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作者の自白コーナー

読者の皆さん、いつも拙作「JC聖女とおっさん勇者(?)」をお読みいただきありがとうございます。

実は、このお話は実験作と位置付けて執筆しております。

書き方も(自分としては)変えています。

実は私は従来のお話におきましては、世界設定、大きなイベントおよび大まかな話の流れ、そして最終的なエンディングを決めたうえで書いてきました。(最終的に変更したこともありますが)

しかし、この「JC聖女とおっさん勇者(?)」につきましては、基本的な世界設定以外は一切決めずに行き当たりばったりで書いております。それこそ、極端な話、今回のヴァンパイア登場さえ、その3行前まで考えておりませんでした。

少し前に書いた勇者召喚の歪みによってアンデッドが活性化した設定も、その話を描いている途中で決めたことだったりします。当然エンディングも決めておりません。

そんな書き方をしておりますので、このお話がどんなところに辿り着くのか作者としましても一切見通しの無いお話です。

きっとあっちにフラフラ、こっちにフラフラしながら流れていくお話になると思います。

そして、実はこれ作者として書いていて面白い。書き手でありながら、この先どんな展開になるのかワクワクしながら書いています。

そんな今作ですが、皆さんにも楽しんでいただけるよう頑張っていきます。

よろしくお願いいたします。

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