第138話 調査報告

結局あたし達はハンターギルドからの依頼を受けることにした。


依頼内容は10日間トランルーノ聖王国との国境までのルート周辺でアンデッドの出没状況を調べること。さすがに国境を越えた場所までの調査はハンターギルドサカブス支部の権限では難しいらしい。


マルティナさんのアドバイスで5級ハンターの活動範囲を想定して調査を進めてている。


「ね、瑶さん。これってクリフと一緒じゃないかしら?」

「うん、そんな感じがするね。浅いエリアには基本的にはゾンビとスケルトン、それに通常の魔物。少し入るとグールやスケルトンナイトに加えシャドウだからね」

「となると、もう少し入るとやっぱりレイスが追加されるんでしょうね」


「そうすると、おふたりの予想としては、その奥にはやはり?」


そして、あたしと瑶さんのやり取りを聞いていたマルティナさんが口をひらいた。


「いる可能性高そうですね。スペクターやベン・ニーア」

「そうすると、ギルドへの報告は……。いや、なんにしても確認してからだね。クリフの北の森よりは数も少ないし、スキをついて調査したと言えばある程度は通るだろうから事実を伝えても多分大丈夫だろう」





そしてあたし達は、10日にわたる調査の結果を報告するためにハンターギルドに来ている。場所は内容が内容のため以前打ち合わせをした奥の部屋で、報告相手はギルマスターのアレクセイさんとサブマスターのエレーナさんの2人だけ。


その2人はあたし達の報告を聞いて頭を抱えている。


「ゾンビやスケルトンだけならともかく、日帰りできるエリアにシャドウにレイス、その上スペクターやベン・ニーアまで……」

「まあ、昼間なら奥に入らなければゾンビとスケルトンの相手だけで済むだろう。あまり大げさな音を出さなければではあるけどね。もし、奥の魔物の気を引くようなことをしたら……わかるよな」

「あ、ああ。シャドウにレイス、スペクター。そんな魔物に襲われるなんざ悪夢も良いところだからな」


それにしも、とアレクセイさんはつづけた。


「お前たちは、平気だったのか?」

「まあ、私達はクリフで慣れてきたから」

「非実体系のアンデッドってのは慣れで済むような魔物じゃないと思うんだが」


疑い深そうな視線をあたし達にむけたアレクセイさんだったけれど、何も言わないあたし達の様子に諦めたのでしょうね、ため息をひとつついて、つづけた。


「ハンターの内情に踏み込むのは得策じゃないだろうな。特にお前たちのように行きがかり上関わっただけのハンターならなおさらだ」


「で、一応、これで依頼達成で良いかな?」

「ああ、十分だ。しかし、これだと護衛として対応できるハンターは……。単独パーティーでは無理だろうし、対アンデッドとなると数を増やすだけでは……」


アレクセイさんが頭を抱えてうなっているわね。あ、そういえば瑶さんは言わなかったけどひとつ追加しておいた方がいいかしら。


「最後にひとつ。北側の方がアンデッド多かったですよ。街道でも少し南寄りを通った方が安全性高いかなと思えるくらいに」



あたし達は、部屋を出ると、ミーガンさんが指名依頼を出しているはずだから、確認をするため受付カウンターに向かった。


「ようこそ。ハンターギルドサカブス支部へ。ご用はなんでしょうか」

「暁影の空だ。指名依頼を出すと言われたんだが、入っているか?」


瑶さん、カウンターではにこやかな受付のお姉さんに対して相変わらず不愛想な言葉遣いね。


「確認します。少々お待ちください」


受付のお姉さんは、瑶さんの言葉に一度席を離れた。

そして、後ろにある棚を少し確認して、入っていた依頼書を持って戻ってきた。


「こちらですね。依頼人は商人のミーガン様となっております。お話を聞かれていた方で間違いありませんか?」

「間違いない。で、一応内容を確認させてくれるか」

「はい、依頼内容は、ここサカブスからトランルーノ聖王国の聖都トランまでの護衛となります。見込まれる護衛期間は20日ほど。リスクは通常の盗賊や魔物の他、現状ではアンデッドによる襲撃が予測されます。報酬と待遇は、ここに記載のと、お、り?あら?間違いかしら。宿に泊まった場合以外の食事の提供依頼も一緒に入ってますね」

「なるほど、よく検討させていただきます」

「暁影のそらさんは3人パーティーですよね。いくら全員が5級とはいえ、個人的には、現状からすれば避けた方がよさそうな依頼だと感じますが……。いえ、これは余計なひとことでした。十分にご検討ください」



一度サンドイッチを御馳走したことくらいはあったけど、ミーガンさんに食事の提供を依頼されるほどの事ってしたかしら。


「朝未。ミーガンさんに食事の提供ってなると基本的には朝未に頼むことになると思うんだけど。大丈夫かな?」

「え?ええ、別にそのくらいは平気ですよ。以前と比べてマジックバッグもありますから材料に困ることもないですし」

「いや、朝未だけ料理の手間とか……」

「平気です。あたしって料理するの好きなんで。知ってるでしょう。それに洗い物だって今では魔法で一瞬ですから。でも、ミーガンさんにまともな料理をふるまったこと無いと思うんですけど、それでいて料理も依頼って事の方が不思議です」

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