第73話 また?
「あれは、なんとか大丈夫そうですね」
「そうだね。さすがは5級ハンターパーティってところかな」
あたし達の視線の先には1つのハンターパーティが変異種を含むゴブリン10体の群れと戦っている。そのパーティは、今回の魔物討伐に参加している唯一の5級ハンターパーティ『女神の雷(めがみのいかづち)』。ハンターには珍しい盾持ち、2メートル近くある巨躯の両手剣使い、小柄で動きが素早くその体躯に似合わない槍を振るう女性、小さめの弓で矢を連射する細身の弓使い、その4人をまるで手足のように連携させる片手剣使い?いえあれは俗にいうバスタードソード片手でも両手でも使える剣ね。
あたしが言うのもなんだけど、今まで見たハンターとはまるで違うわ。ひとりひとりのレベルも高い上に連携も良いわね。
戦い方はあたし達と違ってじっくりと削っていくタイプのようだけど。その分無理をしないし安定しているように見えるわ。もとの世界のネトゲの廃人パーティのような巧みさだわね。
「援護を要請されることも無さそうですね」
「ああ、あれはアクシデントにも強いパーティに見えるね」
あたしと瑶さんは頷き合ってニコリと笑顔を躱した。
「じゃあ、私達は私達で行こうか」
「はい」
そうしてあたしと瑶さんは、その場を離れたの。
そしていつものように討伐のために森を進んでいった。
「瑶さん、探知魔法に反応です」
「数と方向は?」
「左前方、多分ゴブリンの群れです。数はもう少し近づかないと」
「わかった。数と特に変異種がいないかを確認して」
「はい」
木や茂みに隠れながら慎重に進み、一番近いゴブリンまでおよそ20メートルになったあたりで群れの規模に確信を持てたので瑶さんの肩を軽く叩いて合図をする。
「ゴブリン9体。変異種はいません。ただし、少し離れた場所にオークの群れがいるようです。ゴブリンの群れを討伐するなら短時間で済まさないとオークの群れが乱入してくる可能性があります」
「オークの群れの規模は?」
「ちょっと距離があるのではっきりとは分かりませんけど、今までの群れとの比較からすれば10体前後と思います」
「変異種は、分からない……か」
「はい、ちょっとこの距離だと。でも多分動きに統制がみられないので多分いないんじゃないかと思います」
「オークの群れはゴブリンの群れのどっち方向にいるかな?」
「ゴブリンの群れの右後方ですね。一番近いオークがここから40メートルくらいです」
「そうすると、ゴブリンの群れに攻撃すると、まず間違いなくオークは気付きそうだね。そうすると朝未のよそうだとゴブリンとオーク合わせて約20体と連続戦闘になる可能性が高いってことだね」
「はい」
「もうひとつ、周囲に他のハンターがいる気配はあるかな?」
しばらく考えた後、瑶さんが他のハンターについて聞いてきた。多分、これ以上目立たないためよね。なんとなくもう手遅れ感があるのだけど。
「いえ、探知魔法で分かる範囲にはハンターはいません」
「じゃあ、朝未。出し惜しみは無しでいこう。私は左側のゴブリンから狙う。朝未は左から4番目から順に右へまずは弓で、そのあとは剣と魔法を使ってもいい。あ、ただし全力のホーリーだけは使わないようにね」
瑶さんが顎を擦りながら少し考えたあとあたしに方針を伝えてきたわね。これは最短で殲滅するってことね。
あたしは頷きを返し、補助魔法をあたしと瑶さんに掛け、弓を構えた。
あたしの射た矢がゴブリンの頭に突き刺さり、そのゴブリンがその場に崩れ落ち、それを合図に瑶さんが駆け出す。そこからは流れ作業のように進んだの。
あたしの弓で2体が崩れ落ち、瑶さんが左側から切りこんでいったわ。あたしは右手に短剣を持って近接戦闘に備えながら魔法を使って攻撃をした。魔力をほんの少し多めに込めてゴブリンの頭を狙う。
瑶さんが剣で右から来たゴブリンの首を飛ばした。スキを突くように左から別のゴブリンがこん棒で瑶さんに打ちかかった。瑶さんは左手に持った短剣でその攻撃をいなし、次の瞬間には右手の長剣を振るって首を切り離す。
少し離れたところからオークが石を投げようとしているわね。そのオークの頭にあたしのファイヤーアローを放つ。
それからも、近づいてきた敵は瑶さんが、離れたところにいる的にはあたしが魔法を放って僅かな時間で戦闘は終わったわね。
「ゴブリンが9体に、オークが14体か。結構多かったね。朝未はケガは無い?」
「ええ、こん棒を使ったり石を投げたりしてくるだけでしたから。補助魔法で上がった防御力を超えるようなものはありませんでしたね」
「今回は、魔法も使ったけど、魔力の残りは?」
「そう、ですね。半分までは減ってない感じです。今と同じ程度なら大丈夫そうです」
「そうか、でも一応休憩を入れよう。少し戻ったところで食事をしながら休もうか」
あたし達は30分ほど来たルートを戻ったところで腰を下ろして休憩することにしたの。
「はい、瑶さん。あたし特製のお弁当です。って言っても日本とは材料も調味料も違うので、あまり美味しくは出来ませんでしたけど」
どうにか手に入れた小麦で無発酵パンを作って、街で売っていた肉を薄切りにして塩で焼いたものを挟んで間に合わせで作ったサンドイッチを瑶さんに渡した。
「いや、十分に美味いよ。朝未ありがとう」
「それと、お水を」
あたしは木のマグカップに生活魔法ウォータで水を満たし瑶さんに渡したの。
「ありがとう。……これは」
あたしの渡した水を飲んだ瑶さんが目を見張った。
「身体の疲れが一気に消えた?朝未、この水は?」
「聖属性魔法書の片隅にかいてあったんです。聖女がウォータで出した水は、状態異常から回復させる効果があるそうなんです」
「つまり疲れも状態異常の一種って扱いってことなんだね」
瑶さんの言葉に、あたしはそっと頷いた。でも、あたしの予想が正しければ瑶さんは、この水をそれほど必要としないと思うのよね。
そんな具合にあたし達が、くつろいでいるといきなり悲鳴が響き渡った。
「きゃあぁぁあ」
また?
あたしと瑶さんは顔を見合わせると悲鳴の聞こえた方向に駆けだした。
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