第56話 依頼

「うーん、探知魔法発動したまま補助魔法を切らさないように気を付けて、攻撃魔法を使うと今のレベルでは初級魔法でもちょっと魔力を込めて撃つと短時間には5発、多少のインターバルを入れても1回の戦闘中に使えるのは20発くらいまでかしら、それ以上は魔力がもたないわ」

「うん、魔物の群れがどのくらいの数か、魔法耐性がどのくらいかにもよるけど、余程の大きな群れだったり、お代わりが来ない限り行けそうかな」


あたしも同じ感想を持ったので頷いた。


「でも、出来るだけ弓で処理した方がよさそうかしらね」

「あとは、浅い場所から少しずつだね」

「そうすると、あの依頼は……」

「ギルド経由の直接の依頼だからね。多分私達のランクを上げるために斡旋してしてくれた部分もありそうだし受けよう。討伐数も規定されていないし、討伐対象も魔物という括りだけ。期間も長めだし成果なしってことにはならないだろうからね。何よりこの世界の中での魔物の強さを測るのに向いているだろうから」

「でも今回の討伐対象はゴブリンやオークで魔物の中では最弱って話じゃ……」

「もちろん。でもいきなりボスと戦うわけにはいかないからね」


あたしは瑶さんをジーっと見てひとこと。


「瑶さん。実はゲーマーよね」


あ、目を逸らしたわ。


「別に隠すような事じゃないと思うのだけど」


他にもアニメとかサブカル分野にも多少の知識あるわよね瑶さん。今は言わないでおいてあげるけど。クフフ。


「ま、今日のところはこれくらいかな。エルリックに戻って依頼の受諾処理をして、出来るだけ細かい情報を集めてって言ってもアレッシアさんに聞くしかないんだけどね」


瑶さんは自嘲するかのように苦笑しながら、今度はあたしと自分にアクセルを掛けたわ。


「街の外からは用が無いならさっさと引き上げた方が良いから。まあ朝未のアクセルより効果は少ないけど」


なにか言い訳っぽいわね。これは多分ゲーマー発言から話題を変えるのに必死ってとこかしら。あたしみたいな子供にカッコつけなくてもいいと思うのだけど。ううん、というよりこれだけの期間バディとして過ごしてきたのにその程度のことを隠さなくても良いのに。別にあたしはゲーマーを下に見るタイプじゃないし、仮に日本に居た頃にゲーマーを下に見ていてもきっと瑶さんなら受けれる自信あるのにな。


「アレッシアさん、例の依頼受けます。なのでわかる範囲の情報をください」


あたし達は瑶さんのアクセルの効果のなかランニングでエルリックまで戻った。行きは歩きで2時間半ほど掛けたおよそ10キロの道のりを高性能になった身体能力に瑶さんのアクセルの効果で15分ほどで駆け戻れたのには少しばかり驚いたわ。それだけのペースで走って息も切れないって、もう日本にこのまま帰ったら大変なことになるわね。




「あ、受けていただけることにされたんですね。ありがとうございます」

「いえ、内容を聞いてから判断させてもらいます。条件も聞かずにうけるのはさすがに」

「あ、そうですね。そうですよね。すみません。きちんと説明させていただきますね」


アレッシアさんに聞いたところ、今回の魔物の討伐依頼は領主から出ている依頼で魔物が人の生活領域の近くで確認されると領主の責任として討伐依頼がだされるらしいのね。


今回は、エルリックの北、徒歩で5時間くらいのエリアにゴブリンが10数体とオークが数体確認されたために討伐依頼が出たそうなの。


「え?たったそれだけの数のために領主から依頼が出るんですか?」


そんなあたしの疑問にアレッシアさんは微妙な笑顔を見せたの。


「その、ゴブリンやオークは1体みたら30体は隠れていると思えと言われる魔物なので、今回確認された数からすればゴブリンが300から500体、オークも100体以上が人の領域に侵入していると思われるんです。」


なにそれ、それなんてG?ラノベの中でよく使われるフレーズをあたしが思い浮かべるようになるなんて思わなかったわ。


「えと、それだと何をもって討伐終了って決めるんですか?」

「討伐依頼を受け、討伐に向かったハンターが一定期間討伐部位を持ち込まなくなった時点で終了となります。ある意味簡単ですね」

「いや、それだと依頼を受けると完了判定が出来なくて報酬の受け取りとかに影響が出るんじゃないですか?」


あたしの素朴な疑問にアレッシアさんが気軽に答え、瑶さんが困惑してるわね。


「その辺りは大丈夫です。この魔物討伐は長期間にわたる事も多いため、ハンターにもある程度の自由を認めています。例えば報酬は討伐に出られた日数当たりの最低日当と討伐部位を持ち替えられた分への討伐報酬でなりなっています。もちろん無責任にうけられてもこまるため最低10日または討伐完了判定が出るまで討伐に参加していただくことが条件ですが、それ以上の縛りはありません」

「なるほど、あとはその報酬額ですね」

「はい、まずは日当ですが、8級で1人1万スクルド、7級で1万5千スクルド、6級で2万スクルドとなります」

「ふーん、ランクによってだいぶ違うんですね」

「ええ、実際のところ通常期待される戦力比としてはそれ以上に違うのですが、さすがにこれ以上の差をつけるわけにはいかないというのが実情です」

「だから通常は6級ハンターに依頼するんですね」

「ただ、ヨウ様とアサミ様の場合は日当よりも討伐数で稼げそうという面もありお声がけさせていただきました」

「討伐数ですか?」

「ええ、討伐報酬、ゴブリンが1体1500スクルド、オークが1体2000スクルドなんです。これを標準的な8級ハンター5人パーティーで討伐するとゴブリンあたりで日に5から10体くらいなんですね。10体討伐しても1人当たり日当1万スクルドに討伐報酬3000スクルドとちょっと冴えないんですよね」

「まあ、一応命がけでそれじゃなあ」

「でも……」


瑶さんの言葉にアレッシアさんが意味深な視線をあたし達にむけたわね。

ああ、これは探知系の魔法も気づかれてるわね。先に見つけて先制攻撃して殲滅すればいいくらいに思っていそうだわ。

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