第51話 聖女と魔法の練習
午後いっぱい使って、生活魔法を発動させては中途半端で止めるを繰り返して練習をしたの。だってライトは付与物をふわふわと浮かべるし、ウォータで生み出した水は何かキラキラとして神々しいし、クリーンは自分に掛けたはずなのにあたし自身は変わった感じなくて周りに何かキラキラと降ってくるし、イグナイトは他の人に見せてもらった炎がオレンジ色のいかにもな炎なのにあたしのは青白くて違うし、どの生活魔法を使っても完全に発動させると厄介ごとが寄ってきそうなのよ。
「朝未はもう聖女路線でいくしかないんじゃないか?」
なんて瑶さんは横で苦笑してたけどさ。
そういう瑶さんが生活魔法を一通り普通に発動に成功させていたのは納得のいかないところなのよね。
「生活魔法は、最終的に今日のうちに成功したことにして、いえ、一応元々成功していたんだけど他人に見せられないような発動をしただけで」
なんで生活魔法程度があんなものになるのかあたしはため息をついて頭を抱えてしまった。
「でもきっと属性魔法なら大丈夫よね」
「そうだね。朝未は聖属性魔法に特に適性がありそうだからそっちを練習しているのを見せるのが良いかもしれないね」
それも問題なのよね。聖属性魔法って回復や補助に優れ邪悪なるものを祓うと言われる魔法。瑶さんが言うように確かにあたしに適性があるのは間違いなさそうだし、とても便利で有効な魔法なことは間違いないのだけど。
「ヒール」
あたしの唱えた発動句と共にふわりと温かい何かがあたしの手を包む。これはこの世界の魔法について何も知らなかった時『早く良くなりますように』とおまじないをしたときと同じ。
どうやらあたしは無自覚にこの世界で言うところの『ヒール』を発動していたみたいなのね。
そして、この聖属性魔法ってとても使い手が少ないらしいの。特にこの前あたしが使った『ハイヒール』あたりになるとほとんどは神官なんかの神様関係者。そうでなければ王家関係ね。
本当に極々まれに一般人の中にも使える人が現れることもあるそうだけど。そういうことがあるととんでもない大騒ぎになるそうなのよね。ほら王家の誰それのご落胤とかいうやつね。あたしは日本からの転移者だからそういうのとは無関係なのは確かだけど、それを証明するのは難しい、というよりそっちの方がどうやら厄介みたいだもの。
『聖女』本当に面倒。異世界からの転移者で聖属性魔法を使える女の子は、これまでも何人かいたらしいのだけど。そのすべてが練習なく聖属性魔法を行使し、聖女以外には使えない高位の聖属性魔法を使ったそうなのよね。異世界転移者の女の子でも聖属性魔法を使えない人もいたそうだけど、こちらも例外なく特別な能力は持っていたらしいのよね。
ああもう、どう考えても『聖女』よね。分かってたわよ。あの聖属性魔法書を読んだ時から全部当てはまるのだもの。あ、聖女だけが使えたという魔法はまだ使ったことは無いわね。でも、あれは聖女が成長して初めて使える魔法だもの。でも、聖女専用魔法3つ。『リザレクション』死者も生き返る回復魔法。『パーフェクトプロテクション』物理攻撃無効の補助魔法。『パーフェクトシェル』こちらは魔法攻撃無効の補助魔法ね。これらは、なんとなくあたしの中の魔力が不足しているだけで経験を積んで成長したら使えそうなのは感覚で分かるのよね。
なんの後ろ盾もないあたしが『聖女』だなんてバレたら、王宮に幽閉されるか、強制的に戦場に連れていかれるかの未来しか見えないわ。これはもうよほど実績を積んで誰にも口出しをされないようになるまではトップシークレットよね。
「ね、瑶さん。どうやらあたし『聖女』みたい。秘密にするの協力してね」
「くくく、ようやく認めたか。当然秘密にするよ。『聖女』様」
「ようやくって何よ」
「私も魔法書は読んだからね。『聖女』の条件に朝未が当てはまっているのは知ってたから」
それからはとにかく「ヒール」の練習をしているふりをして、時間をおいて初歩の補助魔法の練習をすることに時間を使ったのだけど……。
「おい、おまえ何やってんだ」
いきなり後ろから声を掛けられてビクッとしちゃったわ。振り返ると何か不機嫌そうな顔の男の人が腰に手を当ててあたしを睨んでいるわね。
「何って、魔法の練習ですけど?」
「使えもしねえ魔法の練習なんざしてんじゃねえよ。目障りだ」
「練習しなきゃ使えるものも使えないのは当たり前じゃないですか。しかもここギルドの練習場ですよね。誰が何の練習しようが勝手じゃないですか。大体使えないとか誰が決めるんですか」
「誰がも何も、使えるわけねえんだから無駄は無駄なんだよ」
「はあ、無駄って、例え使えるようにならなくてもあたしは無駄だとは思いません」
まあ、あたしは使えるの確定で練習してるのを見せるのが目的なので普通とは違のだけど。
「無駄だろうが、そんな無駄なことに時間使ってるのを見るとイライラすんだよ。やめちまえ」
「だから無駄じゃないって言ってるでしょう。使えるようになればそれで良いですし、もし仮に使えるようにならなければ自分が魔法を使えないという事実を知ることができて『あの時練習していれば』なんて後悔しないで済みます。どっちに転んでも無駄にはなりませんよ」
「うるせえ!どうせ一般人は魔法は使えないって決まってんだ無駄は無駄だ」
「はあ、仮に無駄だとして、あなたに言われる筋合いはありません。むしろあなたとのこんなやり取りの方があたしには無駄です」
そう言い切ってあたしは、その男の人を無視して練習に戻ろうとしたのだけど
「てめえ、無視してんじゃねえ」
まだ絡んでくるのね。聖属性魔法はまずいけど、初歩の火属性魔法ならどうかしら。
「ファイアーボール」
込める魔力を最低限にして発動句を唱え、目の前に現れた火の玉をその男の人の前に落としてあげたわ。ちょっと青味のある炎だったけどセーフよね。あたしは多分全属性で初歩の魔法は使えるから脅しにはなるかなって思って見せたんだけど……
「な、て、てめえ使えるなら……」
「ファイアーボール初めて成功しました。まだ威力は大したことないようですが、あとは練習しだいね」
「くっ、バカにしやがって、覚えてろ」
何か足を踏み鳴らして離れていってくれたわね。
「はあ」
「アサミ様、お疲れ様です」
「アレッシアさん、見てたの?」
「いえ、見回りに来たところでアサミ様がジュゼさんに絡まれていたので止めようと思ってきたのですが、アサミ様自ら黙らせて追い払われましたので黙っていました。それにしても火属性魔法を初日から発動させるとはアサミ様は魔法適正が高いようですね」
良い笑顔を見せてくれているけど、完全に全部見られていたって事よね。
あたしは、また大きくため息をついて今日の練習を終わることにした。
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