第50話 修理と練習と

「こんにちは。ヴェルマーさんみえますか?」


瑶さんが声掛けるとしばらくして、ヴェルマーさんが顔を出してくれたわ。直接来るのは初めてなのでちょっと緊張していたけど、ホッとしたわね。


「ん、ヨウか、嬢ちゃんも一緒だな。今日はミーガンは一緒じゃないのか?」

「ああ、朝未のチェインメイルの修理を頼みにきたんだ」

「修理?先日渡したばかりだろう。何か不具合でもあったのか?」

「いや、ちょっと想定外の敵が出てな。私の対応も悪かったんだが朝未のところまで一気に抜かれたんだ」


「想定外の敵って何がでたんだ?」

「スリーテールフォックス狩りの途中でナインテールフォックスが出たんだ。それで……」

「そりゃ災難だったな。スリーテールフォックスとナインテールフォックスじゃまるで別だからな。というよりお前たちよく生きて帰られたな」


「まあ、正直なところ危なかった。ナインテールフォックスと認識して対峙していればともかく、スリーテールフォックスと思っていたからな」

「そうだろうな……。ん?ナインテールフォックスと認識していれば?まるでわかっていればナインテールフォックス自体は問題ないような言い方だな?」


「あ?ああ、あの動きだからな、問題ないとまでは言わないが、朝未に気をとられていたとは言え私の攻撃自体は問題なく通ったからな」


「うん?攻撃が通った?逃げたんじゃないのか?」

「あんな速いのから逃げられるわけないだろう。斃したんだよ。まあ、その過程で朝未に怖い思いをさせてしまったんだけど」


「ふむ、なら防具をグレードアップするか?ナインテールフォックスを討伐したなら金も出ただろ?」

「それも考えたんだが、少し魔法の練習をしてみようかと思ってね。補助魔法が使えるようになればその方が良いだろ。今回の収入はそれまでの生活費に充てるつもりだ」


「ふん、魔法な。使えるようになるならそれもアリだが。使えるようになるのか?」

「それは分からん。まあ、使えるようにならないなら余裕のあるうちに別の方法を考えるさ」


あら、瑶さんうまくはぐらかしたわね。あたしはもう既に使えるのだけど、これから練習する体だものね。


「ま、いい。ならとりあえず嬢ちゃんのチェインメイルを出しな」


あたしがチェインメイルを手渡すと、じっくりと調べ始めたわ。あら、なにか顔を顰めて首を捻っているわね。


「嬢ちゃん、本当にケガをしなかったのか?」

「え?ええ。この通りピンピンしているわよ」

「このチェインメイルの破損状態で怪我がないというのは鍛冶師としては納得のいかんところではあるんだが、事実として嬢ちゃんはぴんぴんしとるしなあ」


怪我したなんて言ったら、回復魔法の事まで言わないといけないものね。死にかねない攻撃にバフのおかげで耐えたなんてのも言ったらどうなることか分からないもの。そのかわりにヴェルマーさんが頭を抱えてしまったけれど。これはいつか”ごめんなさい”するしかないわね。いつになるかは分からないけれど。



「あたしとしては、一瞬これは死んだって思いはしましたけど、本当に運が良かったです」

「で、本当に修理でいいのか?多少なりと稼いだんだろう。チェインメイルとは言えこんな壊れ方をするような攻撃を受けておるんだ。もう少し防御力のある防具に変えておくのも手だとは思うぞ」

「そう、ですね。今は防具よりも自分の能力を上げるために投資しようと思いますので。でも、ご心配いただきありがとうございます」


あたしのチェインメイルをヴェルマーさんに預けると、あたしたちはハンターギルドに戻ったの。目的はギルドの訓練スペースで魔法の練習をすること。しかも今日はまだ発動させちゃいけないのよね。多分……。


と思っていたけど、もう一度資料室で資料を読み直していたら、基礎魔法理論の中に生活魔法なんてものがあって、これは早い人なら初日から発動できるとか。戦闘に使えないような簡単な魔法ばかりだけど、見ると結構便利そうね。


最初は、灯りの魔法『ライト』に挑戦してみようかしら。何か物に灯りを付与する方法が簡単で初心者にお勧めって書いてあるわね。

あたしは周りを見回して誰の迷惑にもなりそうもない物を探して、あ、なんでも良いのよね。


「この小石にライトを付与してみよう」


小石に光が灯るのをイメージして


「ライト」


ふわり、わずかに小石が浮いて柔らかな光が溢れたわ。え?光るのは良いけど何故浮くの?ライトって光るだけのはずよね。浮かぶのはレビテートかフロートの魔法のはずよね。そもそもレビテートやフロートは生活魔法の範疇じゃないし。

慌てて魔法を取り消したわよ。

こ、これはものにライトを付与するのはまずいわね


「おしかったですね」

「え?」


突然後ろから声を掛けれられて固まってしまったわ。

そーっと後ろを振り向くと、そこにいたのは笑顔の受付のお姉さん。


「アレッシアさん。見てたんですか?」

「いえいえ、たまたまですよ。うまく発動したように見えたんですけどね。すぐに消えちゃいましたね」


あぶなかったわ。光ったところを見られるだけならいいけど、浮かんでいるとこなんか見られたらまた特別扱いされちゃう。


「えと、ライトって成功するとどのくらいの時間光っているんですか?」

「そうですね。術者の能力に大きく依存しますが、慣れた人なら半日程度でしょうか。初心者なら1刻程度持続すれば成功と思えば良いと思いますよ」


それからしばらくアレッシアさんが傍で見ていたので、いくつかの生活魔法で微妙な成功を続けたの。

だってさっきみたいにおかしな付加がついたら困るもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る