第52話 ???

お城の騎士に連れられて私達3人は城下町を歩いているのだけど……。

「*‘」~+>」

「#:@・!&’」¥」

道行く人の言葉が本当に何もわからない。


異世界の城下町ということで

「ファンタジー世界の王都とかロマンよねえ」

「ひょっとして獣耳の女の子とか、エルフの美少女とかいたりするのか?」

と最初こそ能天気に騒いでいた小雪と大地だったけれど、ここまで徹底的に言葉が分からないことにショックを受けているようで、黙ってしまっている。


私だってここまで分からないなんて予想していなかった、いえ、頭では分かっていたけれど、事実を目の当たりにしてショックを受けている。


「小雪、あなたこういうの得意でしょう。なんとかならないの?」

「いやあ、さすがにここまで完璧に言葉が通じないのはラノベでは無かったから。想定外?」

「想定外って。普通に考えて異世界で言葉が通じると考える方がおかしいでしょ」

「それがね、普通のラノベだと召喚時に魔法で言葉が通じるようになっているの。それに王宮?だったっけ、あそこでは全く不自由なく話せていたじゃない、だからまさかここまでとは思わなかったのよ」


アハハと力なく笑う友人に私もため息とともに肩を落とした。

フッと気付いて横を見るとうつろな目をした大地が目に入った。かなりショックだったようだけど大丈夫かしら。




王宮に戻ったあたし達は十分な食事のあと豪華な個室を与えられ休んでいる。3人ともが不安を抱えているけれど、それぞれに考えをまとめるためあえて別々に休むことにしたのだけど、小雪はともかく大地は少し心配。明日から私達の能力を確認するために色々と訓練をすることになったのだけど大丈夫かしら。



「おはよう」

「おう、おっす」

「おふぁよぉお」


一晩寝たことで2人ともとりあえず落ち着いたようね。


「2人とも落ち着いたみたいね」

「ああ、昨日のあれはちょっとショックだった。あれじゃ逃げ出すのも無理だろ」

「あれだけ言葉が分からないと何もできないわよね」

「となると、当面はこのトランルーノ聖王国に協力するしかないというところね」


私の言葉に大地も小雪も不本意ながらというのは分かるけど頷いた。

実際のところ大地じゃないけれど異世界から誘拐・拉致そのものの手法で連れてこられたのだから反発はあるけれどむやみに権力者に反発しても無かったことにされるだけでしょうからね。



朝食を終えて食堂でそのまま一息入れていると昨日最初に声を掛けてきたフィアン・ビダルさんが騎士を2人引き連れて部屋に入ってきた。


「勇者様方、本日より能力特性判定のための訓練を開始させていただきます。こちらの鍛錬着にお着換えください。サイズはそれほど違っていないとは思いますが、多少の違いはご容赦ください。着替えが終わりましたら、再度こちらにお越し願います」


もう有無を言わせる気もないようね。こちらとしても受け入れるしかないのだけど。そして一旦部屋に帰り提供された服に着替えて私達は再度食堂に集まった。


「まずは、みなさんの身体能力を見させていただきます。こちらへ」


そうして私達が連れていかれたのは王宮内にあるグラウンドのようなところ。ここでなら色々とできそう。

私達がキョロキョロと見回している間にフィアン・ビダルさんが連れてきていた騎士2人が上着を脱ぎ身体をほぐし始めた。身体を動かすのは私達だけではないようね。


「では、まず彼ら2人についてこの練兵場を20周走ってもらいます」

「え、あの2人について?」

「はい、あの2人は若手騎士団員の中で身体能力に優れたものです。勇者様方の能力を測るにはよろしいかと」

「いや、騎士団員って事は普段から鍛えてるのよね。大地と真奈美は普段から身体を動かしてるから良いかもしれないけど、わたしはインドア派なんだから無理よ」

「いえ、勇者安原様、勇者様方は世界を渡られるときに様々な能力を手に入れられております。普段身体を動かしておられなかった方でも身体能力が向上しているという事はままあることでございます。そのための確認となります。最低限、今回はお付き合いをお願い致します」


そして私と大地は騎士2人に余裕でついていけたものの、小雪は半分の10周で脱落してしまっていた。それでも日本にいた頃に比べれば随分と体力が上がっている。


「小雪、結構いけたわね」

「うん、最初の1周でドロップアウトする覚悟だったけど、あれならまずまず?」

「実際のところ正確に測ったわけじゃないけど、あの騎士2人のペース日本でなら国際選手クラスに感じたわ。それに10周ついていけたってだけでも身体能力がアップしているのは間違いないわね」

「そ、そうよね。わたしがあれだけ走れるなんて驚異的よね」

「え、ええそうね。小雪としては。ただあれだと一般人の範疇なのが気になるわね」


「ええ?そんなあ。大地ー、真奈美がいじめるよお」

「いや、さすがにそれは。そもそもこの国の奴らが俺たちに求めているのは人外な能力だからな。ちょっと運動が出来る一般人てレベルじゃダメだろう」

「え。それじゃわたしは追放エンド?役立たずに使う金は無いって放り出されるの?」

「慌てないの。たとえ小雪が一般人レベルの能力だったとしても追放なんかさせないから」

「真奈美ー、我が心の友よ」


私の言葉にが泣きそうになりながら抱きついてきた。まだ余裕ありそうね。


「身体能力についてはおよそ分かりました。では最上様、大見栄様はこちらへ、武器の適性を見させていただきます。安原様は、あちらへ。魔法の適性を見させていただきます」


「それじゃ小雪。また後でね」

「うわーん。わたしを見捨てないでね」

「大丈夫だから。ちゃんと魔法適性見てもらってきなさい」


小雪の事は少し心配だったけれど、私と大地は練兵場の隅に移動しいくつもの武器を見せられた。手に取ってしっくりくるものを選べということだ。


いくつもの武器を持ち振るってみる。既に半分以上を試したものの中々しっくりくるものがなく『妥協すべき?』という考えが浮かんだけど、まだ半分あるとこだわってみている。


そうしているうちに大地は刃渡り80センチくらいの剣とカイトシールドを選んでいた。あんな重量級の装備でいいのかな?


そして私が試していない武器は残り3本の剣。1本は刃渡り60センチ程度のいわゆる短剣、80センチほどの細身でそりのある片刃の日本刀のような剣。最後の1本は刃渡り120センチはありそうな長剣。


私の体格からすれば短剣が一番よさそうだと頭では考えているのだけど、身体が長剣に引きつけられる。フラフラと近寄り、つい手に取ってしまった。


「これにします」


私は明らかに体格に合わない長剣を選んでいた。



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時系列的にはまだ2日目。朝未と揺は山の中の木の上で寝ています。

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