第20話 異世界人
「朝未、弓でどのくらいなら当てられる?大体で良い」
「止まった的相手なら直径30センチの的に10メートルなら7割、20メートルなら5割かしら」
「わかった。私が突っ込むから朝未は20メートルから弓で援護してくれ。当たらなくてもけん制になればいいから」
「わかりました」
馬車は幌馬車ってタイプね。周りを犬みたいな動物が見えるだけで4頭。馬車の影に同じくらいいるのかしら。8から10頭ってところね。
「あ、1人引きずり倒されたわ」
「ああ、私にも見えた。急ごう」
あたし達が、到着するまでの僅かな時間で更に2人が倒れるのが見えたのよね。せめて1人くらいは生き残っているといいのだけど。
弓の射程に入ったところであたしは足を止めて構えたわ。どれを狙えばいいかしら。
あ、一回り以上大きな個体がいるわね、リーダーかしら。ちょうどこちらを向いているし、今までの狩りで心臓と肺が重なる位置があるのはわかっているしちょうど狙えるわね。
あたしが最初の矢を放つと瑶さんがすぐに追い打ちに向かったわ。
あ、矢が当たったわね、あれは致命傷だわ。でも、野生動物はそのまま倒れるわけじゃないのよね。
やっぱりすごい勢いであたしに向かってきたわ。この世界に来たばかりの頃のあたしなら怖くて足がすくんだところね。でも、この世界で狩りの経験を積んだあたしは、少し怖いと思いながらも動けるの。だからあたしが少し大きめに避ければ。うん、あたしの後ろで倒れたわね。
「瑶さん、リーダーは倒したわ。あとは雑魚よ」
瑶さんを見ると、相手の数が多いだけに囲まれないように常に動きながら手斧を1当てしては離れるを繰り返しているわね。
あたしも弓で少し離れた犬っぽい敵を狙うわ。ちょうど瑶さんに飛び掛かろうと力を溜めて動きが止まったので狙いやすかったもの。残念、今度は当たるには当たったけど喉ね。あれでは致命傷には程遠いわ。それでも注意をそらすことには成功したわね。
当然その1頭はあたしに敵意を向けて向かってきたわ。この距離で向ってこられると弓ではちょっと無理ね。あたしは、弓を左手にもったまま、腰に括り付けておいた手斧を右手に持って迎え撃つことにしたわ。
矢が首に刺さったまま向かってくるのでどんどん動きが鈍っているわね。でもまだ元気だわ。あたしは、飛び掛かってきた犬っぽい敵を右に避けながら首元に手斧を叩きつけてみたの。
うぅ、狩り自体には慣れたけれどこの手元に感じる肉を裂いて骨を割る感触は気持ち悪いわ。でも、この感触なら致命傷ね。
倒れたのを横目でチラリと確認しておいて、あたしは、馬車の方を見たの。ああ、瑶さんが手ごわいと見たからかしら、瑶さんに集中攻撃してるわね。
でも瑶さんの足元にはもう4頭が動かなくなっているわ。さすが瑶さんね。残り3頭になってもまだ攻撃してくるって、この犬っぽいもの、いえもう犬で良いわね。頭悪そうね。
それでも、瑶さんの後ろから飛び掛かろうとしていた犬がいたのであたしは弓を射て攻撃をしたわ。的が大きいので思ったより当たるわね。今回は目に刺さったわ。
”キャイン”なんて悲鳴を上げているけど、これは自業自得よね。でも自分でやっておいてなんだけど、あれは痛そうね。思わず顔を顰めてしまったわ。
あ、瑶さんが追撃をして仕留めたわね。
残りの2頭は、ああ、さすがに逃げ出したわね。だまし討ちで戻ってこないか見送っていたけれど、全く振り返ることなくどんどん走り去っていくから多分大丈夫じゃないかしら。
見えなくなるまで目で追ってから周りを確認したのだけど、これは結構大変よね。あたし達が倒した犬以外に、がっちりした体格の人が5人倒れていて、あれはもう息をしていなさそうね。それでもとりあえず、あたしは矢を回収しないといけないので瑶さんに視線をチラリと向け、瑶さんが頷いたのを確認して矢の回収に向かったの。
射たのは3本だったけれど、喉に当たって、あたしが手斧で仕留めた犬に刺さっていた矢はダメね。折れちゃっている。それでも2本はそのまま回収。折れた矢も羽なんかは再利用できるから回収しないとね。
さて、後は馬車に乗っている人が生き残っているかどうかだけれど。そう思って瑶さんを見ると幌馬車に声を掛けているわね。
「もう大丈夫ですよ」
転移のなにかの具合で言葉が通じるようになっていればいいなって思った希望ははかなく散ったわ。だって帰ってきた言葉、多分言葉よね、が全く理解できなかったのだもの。
「*}{{`P=^……」
あたしと瑶さんは顔を見合わせて溜息を吐いてしまったわね。まあある意味予想通りではあったのよ。現実的な考えとしてだけど。それでも1人でも生き残ってくれたのなら良いわ。
そして顔を出してきたのは紺色のズボンに、生成りのシャツ、紺色のベストと思っていたより身なりの整ったやや小太りの男性、身長は160センチをちょっと超えるくらいかしら。見た目50歳くらいに見えるわ。
「\-@*??+]../」
やはり何を言っているのか分からないわね。
「すまない、何を言っているのか分からない」
瑶さんが、その人に声を掛けているわね。でも、相手も何を言っているのか分からないと思うのよね。
「!#$'&%|~=(*}」
するとその人は、奥に向かって何かを言っているわね。その声に何か返事らしきものをして別の人が出て来たわ。
あら、可愛い。出て来たのは、青い髪を腰まで伸ばし、ふんわりとした生成りのワンピースを着た女の子。見た感じ10代後半な感じかしら。
「タスケ、クレタ。カンシャ。ワタシ、ミーガン。カレ、エルリ、イイマス」
おや、片言の感じだけれど言ってる言葉が分かるわね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます