異世界文明との接触
第19話 馬車
お昼には丘の上に着くことが出来たわ。この1月の間、日本にいた頃とは比べ物にならないくらい歩いたり木に登ったり戦闘したりして体力がついたってことかしらね。これだけの丘に登っても息も切れないのだもの。この丘って感じとして多分200メートルくらいの高さあるわよね。それをこんな軽々登れるなんて、不思議な気持ちだわ。
でもそれより、今はこの先のことね。瑶さんが手をかざして遠くを見ているわね。せっかくだからあたしも自分なりに見て見ようかしら。
「ふむ。朝未、あれが見えるかな?」
瑶さんが指さす先地平線ちょっと手前の当たりに右から左に線が見えるわね。瑶さんが言っているのはあれの事かしら。
「地平線のちょっと手前の線のことですか?」
「そう、朝未にも見えるってことは見間違いじゃなさそうだね。希望的観測ではあるけど、あれは道ではないかと思ってるんだ」
「え、道?ってことは文明があるって事ですか?」
「まだ可能性の段階だけどね。とりあえず、あれが道だと仮定したときに問題なのは見える範囲に町や村といったものが見えない点だね」
どういうことかしら?あたしが首を傾げていると瑶さんが”ふふ”と笑って教えてくれたわ。
「文明が発達しているほど人の居住地同士が近づく傾向があるんだよ。地球でも中世以前だと隣の町や村まで歩いたら1週間以上かかるなんてのはザラだったみたいだからね」
「つまり、ここの文明レベルは地球の中世以前並だということですか?」
中世以前って公衆衛生って概念がなくてペストが黒死病って名前で流行って人口の半分が亡くなったなんて時代じゃないの?ちょっと不安なんですけど、大丈夫かしら。
「可能性の話だけどね。たまたまそういう地域だったって可能性もあるし、ほら地球にもアフリカのサバンナとかそんな感じだよね」
それでも、とりあえず朝焼いておいた鹿肉でお昼ご飯を済ませて川に沿って道らしきものに向かう事になったの。
道だといいなあ。
「ねえ、瑶さん。あの道までどのくらいあるかしら」
「そうだね、この地面が地球と同じくらいの球体だと仮定して、この丘の高さを200メートルと仮定すれば……。地平線までが40から50キロくらいかな。その少し手前だから私達の歩く速さからすると明日のお昼くらいには着くと思うよ」
瑶さんの言葉通り、あたし達は翌日のお昼前に道にたどり着いたわ。道よねこれ。あたしはなんとなく自信がなくて瑶さんの様子をそっと窺ったわ。瑶さんは道の幅を確認したり、片膝をついて路面を調べたりしているのだけどどうなのかしら。
「あ、あの瑶さん。どうかしら?」
あたしがそっと声を掛けると、瑶さんはハッとしたように立ちあがってニッコリと笑顔を見せたわ。
「うん、道、それも馬車かそれに類するものがある程度行き来している街道だと思うよ」
そう言うと、街道だと判断した理由を色々と説明してくれたわ。
細かい石が敷き詰められていること、轍と思われる窪みがあること、その幅からすればゆっくりであればすれ違える程度のサイズであること、轍の中央に動物の蹄の跡があること。そういった事から文明レベルによるけれどある程度大きな町どうしを繋ぐ街道だろうってことを丁寧に説明してくれたの。
「これが街道である可能性が高い事はわかりました。あとはどっちに向かうかですね」
あたしがそう言うと瑶さんは少し迷いながら、日が昇るからということであたし達が便宜的に東としている方向を指したのよね。
「それは何か理由があるの?」
「こっちにきてごらん。これが馬車らしきものを引く動物の足跡、もう面倒だからはっきりするまでは馬車と馬ってことにするけど、ほら、こっち側が深くて反対側に少し削れているだろう。これはこの馬が東に向かっていることを示すんだよ。そしてこの轍の深さを向こうとこっちで比べると、東に向かう方が深いだろう。つまり東に荷物を沢山運んでいるって事なんだよ。つまり東の街の方が恐らく大きいってことだね。大きめの街に向かった方が恐らく色々と分かるんじゃないかってのが理由だね。まあ危険もありうるけど。それは慎重に行動していくということで、ね」
そう決め、あたし達は東に向かうことにしたのだけど、2時間くらいかしら歩いたところで瑶さんが足を止めたのよね。
「瑶さん?」
何があったのかと瑶さんの様子をうかがうと。瑶さんが、道の向こうを指さしたの。
「馬車が止まっている。その周りを動物が動き回っているみたいだ」
あたしもじっと見ると、
「あ、本当ですね。あの馬車は動物の群れに襲われている感じですかね?」
そこまで言って自分の言葉に違和感を感じたの。ここから馬車まで見通しは良いけれど、どう見ても2キロ近くあるわよ。なんであたしは、いえあたしだけじゃないわ瑶さんも、そんな細かいところまで見えるの?
「ねえ、瑶さん。あたしこんな遠くの馬車はともかく動物の動きとか見えるって疑問なんですけど」
「う、うん。そうだね。それについては特に不利な要素じゃないから、あとで考えよう。それより今はあれをどうするかだね」
「どうするか、ですか?それは助けるか見捨てるかって事ですよね?」
「うん、どちらにもメリット・デメリットがある。助けた場合、恩を売ることになってこの世界の情報を手に入れることが出来るかもしれない。そのかわり接触することにのる危険が準備無しで発生するよね。逆に見捨てた場合は情報は手に入らない、その代わり文明との接触を計画的に準備したうえでできる」
瑶さんの説明にあたしは迷うことなく返事をしたわ。
「助けましょう。あの感じなら、あの動物はあたし達の敵ではないと思いますし、その動物にまともに対応できていない馬車の人たちはあたし達には脅威ではないと思います。なによりここで見捨てたらきっと後々まで後悔すると思います」
あたしの返事を聞くと瑶さんはあたしの頭をポンポンと叩いたの。
「私としてはどちらでも良いから。朝未の気持ちを優先するよ。じゃあ急ごう」
そう決めるとあたしは弓を手に持ち直し、瑶さんは石を割って作った手斧を手にして、馬車に向かって走り始めたわ。
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