第18話 弱くなった獲物
「瑶さーん、何か見える?」
「んー、ちょっと向こうに丘があって先が見ないね」
今瑶さんは、森の最後の木に登って先を見てくれているのだけど、丘で遮られているのね。
あたしは、やっぱり弓の練習中なの。ただちょっと思うのは、このところ獲物が弱くなった気がするのよね。微妙にサイズも小さいし。種類が違うのかしらね。そんな事を考えながら矢を放つの。当たり。どんどんうまくなってる気がするというか、間違いなく上達してるわね。今では10メートル先の的なら30センチに小さくした的に7割くらい当たるもの。こういうのって上達が自覚できると嬉しくて練習にも気が入るわ。
次の矢をと練習用の矢筒から1本取ろうとしたところで少し向こうに小さめのウサギがいるのを見つけたわ。最初に瑶さんが倒したウサギは中型犬くらいあって狂暴だったけど、この1、2日の間に見つけるウサギは小型犬より少し大きいくらいで、しかもあたし達に気付くと逃げるのよね。
あたしは、練習用の矢筒をそっと地面に置いて、狩用の矢筒と取り換える。そっと深呼吸して意識的に息を整えて弓を引き絞る。まだウサギはあたしに気付いてないわね。ウサギが地面にある何かに意識を向けた瞬間、”シュッ”あたしの放った矢がウサギを捉え、そのまま地面に縫い留めたわ。思ったよりうまくいったわ。
これで今日の食料は足りるかしらね。
瑶さんはまだ木の上から降りてくる様子がないわね。
「揺さーん、ウサギを仕留めたから川で捌いてくるわね。降りてきたら呼んでくださいね」
いつまでも獲物を捌けませんじゃ困るかもしれないからって事で少し前に捌き方を教えてもらったのよね。まだ瑶さんみたいに綺麗には捌けないけどやらないと上達しないもの。ってあたしもこの20日くらいで変わったわね。前は捌くどころか、それを見ているだけでもダメだったのに、今では自発的に捌こうとしているんだもの。
仕留めたウサギの後足を近くの木に括り付けてさかさまに吊るしたら、まずは血抜き、頸動脈と思われるところを深く切って少し待つのよね。地球の動物だとどうか分からないけれど、この世界の動物だと結構すぐ抜けきるのよね。
血抜きが終わったら、川に持って行って泥を落としたり洗って、さてここからがまだ慣れないのよね。
深呼吸をしてお腹を開く。内臓は食べられるところが分からないから全部捨てて、あとは川で流されないように近くの大き目の石を重りにして冷やすのよね。
「よし、とりあえず、ここまでしたら瑶さんが降りてくるまで待っていればいいわね」
あたしは河原に腰を下ろして周囲の様子をみながら待つことにしたわ。
「朝未、おまたせ」
「あ、瑶さん。大丈夫よ。そろそろ肉も冷える頃だと思うし、丁度いい感じよ」
今回の獲物は中型犬より少し小さいので本当にそろそろ冷えると思うのよね。
「で、どうでした?何かヒントになりそうな物みえました?」
あたしが川からウサギを引き揚げようとすると、ウサギの足に縛り付けておいた蔓を瑶さんが引き受けてくれたわ。瑶さんってこういうところ紳士なのよね。同級生の男子たちなんか女の子に力仕事押し付けて平気だったもの。力仕事を引き受けてくれたりすれば調理実習の時なんかに分けてあげたりしようかなって思うのに。
「朝未?」
あ、変な方に思考がぶれてぼーっとしちゃったのね。瑶さんが心配そうにみてるじゃないの。
「あ、ごめんなさい。ちょっと日本での事を思い出しただけです。それで、丘があってあまり遠くまで見えないんでしたっけ」
「うん、そうなんだけどね。逆に言えばその丘に登れば向こうも見えるかもしれない。だから次の目標地点はここから見えてる丘の上ということでいいかな」
「はい、わかりました。そもそも他に選択肢なんかないでしょう」
あたしが”ふふ”と笑うと、瑶さんも笑顔を見せてくれたので、これで正解ってことよね。
「よし、じゃあこのウサギの解体をしたら丘に向かおう。多分、今日の昼過ぎには丘の上から眺められると思うよ」
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