第6話

次に目が覚めると僕は自室で寝ていた

あれからどれくらい時間が立っただろうか

20時間くらい寝ていた気がする

僕は呆然として押し入れを開けた

そこにはいつもどおりきれいなAちゃんのドールがしまってあった

僕は押し入れを閉じた


ピンポーン


玄関を開けるとそこには後輩女子のMちゃんがいた

Mちゃん「せんぱーい、生きてますかー」

僕はMちゃんを食卓へ招き入れた

Mちゃん「先輩が元気がでるようにって紅茶を買ってきたんです、一緒に飲みませんか?」

僕「おお、ありがとう・・・」

Mちゃん「元気なさそうですね・・・まああんなことがあったあとだから」

僕「あんなこと?」

あんなこととはなんのことだろうか

Aちゃんが死んだこと?それとも昨日見た悪夢・・・

僕「うっ」

頭痛がした

Mちゃんは台所で紅茶を沸かしている

僕はその後姿を見ていた

Mちゃんは優しい声で言った

Mちゃん「はいどうぞ」

紅茶は湯気が立っている

なんていう名前かしらない葉っぱだが、いちごのような香りがしていた

Mちゃん「ところで先輩昨日の夜テレビみました?」

僕「え・・・いや・・・昨日はちょっと見てないかな」

Mちゃん「物騒な世の中ですよねー、殺人事件が2件も連続で続いたと思ったら、今度は原因不明のバラバラ死体が発見ですもの」

僕「へ・・・へぇそうなんだ」

Mちゃん「先輩も気をつけてくださいね」

僕は気が気じゃなかった

昨日の悪夢が悪夢じゃないのだとして、現実なのだとしたら僕は紛れもなく殺人犯だ

犯罪者になるということは国家権力から追われる身になるということだ

もう平穏に暮らせない


ピンポーン


新たな来客が来たようだ

僕「はーい・・・」

Mちゃん「先輩ちょっとまって」

Mちゃんは僕を呼び止めた

Mちゃん「本当にでるんですか?きっと警察ですよ?このままおとなしく捕まります?それとも、わたしと一緒に来てみませんか?」

僕はMちゃんについていくことにした


僕はAちゃんドールが詰まったかばんを背負ってMちゃんと裏口からこっそり家をでた

Mちゃんの言ったとおり玄関には警察官が二人陣取っていた

Mちゃん「先輩、早く」

少し離れたところに黒い車が止めてある

Mちゃん「先輩乗ってください」

僕は後部座席に乗って、Mちゃんは運転席に乗った

車がエンジンの音とともに発進する

しばらくの沈黙をさえぎったのは僕だった

僕「これからどこに向かうの」

Mちゃん「L国」

それは今僕らがいるK国の敵国だった

Mちゃん「僕ちゃん、あなたはその才能を見いだされた、私達はあなたを引き抜こうと思います」

Mちゃんは真面目な声で言った

Mちゃん「すこし歴史の話をします」


~Mちゃんひとり語り~

今から70年前L国はある一人の人形遣いL氏が発起人となったレジスタンスによって独立しました

そのためには武力が必要でした

その中心となったのが人工知能を搭載した自動兵器です

兵器をたくさん用意するためにはたくさんのお金と工場が必要でした

そこで一役買ったのがT氏という男が経営していたTTカンパニーです

TTカンパニーはもともとはプロバイダー会社でした

ある時期から人工知能を搭載したLOT機器を開発するようになり、膨大な情報を掌握するようになりました

ほら、私達もこの前歴史の授業でやりましたよね?何百年も昔、Cという国が5Gという通信規格を独占したことによるパワーバランスの崩壊

そう、情報を制するものが世界を制したのです

発起人L氏は10人の子供を残しました

そのうちの祖先の一人がAちゃんでした

Aちゃんは女の子でしたが、膨大な遺産の行き先を巡って命を狙われていました

そう、Aちゃんは前々から命を狙われていた

ですから、先輩が自責の念を持つ必要なんてないんです

Aちゃんがどうしてあんなに強かったかしってます?

それは、Aちゃんが普通の人たちとは違うからです

普通の人たちとは違う、私達側の人間だから

私達は生まれつき特別なんです

優性思想は滅びたと思っていましたか?

それはずっと続いていました

地中の奥深く、一部の思想を持った人達の間で秘密として受け継がれてきた

そうやって優れた遺伝子を掛け合わせて作られたのが私達なんです

優性思想をもとに作られた人々は圧倒的に差別をされました

人間どころか化け物扱い、参政権すら与えられていませんでした

そうやって差別されて不満が溜まった人々を束ねたのがL氏です

ある時起きた暴行事件をきっかけにL氏は集会を呼びかけました

そうして各地で集結した200万人の人々は勢いをつけてホワイトハウスを選挙することに成功

政府機能を当時のL国から奪いました

歴史の話はこの辺にしましょうか

~Mちゃんひとり語り終了~


車の窓の外はすっかり暗い

Mちゃん「話が長くなってしまいましたね」

僕「なんだかとほうもないはなしだね、なんだかすごい人達の話で自分とは無関係ってかんじ・・・」

Mちゃん「それが無関係じゃないんです、遺伝子操作を受けずに生まれてくる人たちのなかにも、超人的な能力を発揮する人がいます、そういう人をK国から見つけてL国へ連れて行くのが私の役目なんです、それはそうと、ほら、着きましたよ」

僕はAちゃんドールを背中にしょって外にでる

目の前には夜の海原が広がっていた

僕「あのさあ、夜の海にドラム缶の中でコンクリート詰めにされて沈められたりしないよね!?よね!?」

Mちゃん「心配しないでくださいって、ほらこっちです」

僕がMちゃんのうしろを追いかけると、乗り捨てたはずの車は誰かが乗っていったようだった、Mちゃんの仲間だろうか、僕には想像しかできない

切り立った崖のそばにマンホールがひとつ備えられていた

Mちゃんはそれを「よいしょっと」と言って開けると手招きした

僕「ねえ、僕知ってるんだけどここって自殺の名所だよね、堀が深くて一度落ちた死体は二度と浮かんでこないとか」

Mちゃん「そういう噂なんですよ」

マンホールを下り終えるとそこには潜水艦があった

Mちゃん「これが私の愛する潜水艦、ふもふもんです!」

Mちゃんと僕とAちゃんドールの航海が始まろうとしている


(今回はここまで!)

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