断章 王女(しょうじょ)の人生(ゆめ)

 昔、ある処に一人の少女がいた。

 少女は王族の父と低い身分の母の間に生まれた。

 少女は銀の美しい髪の、とても優しい娘だった。


 少女はいつも独りぼっちだった。

 あるのは父から貰った遊技盤だけ。

 でも、それでも少女は幸せだった。

 ただ一人の父から貰った遊技盤があったから。


 しかしそう思っていた少女にはもっと大切な物が出来た。

 それは『友達』と言う物だった。


 少女は友達と一緒に、短いけれど楽しく幸せな時を過ごした。

 それまでは知らなかった、大好きな人と共に時を過ごす喜びを知った。

 他には何も知らなかった少女は知った。

 この世に生きてきて良かったと思える事だ。


 融通の利かない若者もいるけれど、そんな彼も楽しい遊び相手だった。

 彼らは三人で、本当に幸せな時間を過ごしたのだ。



 やがて少女の国で革命が起きた。

 独りぼっちだった少女も狙われる事になる。

 友達と若者は少女を助けたいと願った。

 少女はその為に二人がとても危ない事をするのが判った。

 だから、少女は一人で決めた。


――私の大切なお友達が、あの子が幸せになれます様に。

――きっと私は、あの子を守る為に今まで生きてきたのね。


 少女は逃げる事を選ばなかった。

 そうして少女はまた独りぼっちに戻った。

 けれどもう、寂しくは無かった。


 少女は、あの融通が利かない若者に頼んだ。


――隣の国に伝えてちょうだい、ここはもう駄目だから直ぐに来て。

――争いが起こらぬ様、誰も傷つかぬ様にしてちょうだい。


 若者は酷い顔で、だけれど御意に、と言ってくれた。


――私には大切な友達がいる。

――あの子が幸せになるのが私の望み。

――あの子が生きてくれる事が私の願い。


 そして少女は宝物だった遊技盤に文字を記す。


――きっと彼ならば、この願いを聞き届けてくれる。

――何度も一緒に遊技盤をしてきた彼ならきっと。

――あの子は傷つくかもしれない。

――きっと泣いてしまうだろう。

――でも、それでも最後に笑ってくれればそれでいい。


 指先と胸に小さな痛みを感じながら、少女は文字を書いた。



 最後の瞬間、少女は怖くて仕方がなかった。

 大人達が酷い顔をして自分を殴る。

 酷い罵声を浴びせられて蹴られる。

 痛くとも、怖くとも、まだ泣く訳にはいかない。

 あの子がちゃんと無事で居られるまでは。


 やがて自分の首が木枠に押しこめられる。

 少女は怖くて泣いてしまいそうだった。

 そんな時、目の前に見知った顔が見えた。


――あの子がいる。

――誰もあの子を見ていない。

――きっともう大丈夫ね。

――きっと幸せになってね。

――私の大切な、たった一人のお友達。

――いつまでも笑っていてね。



 そして激しい痛みの後。


――誰かが私を抱き抱えている。

――懐かしくて、いい匂いがする。


 そんな中で少女はもう見えない目を静かに閉じた。


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