断章 王女(しょうじょ)の人生(ゆめ)
昔、ある処に一人の少女がいた。
少女は王族の父と低い身分の母の間に生まれた。
少女は銀の美しい髪の、とても優しい娘だった。
少女はいつも独りぼっちだった。
あるのは父から貰った遊技盤だけ。
でも、それでも少女は幸せだった。
ただ一人の父から貰った遊技盤があったから。
しかしそう思っていた少女にはもっと大切な物が出来た。
それは『友達』と言う物だった。
少女は友達と一緒に、短いけれど楽しく幸せな時を過ごした。
それまでは知らなかった、大好きな人と共に時を過ごす喜びを知った。
他には何も知らなかった少女は知った。
この世に生きてきて良かったと思える事だ。
融通の利かない若者もいるけれど、そんな彼も楽しい遊び相手だった。
彼らは三人で、本当に幸せな時間を過ごしたのだ。
*
やがて少女の国で革命が起きた。
独りぼっちだった少女も狙われる事になる。
友達と若者は少女を助けたいと願った。
少女はその為に二人がとても危ない事をするのが判った。
だから、少女は一人で決めた。
――私の大切なお友達が、あの子が幸せになれます様に。
――きっと私は、あの子を守る為に今まで生きてきたのね。
少女は逃げる事を選ばなかった。
そうして少女はまた独りぼっちに戻った。
けれどもう、寂しくは無かった。
少女は、あの融通が利かない若者に頼んだ。
――隣の国に伝えてちょうだい、ここはもう駄目だから直ぐに来て。
――争いが起こらぬ様、誰も傷つかぬ様にしてちょうだい。
若者は酷い顔で、だけれど御意に、と言ってくれた。
――私には大切な友達がいる。
――あの子が幸せになるのが私の望み。
――あの子が生きてくれる事が私の願い。
そして少女は宝物だった遊技盤に文字を記す。
――きっと彼ならば、この願いを聞き届けてくれる。
――何度も一緒に遊技盤をしてきた彼ならきっと。
――あの子は傷つくかもしれない。
――きっと泣いてしまうだろう。
――でも、それでも最後に笑ってくれればそれでいい。
指先と胸に小さな痛みを感じながら、少女は文字を書いた。
*
最後の瞬間、少女は怖くて仕方がなかった。
大人達が酷い顔をして自分を殴る。
酷い罵声を浴びせられて蹴られる。
痛くとも、怖くとも、まだ泣く訳にはいかない。
あの子がちゃんと無事で居られるまでは。
やがて自分の首が木枠に押しこめられる。
少女は怖くて泣いてしまいそうだった。
そんな時、目の前に見知った顔が見えた。
――あの子がいる。
――誰もあの子を見ていない。
――きっともう大丈夫ね。
――きっと幸せになってね。
――私の大切な、たった一人のお友達。
――いつまでも笑っていてね。
*
そして激しい痛みの後。
――誰かが私を抱き抱えている。
――懐かしくて、いい匂いがする。
そんな中で少女はもう見えない目を静かに閉じた。
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