第2話 サンフランシスコ
ホームステイが終わり私は、ロサンゼルスから、チケット使い放題のアムトラック鉄道を利用し、サンフランシスコへ向かった。一晩、電車の中で過ごして、朝方、郊外の駅に到着。そこから、バスに乗り換えて、サンフランシスコの中心街に向った。
向かう途中で、やはり、旅行に来ていた日本人男性の大学生の二人連れと、知り合いになった。彼らは、私が着ていたジャケットがアムトラック鉄道員のユニフォームに似ていたことから、私を日系のアムトラック従業員だと思っていた。
「違いますよ、日本人ですよ」で、すぐにうちとけて友達になった。こういう風に出会って友人ができるのが、旅のおもしろいところだ。
冬の寒い朝のサンフランシスコだったが、やはりお洒落な感じがした。「地球の歩き方」を読んで、予約していたオリンピック・ホテルにチェックインした。大学の友人の田原も来るので、ツイン・ベッドの部屋を取っていた。友達になった二人も近くのホテルに投宿した。
二日後、田原が、来るので空港へ迎えに行った。しかし、指定されたゲートからは降りてこず、モニターで確認するとかなり離れたゲートから、しかも違う飛行機から降りてくることが分かった。急いで走ってその搭乗口に行くと、あとで知ったのだが、同じ大学の先輩とともに飛行機から出てきた。
「田原、お前違う飛行機で来るなら、事前に連絡しろや」
すると、彼は意外なことを言った。
「固いこと、言うなや」
「固いこと?お前、何言っとんや」
すると、田原は「だから、固いこと言うなや!」と大声を出して私をにらみつけた。
おそらく、初めての海外で心の余裕を失っていたのと先輩の手前ということもあったのだろうが、怖かった。こいつ、これまで怒ったことなかったから。しかし、「このガキ!」と思いにらみ合いが続いた。
一緒に出てきた先輩は、たじろいでいた。しかし、普段、私に「これどうしたらええねん?どうしたらええねん?」、と頼っている情けない田原をサンフランシスコに放置するのも可哀そうだなと思い、彼をホテルには連れて行った。
実は、少し同じ都市を一緒に旅するというプランを組んでもいいかなと考えていたのだが、「コイツとは、無理だ」と思い、サンフランシスコからは別々に行動することになった。
その後、友人達と、安くて美味しいと評判のステーキ店に行ったり、チャイナタウンをブラブラして、チャーハンを食べたり、ストリップに行ったりした。綺麗な白人女性のが踊っており、これはなかなかナイスだった。
また、射撃のツアーに参加した。ガイドは、中国系アメリカ人で、元サンフランシスコ市警のポリスだった。年齢は、30の中ごろだったと思う。ハンサムで、中国系アメリカ人の映画俳優でも、おかしくないような人だった。淡いピンクのポロシャツを着て、サングラスをかけて、白いバンを運転していた。
彼によると、サンフランシスコの警官は、名誉の戦死をやりたがるのだそうだ。カーチェイスなんかも、無茶をやって、死ぬ人が多いと言う。彼は、命がいくつあっても足りないと考えて、警察を辞めた。
とにかく、クレイジーだと彼は何度も強調していた。
「 ガイドの仕事は、給料は多少減ったが、それでも年収が500万円くらいになる。今では、家族サービスに時間を取れるし、死の危険に晒さらされることもない」
とも彼は言った。
そして、彼は、コレが僕の奥さんだよと、彼のポケットから革の財布を取り出して、奥さんの写真を見せてくれた。可愛い白人の奥さんが、微笑んでいた。アジア系の男性が白人女性を娶ったことを、彼は自慢した。
射撃のやり方を、彼は丁寧に教えてくれた。銃を両手で優しく握って、絞り込むように撃つ。彼の模範射撃は、やはり様になっていた。同行した女の子からは、「カッコいい!」と歓声が上がった。彼女は、アメリカ生まれの日本育ち。アメリカの永住権が取れるかどうか、弁護士に相談に行くためにサンフランシスコを訪れていた。
彼女は、英語が上手く、うらやましく思った。ツアーの後、彼女の先輩で、アメリカ人男性と結婚した日本人女性とも会った。彼女の旦那は、旅行関係の仕事をしているという話だった。私は、歌手のボズ・スキャッグスの経営しているブルー・ライト・カフェに行きたいのだが、知っていますかと聞いた。しかし、彼女はそれを知らなかったのが残念だった。
当時、ボスは、アザー・ロードという新譜を出して世界ツアーを行っていたが、数年前に音楽業界に嫌気がさし、地元のミュージシャンを育てるべくリズム&ブルース主体のカフェをオープンしていたのだ。
サンフランシスコに数日滞在後、田原は、ロサンゼルスに向かい、私は再び、アムトラック鉄道を利用し、今度は一昼夜かけて、中西部のカンサスへと向った。
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