アメリカ一人旅
加福 博
第1話 大阪~サンディエゴ
1988年の春休みの2月から3月まで、恋人と私は大学の春休みを利用して私は、アメリカ大陸横断旅行に出かけることにした。
この時期は、パパ・ブッシュ、アメリカ大統領が、麻薬戦争と称しCIAと以前協力関係にあったパナマのノリエガ大統領を拘束するべくパナマ侵攻を行っていた。
私は、旅行の直前まで、大阪の伊丹国際空港で、航空貨物の荷卸のアルバイトをした。このバイトは、時給が良く半年で50万円ほど貯まった。
また、腕の力こぶは少し大きくなった。アメリカは、治安上、旅行中に何があるかも分からない。ニューヨークに住んでいたいとこには、アジア系だというだけで地下鉄のホームに落とされて殺された人がいるという話を聞いていた。体を鍛えておくことが必要だった。
旅の前に、大阪の池田市のアップル英会話学校に通って、イギリス人女性とアメリカ人男性から日常会話を習った。この学校は、他の英会話学校と比べて、格段に授業料が安かった。しかし、授業の内容が充実しており、寒い冬の中を家から、スクーターで約5キロを走った。
女性の英語教師は、彼女は、地下鉄でスーツを着たサラリーマンがスポーツ新聞のアダルト欄を読んでいるのが、信じられないと言っていた。なぜかと聞かれたが、うまく答えられなかった。今なら、ノー・プロブレムだと答えるが。
また、男性教師は元パイロットで、ロサンゼルスの出身だった。私が、アメリカの旅行を計画していると、ロスの治安の悪い場所などについて教えてくれ、さらに、実家の住所まで教えてくれて、もし、近くまで行くなら訪ねたらいいよと、フレンドリーだった。
アメリカへは、ノース・ウェストを利用した。ロサンゼルス国際空港のパスポート・コントロールを通過し、ゲートを出た待合広場には、南カリフォルニアの明るい陽光が差し込んでいた。
待合室には、広場には、体格の良い、髪が黒く肌の浅黒いヒスパニック系の人々が、派手なアロハのシャツや、革ジャンを着て、大声で話し合っている。野獣の群れだ。エネルギーが渦巻いている。ヒスパニック系の人たちの他には、黒人やアジア系の人が多く、白人の姿はあまり見られなかった。これが、カリフォルニア南部だった。
私は、再び、ロサンゼルスからホームステイ先のサンディエゴに飛行機で移動した。サンディエゴ国際空港から、指定されたアムトラックの駅へ。しかし、約束していたはずの語学学校からの出迎えが来ていなかった。
そこで、ホームステイ先に直接電話をかけて、車で迎えに来てもらった。なんとか、英語が通じたが、かなり焦った。
ホームステイ先のマザーは、学校からの迎えが来なかったことを詫びながら、まず、夕食にマクドナルドに連れて行ってくれた。
彼女が運転する車は、ニッサンの古い車で、助手席の足元には、10円玉ほど穴が開いた。車は、ハイウェイを走っているので、アスファルトの地面が流れて見える。彼女は、エンジンは整備しているから大丈夫だと言っていた。
到着した郊外の家は、立派なものだった。ご主人は、アメリカ海軍に所属し、ハワイの基地に単身赴任していた。写真を見せてもらったが、やはり体格が良く、髪の毛を短く刈り込んでいる。精悍な顔つきをしていた。サンディエゴにはアメリカ海軍の基地があり、その家族が多く住んでいる。
彼がホームステイしていた時に、このご主人が帰宅し、冬のプールを泳いでいたということであった。海軍特殊部隊は、選抜に冬の海を泳ぐ訓練があるのだが、もし彼がクリアしていたのなら、そうだったのかもしれない。
さて、語学学校の先生の英語は聞き取りやすく、理解は進んだ。また、学校からの夜のツアーで、国境の街、メキシコのティワナへ行った。サンディエゴは、メキシコに国境に面しているので、すぐに行ける。暗くてよく見えなかったのだが、やはり貧困の町としての雰囲気は伝わってきた。
一方で、ラ・ホヤという海の綺麗な観光地にも学校のツアーで行った。青い海に白いカモメがたくさん飛んでおり、なんとも景色の良い場所だったそうだ。ツアーの帰りに、バンの中で80年代後半にヒットしたTOTOのバラード曲、"I will be over you"が流れ、やはり、カリフォルニアで聞くカリフォルニアの曲は、フィットしていていいなと、感動した。
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