魑魅魍魎

 夜風のイメェジ!

 呟くと、高いフェンスからばっと飛び降りる。闇の凝った青い桜に身を委ね、もう一度跳ねて、四つ足で着地する。あたりは夜に浸っている。ブロック遊びみたいな住宅街。懐かしい日本の風景だ。およそ三ヶ月ぶりだろうか。高校の入学式以来だからそのくらいだろう。

 僕は名を藤原杏一という、十五歳の獣、あるいは放浪者である。日本国のとある都市で生まれ育ち、醜い人体模型ばかりがひしめく、もたざるものに不寛容なこの世間に押し潰されつつも苦汁を啜り辛酸を舐めるがごとき日々を耐え、およそ三ヶ月前の十五の春、来し方十四年間の抑圧を経て、僕は海の向こうへ飛び出した。

 はるか昔から気づいていたことだが、僕に日本という島国は狭すぎる。故に、僕は彷徨うのである――魂の故郷を探して!

 しかし、僕はこの国に、弟をのこしてきたのだ。血を分けたたったひとりの双子の弟である。名を藤原李一という。僕はお前がこいしくて帰ってくるのだ、わが弟よ。心中ではらからに語りかけ、僕はひるがえる裳裾を稲妻のごとく閃かせる。

 生まれた家より幾分か遠い駅で降りて、夜を歩き続けてきた。線路というものは奇妙なもので、実際に隣を歩くとその大きさに驚く。これは巨大な生物の脊椎ではないか? オス・ミラビリス…そうしてその上を走るのであろう電車という凶暴な文明がそら恐ろしくなる。今飛び降りたフェンスの向こう側の、金属のレェルを凝っと見つめて僕は、少し冷えて、しかしなま暖かくもある夏の夜を味わった。

 不意に、線路のレェルに光が奔った。僕は颯と光の来た方を見る。燃える東の空。――夜明けだ。薄明層のようなルナティック・トワイライト……僕は銀と薄紫に光る山入端にひとつ吠えて、がるるっと頭を揺らした。朝陽の気配が皮膚の下でうごめきだす。立兵庫風に結った髪はわずかにほつれて、夜闇に沈んでいたアプリコットがぎらぎら輝きだす。僕の虚飾の鎧。

 僕はあたりを見渡した。住宅街は住宅街だが、だいぶ町外れというか、田舎の雰囲気である。ところどころにぽかりと田畑の平面が見え、道はその間を縫って続いていくようだった。

 人の暮らしの気配を避けるようにそちらに足を向ける。朝も早くから犬を散歩させたりジョギングしたりという住民らしい人体模型と二、三人すれ違ったが、皆ぎょっと僕を見つめて、それから目をそらした。真っ赤な水玉模様の服をたなびかせ、金色の角を生やした青白い生きもの。人間は物珍しい見世物が好きなのだ。僕は内心で奴等にまぼろしの機関銃を構えた。ずだだだだ! 呟けば、あいつらは血の海に沈んで…それを繰り返して、いつしか僕たちを抑圧する不細工な人体模型どもはいなくなるのだ。破滅の空想にくつくつ笑いながら、ひらりと田圃の畔におりる。あたりは麦の海に似た風情で、しかしもっとやわらかな色彩でもって波打っている。いくつか建物が小島のようにぽつんぽつんと浮いていて、灯りのつい ているところもあった。

 僕は金と朱の互い違いになりつつある明け方を歩きながら、少しいった先の田圃に眼をやって、思わず息を飲んだ。どうしてか季節でもない紫雲英が天上のようにうつくしく咲いていて、これほどまでに巨大な絨毯を知らず、仏蘭西の真っ赤な罌粟の群れをみたときのように立ち止まってしまった。その向こうにも田圃が市松模様みたいに遠くまで続いていて、ぞろぞろ稲の葉の海が朝の気配に揺れていた。僕は道端にある、いっとう背の高い樹に足をかけ、上まで登ってみた。ぎしりとしなる枝と葉群の合間には、なみだの形をした枇杷が鈴なりだ。

 こうして目線を高くすると、離れたところにある、一際大きな日本家屋の一室に灯りがついているのが遠くからでも見えた。やがて灯りが増え、しばらくしてからそこの玄関の引き戸が開け放たれ、ひょっこり、黄色い頭のなにかが顔を出した。おや、と思う間に、その影は庭を駆けて、自転車を引っ張ってくると、動物的俊敏さで飛び乗ってこぎ始めた。

 黄色い頭をした生き物が田圃のすきまを駆けていく。ジグザグの夜明けの星。宇宙船みたいな銀色の自転車がぎらっとあかつきの閃光にまたたいた。ぎゅうんと軌道を変えたかの彗星は、枇杷の木の上にいた僕に気づかないようだった。僕は銀の靴底でみしりと枝をならした。彼はふいっとわずかにこちらを振り仰ごうとしたが、がたりと宇宙的自転車が揺れたのでさっと前を向いた。遠ざかる流星を眺めて、僕は彼が穿いている学生服のズボンが目指すところのものであると気がついた。――鳥のイメェジ! 僕は一気に数メートル飛び降り、体を深く沈めて勢いを殺しきらずに駆け出す。銀の残滓がきらきらしている気がする道を走って、彼が向かったのと同じ方向を目指した。舟のように走る自転車を追いかけるように紫雲英の絨毯を光の波がなめて、極楽の海となった。

 人通りのちらほらある時間帯、場所にさしかかって、路地裏に折れ曲がって消えた自転車の轍のうえで僕は立ち止まった。十三糎のピンヒールの下で、夜の黒灰色だったアスファルトがすっかり朝の影の色に変わっている。腕の肌膚を、しゃらんと夏の熱がなでた。さてはて、同胞の匂いが近い気がする。僕は記憶をたどりながら歩き出した。途中で、映日紅の枝が覆い被さったブロック塀の上に跳びのって、視点をひとりぶん高くした。

 普通の道を歩いていると他人が漏れなく振り返るが、こういったところでは僕をみるのは猫ばかりだ。屋根の上にいた三毛の金の眼が、僕のメタリックなアプリコット・ヘアを見て胡乱げに瞳孔をつづめた

 目的地に近づくに従って、日が高くなってきた。炭酸水を浴びたような熱気が少しずつ増してくる。……こんな夏の朝は魔法が使えそうな気分になる。だから、高く厚みのない塀の上にも、かろやかに跳び移れた。

 やがて路地を抜けるという段になって、視界の向こう側に、坂道を連れだって歩いている学生たちの姿を三々五々見かけた。人体模型どもばかりだが、なんだかんだ楽しそうにお喋りしている。行き交う魂的無機物たちのなかに、傍らの友人と談笑しながらも眠そうにあくびをした、一見平凡そうなのがひとりいた。しかし彼が塀の上にいる僕の傍らを通ったとき、ふと森のなかに立っている気になった。林檎と薄荷の匂いがふっと鼻をくすぐる。ぐるぅりと首を巡らせて彼の背を追った。視線の追尾を感じてか、振り返った彼は、塀の上に腰かけている僕に気がつくとぎょっとして天敵を見たあわれな草食動物のように後ずさる。僕がにやりと狼の笑みでもってそれに応えてやると、彼はあ行の形に口を開き、声なき悲鳴をあげた。隣にいた、猫めく黒髪の少年が怪訝そうに、僕のほうを見上げて……やはり、口を開いて叫んだ。此方の声帯はそこそこ有能なようだ。きちんと音になっていた。黒い林檎のような、艶めいてどこか傷つきやすい少年の眼が、僕の獣じみた姿を映して、やばいやつをみてしまったと雄弁に物語っていた。

 僕は塀の上で立ち上がると、四メートル上から、この二人を見下ろして、金色の角を光らせ、紅の水玉模様をたなびかせ、牙を剥き出して微笑んだ。

 ……二匹の小動物のように逃げ去っていった少年らの背中を満足の気持ちで眺め、僕は塀の上を、彼らの後を追って歩き出した。銀色の二輪宇宙船も、きっとこの道を通ったに違いない。目的地は近い。

 しばらく道をいって、何人かのあわれな人体模型を驚かせたところで、奇妙なものを見た。

 道路脇にある化野めいた空き地の前に……やけにうつくしくって、奇妙に不幸の匂いがする…一角獣のような生きものがいた。その姿には、北国の金と青が輝いている。

 異邦の美貌をもつ彼はなぜだかじっと道端の青い花を見ていて、名もなきそれによく似たかんばせは白かった。

 ……不愉快なような、それでいて哀れみたくなるような、そして…慈しむような気持ちにさせられたのは、彼が僕らと同じ淵にいるような気がしたからだ。彼の影は、地獄のざくろの味がする。

 獣は同族に優しい。僕は彼の足に花の蔦のごとく絡みついているだろう不幸の根が腐れることを祈りつつ、しかしその寄生木が枯れることが、彼の息絶えることにつながってしまうような気もして、もやもやとした悲しい雲に取り巻かれた気がしていた。

 そのとき不意に、彼の後ろで立ち止まって声をかける者がいた。一角獣が振り返る。そこに立っていた健康的に日に焼けた肌をした青年に、どうしてか、菩提樹のつばさのような満開の花をおもいだした。眼の光のせいだろうか。

 白き獅子のような、黒い髪の、背の高い男……。

 思わずからだの奥が疼いたが、この男が青い花を見ていた男に話しかけたとたん、彼らが運命のつがいであることが本能的に察せられて、奇妙な気持ちになった。白き獅子と青き一角獣のつがいは、夏の光とよく似た幸福をやわらかく発していて、揮発性のそのまばゆい愛情がぽとぽとあたたかく彼らの足許に滴り落ちているのである。黒い髪の、肌の琥珀に鞣したような男が優しくのべた指の先から、真珠のように、慈しみがあふれていた。

 ……別段、思うところがあったわけではない。ないったら、ない。僕は確かに、背が高くて黒髪の男が好きだが、それは…それは……もっとよんどころなき事情によるものなのだ。それに、僕は不健康に色の白い肌が好きだ。ぶつぶつ口のなかで唱える。

 つがいは仲好く連れ立って、坂を上っていった。僕は彼らに気づかせるようなことはせず、黙ってその背を見送った。

 ううむ、と塀の上で腕を組む。日の高くなっていく時分、街の輪郭が輝き始めているのを遠くに見て、僕は息をはいた。

 この街はなんとも魑魅魍魎だ。宇宙船を駆る黄色に、薄荷の匂いがする鹿に、艶々とした猫めいた黒、青き不幸の一角獣に、白き慈愛のかいなもつ獅子……。色鮮やかな、人体模型でない、奇妙な生き物たちが息づいている。異質で、不思議な草花をあつめた植物園のように。

 僕は塀の上を歩きながら、魑魅魍魎の同胞に、しばし思いを馳せた。混沌うずまくこの街は、息がしやすい。人体模型に埋もれた都会より、ずっと。機関銃をおろす気にもなる。視線の先に見えてきた目的地――高校の門の輪郭を見つめて、僕は幅の狭いブロック塀の上に腰を下ろした。

 そのとき不意に、此方を指差してなにか言う、汚ならしい声がした。視線を投げると、どうやら学生服を着た人体模型である。僕の姿を見て、何かを傍らのもう一体に囁いている。あまりにも見苦しく醜い姿だったので、腹が立って、脳内で機関銃を構えながら試しに吠えた。……ずだだだだ! 奴らはまぼろしの死体をあとに残して逃げ去った。

 僕はがるるっと頭を振って、門の方へ視線を戻した。

 この街は確かに魑魅魍魎だ――しかし、着々と侵略はすすんでいる。――みちゆくもののなんと平々凡々なことか! 鈍感なるものどもよ――醜き人体模型!

 人間社会とは宝石が無数に流れくる濁流である。そして個々の魂たるそれぞれの宝石の硬度は、きわめて多岐にわたるのである――愚鈍なる大衆は硬く靭きそれをもち、ひとにぎりの脆く軟らかく美しい才能をその武骨な角でもって磨り潰すのだ。

 だから僕たちはみずからを研磨しなくてはならない。少しでも割れにくく、砕けにくい形にならなくてはならない。他者とは異なる故に、いかにも脆いわれわれは――あわれみのこころを知るわれわれは。

 僕は口を大きく開き、牙を剥き出して、腹の底から吠える。

 この世では、醜いものばかりがつよいのである。

 僕はもう一度飛翔した。校門脇の花水木の枝に移ると、軋んだ樹冠から薄紅と白のまざった花びらが降り注いだ。…光を受けて輪郭を金に燃やし、それらは落ちていった。うつくしいものは一瞬で燃え尽きる……だからこそ……。

 僕はそのまま花水木のうえで膝を抱えた。

 目当ての人物は、鐘の鳴る少し前にやってきた。何をしていたというのか! 幾ばくかの憤りと多分なる安堵を込めて僕は塀から飛び降りた。

「りっちゃん」

 ショッキングピンクの手帳を蝶のようにぱたぱたしている李一に声をかけると、奴ははっと亡霊を見たように目をみはり、次いでにっと口角をあげた。腕を広げ、やわらかく抱擁しあう。メタリックで都会的な装飾に混じって、懐かしい匂いがした。鏡と、古い畳と、葬式の匂い。二年前の死の匂い。奇抜な藤色の髪と、一房アプリコットの前髪が僕の頬にふれた。痩せた肩の尖り、鎖骨の感触が身の内をこする。

「杏ちゃん、いつ帰ったんですか」

「昨日の…いや、今日の晩だ」

「台湾から?」

「いいや、ハノイだ」

「誰を待ってたんですか」

 僕が身を離して顔をしかめたのと同じに、わが弟はにやりと笑った。

「紅ちゃんなら、心臓の検査でお休みですよ」

 僕は雷に撃たれたように後ずさった。その名を聞いて、一気に早まった鼓動ひとつごとに、足許にぽとぽと赤が落ちていく。みな拳ほどの塊だ。七竃の実、柘榴、百日紅の花、林檎、南天の房、映日紅……ぐちゅりと潰れた足許に、真っ赤な海が広がっていく……。

「あんなやつ…あんなやつに会いに来たのでは、けしてないの、だ……」

 李一はうっそりと、白いかんばせで笑った。あの――母に似た――紅の映ゆる面立ちを想起させる、ものしずかな表情で。

 僕は二歩、よろめいた風に後退して、それから李一のほうへ手を伸ばした。その手首を掴んだ李一は、僕に身を寄せて囁いた。

「杏ちゃんの脆くて醜くてうつくしいところ、ぼくはずっと愛していますよ」

 力が抜ける。膝をつきそうになって、あやうく踏みとどまったが、裳裾がまぼろしの紅だまりにつかって燃え上がるように赤く染まった。僕は嫌々と首を振って、李一は柔らかくもけして僕の手を離そうとはせず、藤の蔓が絡みつくようにだきとめられた。

 李一は、僕の背中をぽんぽんと叩いて言った。

「おかえりなさい」

 そんな――母親のような真似はやめてほしかった。僕は悲しくて李一を突き放したかったけど、離れるのも嫌だった。自分のしたいことがわからずに体から力を抜いて俯くと、そこにはぼろぼろの獣が一匹残っていた。

「こんな狭い街じゃあ、ぼくたち嫌な目に遭うでしょう。それでも来てくれたんですね、杏ちゃん」

 かぶりを振った。確かに、過去の腐敗した靄が取り巻く街並みはつらいことばかり思い出させる。だけれど、だけれど、……僕は、戻ってこざるを得ないのだ。李一は背負っていた鞄の位置を直して、ちらりと坂の下を見た。

「家で逢いましょうといっても、来てはくれないでしょうね」

 僕は黙っていた。李一は変わらず、少女じみたかんばせに微笑みを浮かべている。いつからだろう、李一が泣かなくなったのは。僕の後ろに隠れていた昔の李一は、振り返るといつも悲しそうな顔をしていた。

 今の李一はけして崩れない。鋭く研磨された、油断のない宝石の微笑み。身を削り、痛みに耐え、人工的に輝きと強度を獲る生存戦略だ。

「りっちゃんは、……」

 何かを続けようとして、何も言えなかった。息を何度か吸う間に、裳裾の紅染のまぼろしが薄れて、なんとか落ち着いた。

「擬態が巧いな」

 ふと思い付いて言ったことばに、李一がにいっと吊り上げた口の端から、僕のものと同じ、尖った糸切り歯が白く覗いた。

「ぼくは学んでいますからね。きっと、外の世界はもっと酷しいでしょう。だから、武器と戦略を学ぶのです」

 僕はそこに戦友の表情を見いだした。かつて別たれし鏡とは云えど、李一と僕は双子のきょうだいなのだ。獣の、魑魅魍魎の、同胞なのだ。

「もう少し話したいですけど、時間です。社会的動物である人間は、文明社会には勝てないのですよ」

 人間の皮をかぶった獣のまなざしで、李一は白い校舎の時計をふり仰いだ。それでから此方を向いた双眸には、惑星のごとく奇妙な引力を持っていた。…ここで、立ち去ってしまうことなど許さないというような。

「まだ日本にいるでしょう、杏ちゃん」

 そして眼差しの物語るのと同じように、暗に逃げることを禁じる内容を李一は口にした。さあな、と嘯いたが、僕の脚はもうこの弟に掴まれていた。李一はそれをきいて嬉しそうに――こんなときだけ、子供のような表情をするのだから!――僕に手を振り、門の向こうへ足を踏み出した。残酷な宝石の海へ。荒れ狂う嵐の前兆たる、モラトリアムの白い学舎へ。李一の藤色の髪が連なる紫玉のごとく翻り、目を射った。

 最後に振り返った我が弟は、装飾と微笑で鎧おった、うつくしき獣の声で言った。

「それじゃあ、杏ちゃん、さようなら」

 ひとつだけ頷いて、僕は塀の上に跳び上がった。二本角の獣の影がうつる。

 狼のイメェジ!

 僕は身を翻して駆けだす――朝陽が全身を刺し、光の針の傷痕から鮮血のごとき虚飾の毛並みが湧き出でて僕を鎧おう。機関銃を携えて、僕は濁流世界の戦場を駆け抜ける。水玉の鎧のすき間から浸潤してくる紅が身を灼く痛みに耐えて、耐えて、僕は吠える。

 いつの世にも、凡俗は蔓延り、嵐は訪う。きらめく獣を狩らんとする愚鈍な岩石の群れに打ち勝つため、我々は常に武装する。

 永遠なれ、魑魅魍魎!




 無才なるおにあり、名づくる名なし、かたちみにくく大いなる耳と剥きだしの目をもちたり。このおに、ひとの詩あまた食らひて、くちのなか歯くそ、のんどにつまるものみな言葉、言葉、言葉—ひとの詩句の咀嚼かなはぬものばかりなり。ひとの言葉に息つまることの苦しさ、医師に訴ふるに医師、一羽の百舌鳥をあてがふ。百舌鳥はあはれみのこころ知る鳥なれば、おにのあけたるくち、のんどの奥ふかくとびこみめぐりつつこびりつきしひとの言葉を啄み、またのみこみ、おにの苦患をすくひたり。さればおに、さはやかに戻れども、ひとの詩をふふみ、消化せし百舌鳥、大空に酔へることかぎりなく、つひに峡谷ゆさかさに堕ちて果てたり。あはれ、詩を解すものすこやかならず、ただ無才なるおにのみ栄えつつ、嗤へりき。――寺山修司「言葉餓鬼」


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