裏ボスを倒そう!

「……本当に行くんじゃな?」


 幼女ミリアムちゃんの問いかけに、無言で頷く。


「あのゴーレムを作ったのは……アイツじゃ。アイツを止められなかったわらわに責任がある。やっぱり妾が、差し違えてでも――」

「ダ・メ・だ!」


 まったく、んな事させられるかよ。

 それを言うなら、やらかしたのはプレイヤーだ。俺達プレイヤーの方が責任がある。

 それ抜きにしたって、幼女ミリアムちゃんには色々と恩もある。リスポーンも出来ないNPCに無茶させてたまるか。


「なぜじゃ! 無限の命を持つ【ぷれいやあ】と言えども、『死』の恐怖は避けられない……お主だって、さっきまで震えておったではないか!」

「だとしても、だ」


 幼女に戦わせて、自分はすみっこでガタガタ震えてる。そんなカッコ悪いおじさんがどこにいる?

 俺の見てきたおじさん達は。俺の知ってるおじさん達は。

 弱くても、臆病だとしても。決してそんな、卑怯者ではなかった。

 俺だって、そんなカッコ悪いおじさんになる気はさらさらない。


 だって、このゲームは役割を演じるロールプレイングゲームだ。

 クソ運営がどんなジャンルを自称しようと関係ない。俺が、そう決めたんだ。

 だから――最後まで、理想の自分ロールを演じ切ってみせる。


 それに、さ。

 今はもう……不思議と怖くないんだよね。


「だから……俺達の勝利を祈っていてくれよ、お嬢ちゃん」


 もちろん、幼女ミリアムちゃんが見た目通りの幼女で無い事はわかってる。

 それでも――俺にとってはかけがえのない、守りたい対象だ。


「……わかったのじゃ。でも絶対に……絶対に無事で戻って来るんじゃぞ!」

「ああ、約束だ」


 じゃあ――行ってきます、幼女先輩。




    □ □ □





「どうやら、そろそろだよ」


 たしかに、もうすぐ限界みたいだな。


 今や他のプレイヤーはゴーレムに全員潰され、復活リスポーンしようとしては一瞬で潰され続けているだけだ。まだ復活リスポーンを諦めてないプレイヤーが残っているが……それも、時間の問題だろう。人間の精神は、何度も虫のように潰される状況に耐えられる程、頑強では無い。


「みんな、作戦は頭に入ってるな?」


 力強く頷く仲間達に、思わず笑顔が漏れる。



『GGGRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!』 



 オリハルコンゴーレムが最後の仕上げとばかりにモグラ叩きリスキルの速度を上げる。プレイヤー達の奮戦虚しく、その身体には未だに、傷ひとつ無い。

 でも……彼らの犠牲で、時間は稼げた。おかげで、俺たちの準備は済んでいる。


「――作戦を開始する。リュンネ!」


 俺の合図に頷いたリュンネは、朗々と詠唱・・を開始する。


「出でよ、応えよ、地に満ちよ。恐れに、支配に、叛逆を。天の全ての光を堕とせ。汝は終末――尽きる事無き無限の煉獄!」


 呪文に呼応するように、リュンネの周囲には抱える程の大きな火球が次々と現れる。その数は20、30……いや、魔力が尽きるまで増え続ける!

 ゴクゴクと魔力回復薬を飲みながら、リュンネの魔法は完成に近づく。


『GRRRROOO…』


 そしてゴーレムが最後のプレイヤーを潰し終わり、こちらに向き直る……その瞬間。


「薙ぎ払い、の者を導け! 極大全天炎星群アンリミテッドメテオストリーム!」



 リュンネの魔法――無数の火炎弾が機関銃マシンガンの如く放たれる。



『GRRRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!』


 

 火炎弾は次々とゴーレムに着弾するが、やはりダメージを負っている様子は無い。


 だが、それで良い。これだけの数があれば目眩し・・・としては十分だ。火炎弾の間を縫いながら疾走しながら、奴を見る。ちょうど良く、ゴーレムが鬱陶しそうに手を振り払う動作を――。


「ここっっだぁっ!」


 雄叫びとともに、地を蹴る。

 狙うは奴の目。

 一度の跳躍で足りない高さは、


火炎弾これで補う!」


 空中で、思い切り火炎弾を踏みつける。

 システムプロテクトによって俺はダメージを負わない……どころか、弾かれてさらに上空に跳ね上げられる!


『G…RROOO!?』


 腕を振り払いきった所でようやく、奴が俺の存在に気がつく。

 ……が、もうおせーよ。高さばっちりだ。


 左手には即席のミスリルの杭。右手には使い慣れた槌。

 精々、歯ぁ食いしばれよっ! 


「水・滴・石・穿っっっだぁあああ!!!」


 俺がこの世界で最も、誰よりも慣れ親しんだ動作。最高の熟練度を活かした攻撃。

 思いっ切りを打ち付け――ミスリル杭を奴の目に突き刺す!


『GGGGGRRROOOOOO!?!?』


 とは言え、これだけでは致命傷には程遠い。

 奴は混乱しながらも、無茶苦茶に腕を振り回し俺を潰そうと――。


「させませんっっ!!!」

「いっっくニャー!!!」


 ココネルさんとスクスクが、手に持ったミスリル線に思いっきり魔力を注ぐ。

 ミスリル線は、奴の目に突き刺したミスリル杭に繋がっている。注がれた過剰な程の魔力は、杭を通ってゴーレムに注がれ――。


『G…GR…GGRR…????』


 奴は、バグったように動きを止める・・・

 スタンガンと同じ事だ。過剰に注がれた魔力が奴の魔力伝達網をメチャクチャに乱し、動きを麻痺させている。

 これも効果は一瞬だろうが――それで十分だ。


「四連――」


 ソレイユが構える、赤く発光する刃。

 それが、一瞬で四閃。


「――飛斬・“花水木“」


 目にも止まらぬ速さで、花が咲くように放たれた『飛ぶ斬撃』は。

 ゴーレムの四肢を、根元から正確にぶった斬った。


『G……R……!』


 轟音とともに、手足を失ったゴーレムが崩れ落ちる。


 ……それで、全ては終わりだった。

 四肢を失ったゴーレムは、もはや動きようがなかった。

 俺たちは、無事にオリハルコンゴーレムを倒せたんだ。





 はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

 良かった〜、なんとかなった。

 流石にどうなることかと思ったよ、今回は。ハードだったねえ。


「お疲れ様、オールディ」


 へたり込む俺に、声がかかる。

 おう、ソレイユもな。最後の斬撃、バッチリだったぜ。


「どうだった? 初めての戦闘は」


 まあ、意外とあっさり勝てたけどな。強敵だった割に。

 でもなあ……今回はテンションハイだったけど、毎回これはしんどいね。ドキドキしすぎる。いや〜、やっぱしばらくは遠慮しとこうかなあ。


「そうかい? 結構、良い動きしてたけどね」


 アバターの能力自体は成長してるしな。うん、出来なくは無い気はするけどさあ。


「くぅ〜、撮れ高来たわこれー!」

「んニャニャ〜、勝った勝ったニャー! す〜ごかったニャー!」

「オールディさん、ソレイユさん、大丈夫ですかっ!?」


「おっと、お迎えが来たね。じゃあまずは……」


 だな。

 ま、何はともあれ、だ。


 ――帰ろうか、俺たちの日常に。

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