そして、それから、その先で

 少し、それからの話をしよう。


「おおお〜、いっぱい実ってるニャー!」

「おーおー本当だ。大量だな」

「元気ですね〜、魔力草。すくすくと育ってますよ〜」


 ですねえ。やっぱ、ここの気候があってんのかねえ。


 ココネルさんと一緒に、スクスクの畑を手伝っている。薬草も魔力草も、栽培は順調だ。魔力コブは結構頻繁に収穫できるし、魔力ポーションもそこそこの量を安定供給出来そうだ。まあ、魔力ポーションはいくらでも需要があるから、全然足りてはないんだけどな。

 ああ、魔力ポーションは生産ギルドで正式に買い取ってくれるようになった。結構良い値段になるから、懐的にはウハウハだ。

 あとは……なんとか生産量を増やしたいところだなあ。カリナさんも「是非ともこの街の特産品に!」って、息巻いてたし。俺としても、この街の発展に繋がる事ならどんどん協力していきたい。今回の事件の復興も、色々と大変だろうし。まあ、街の雰囲気は明るいし、逞しく修復工事は進んでるから、大丈夫だとは思うけど。


 うんうん。その辺も考えると、畑の規模はもっと拡大しても良いかもな。

 ちょうど良く……新入り・・・も入った事だし。


『GRR…!』

「キンタもいっぱい取れたニャ〜? えらいニャー、その調子でがんばるニャー!」

『GRR! GRR!』


 こうして見ると、まるっきり無害な金ピカなんだけどなあ……まだちょっと見慣れない光景だ。


 そう。あの事件で大暴れしていたオリハルコンゴーレムは、今はスクスクの畑の作業員兼警備員になっている。

 なんでかって言えば……まあ、その必要があったからだな。


 あのゴーレム暴走事件を後から色々調べてみると、この畑を狙われる危険があることがわかった。そもそもの原因になったプレイヤー達が、俺達の周辺を嗅ぎ回っていたみたいなんだよな。で、近くにあったあの館にも突入しちまった、と。

 たまたま館の方に行って、畑は手をつけていなかったみたいだけど……ここは、魔力草っていう重要物資も栽培している。見つかると色々と面倒な事になるから、他人が勝手に踏み入れないように何か警備手段が必要になった。今まで全然考えてなかったけど、そういうプレイヤーがいるなら警戒しとかなきゃいけない。


 で、結局あのオリハルコンゴーレムを修復して、再利用する事にした。

 そもそも警備システムに使われていた奴だしな、最適っちゃ最適だろう。ちなみに関節部は俺が強化したから、前より戦闘力は上がっている。

 もちろん、制御術式プログラムは全面的に書き換えてあるけどな。その辺は幼女ミリアムちゃんが念入りにやってくれた。錬金術師すげー。だから今は、危険性は全然ない。昨日の敵は今日の友。中身書き変わってるんだから別人みたいなもんだし、単純に頼れる新入りが来たと思って良いだろう。24時間体制で畑の警備もしてくれる凄い奴だ。なお、『キンタ』って名付けたのはスクスクである。謎センス過ぎない? 本当にその名前で良いの?


「……でも、本当にタダで良かったの、幼女ミリアムちゃん? 結構大変だったでしょ、術式再構築リプログラム

「良いんじゃ良いんじゃ。せめてもの償い……と、お主が約束を守ってくれたお礼じゃよ」


 幼女ミリアムちゃんは、まーだあの事件に責任を感じているらしい。別に何も悪くないと思うんだけどなあ……ちょっと良い人過ぎるよ。またなんか、恩を返さないとな。


 ちなみに、例の館は厳重に再封印してある。多分、あのゴーレム以上の警備システムは無いだろうとの事だけど……念のためだ。またあんな惨劇を引き起こすわけにもいかないし。

 まあ、いつかは入って調べた方がいいかもな。色々と、気になるところはあるんだ。例えば、なんで館の主人の名前が『石油王ゲー』開発者の名前と同じ『ヘルメス』なのか、とかな。一度だけだけど、幼女ミリアムちゃんは確かにその名前を口にした。何となくだけど……偶然の一致ではない気がするんだよなぁ。


 ああ、あと気になると言えば……。


「そういえば、あのゴーレムに使われている大量のオリハルコン。一体、どこから入手したんでしょうね?」


 ただでさえ希少で入手法も不明な伝説の金属だ。どれだけお金を積んだところで、あれだけの量を入手できるとは思えない。


「…………お主は、どこから入手したと思う?」


 逆に聞き返されてしまった。……さすがに、ちょっと露骨すぎたか。

 まあ良い、単刀直入にいこう。


「自分で造った・・・んじゃないですか? いや、そもそもオリハルコンって物質が――錬金術によって造られた『人工金属』なんだ。違いますか?」


 そう考えれば、色々と辻褄は合う。どうしてオリハルコン鉱脈が見つからないのか、なのに幼女ミリアムちゃんが大量に持っていたのか。『ヘルメス』がゴーレムに大量に使えたのか。

 あとは、幼女ミリアムちゃんが『金よりも純粋、完全』って表現したのも気になっていた。より純粋な物を造る事、それは錬金術の目的だからだ。オリハルコンが金を素材に錬金術で『より完全』な状態にした物質、なのだとしたら――辻褄は合う。


「……なるほど、全てお見通しというわけか」

「アタリ、ですか?」

「そうじゃな。しかし、妾が勝手に製作法を教える事も出来んのじゃ」


 あっ、やっぱそれはダメ?

 

「だから――自分で見つけるが良い! 『エメラルドタブレット』を探すのじゃ! そこに、全て記してある!」


 あーなるほど、そういう感じね。

 やれやれ……錬金術も、まだまだ先は長そうだ。


「『エメラルドタブレット』……か。へえ、楽しみだね」

「……なんじゃ。お主、そんな風にも笑えるんじゃのう」


 えっ、今いい感じだった?

 ようやくこの顔にも慣れてきた……ってことかな?




    □ □ □




「ほんっとありえないんだけど!!! 何であんたが出ないのよ!!!」


 いつもの酒場。いつものメンバー。

 で、リュンネに怒られている。


 何でかって言えば、先日行われたゴーレム事件の祝勝セレモニーに出なかったからだ。

 領主様の主催で、街を挙げて結構大々的にお祝いしたらしい。で、俺達ゴーレムを倒したメンバーには表彰とか色々あったみたいなんだけど……いや、恥ずかしいじゃんそんなん。


 はい、すみません。完全にバックれました。


「まあまあリュンネ、落ち着いて」

「も〜、だって、アンタが一番の功労者なのに!」


 いやー、俺1人じゃ何も出来なかったしね。みんなで掴んだ勝利だよ。だから別に、俺が表に出る必要ないじゃん。俺はこうして、いつものメンバーで祝ってる方が性に合ってるからさ。


「一緒に出れなかったのは残念ですけど……面白かったんですよ、色々?」

「ソレイユなんて、求婚されちゃってたニャー!」


 えーっ! 何それ面白そう!!!


「求婚って言うか……領主様が酔っ払っちゃってね。『娘の夫になってくれ!』なーんて、言い出しただけだよ」


 中々愉快なおっさんみたいだけど、それで良いのか領主。

 えっ、っていうかNPCと結婚ってできるのか? その辺どうなんだ?


「で、それなんて答えたんだ?」


 ワクワクと訊く俺に、ソレイユは半ば呆れた様に答える。


「もちろん断ったよ。そもそも、夫は絶対無理。だって僕は――女子・・だからね」


 えっ、ソレイユお前……女だったのか……。

 ……うん、知ってた。


 従来のゲームならともかく、没入型VRでは中の人の性別って結構わかるからな。

 ちょっとした仕草、話し方、態度、などなど。まあ、雰囲気でわかるもんよ、その辺は。


 大体、ソレイユはカッコいいけど……ヅカ系のカッコ良さだからなあ。先入観さえなければ、別に男顔というわけでもない。整ってるから比較的中性的ではあるけどさ。


「なんだ、オールディはあんまり驚いてないね。それもそうか、だって――オールディも同じだもんね」


 ……ん? 何のことだ?



「だーかーらー……オールディも、女の子・・・なんでしょ?」



 …………………………え?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る