【WARNING!!!】裏ボスがあらわれた!【WARNING!!!】

 いつも通り『石油王ゲー』にログインした途端、システムメッセージが表示ポップされる。


『今日のログインマネーを入手しました』


 うわっ、遂に来たよ。


 メッセージを読んでみると、「好評につきゲーム内マネーの配布を始める」との事。ソシャゲで課金石を配るようなもんだな。ゲーム内マネーとは言え、配布自体は割とありがたい。ゲーム内で欲しい物もいくらでもあるし、スノバとかの企業コラボの店でも普通に使えるからな。


 ちなみにゲーム内マネーで支払った場合、コラボ先の企業には運営がリアルマネーで補填しているようだ。「そんな事して運営はお金大丈夫なの?」と思うかもしれないが、実は余裕で大丈夫なカラクリがある。


 『石油王ゲー』の収益構造を見てみれば、その辺はわかりやすい。

 まず、課金要素はほとんど「企業コラボのコンテンツの購入」に限られている。で、このコラボコンテンツの売り上げの何割かを『石油王ゲー』運営が取っている。これが主な収入源だ。やり方としては、スマホのアプリストアなんかに近いな。あれもアプリストアという配信の「場」を提供する代わりに、売り上げの3割程度を取っている。『石油王ゲー』もVR空間という「場」でコンテンツを提供させる代わりに、収益を得ているわけだ。

 そして、この収入から運営費やら「ゲーム内マネーで購入されたコラボコンテンツの補填分」が引かれる。これが最終的な利益になる。だから当然、プレイヤー達がリアルマネーで購入する額が少なく、ゲーム内マネーでばかり購入していたら赤字にしかならない。でも実際のところ、そうはなっていない。プレイヤー達の課金額はうなぎ登りで増えまくり、今やどえらい金額になっているらしい。


 まあね、『石油王ゲー』内でマネーを大量に稼ぐハードルは高いしね。他のゲームみたいにサクサクとモンスターを狩って、ガッポリ稼ぐってわけにはいかない。だから多くのプレイヤーは簡単に出来る街中依頼クエストだけチョコチョコとやって稼ぎ、それでも足りない分は課金してコンテンツを購入しているようだ。

 まあ無課金を貫いている人も多いし、廃プレイをしてゲーム内マネーをそれなり以上に稼いでいる人もいるだろうが……こういうのは割合の問題だからな。トータルで課金額が多ければ、無課金で得をしている人がいくらかいても特に問題はない。その辺はよくあるF2P基本無料ゲームと一緒だな。ソシャゲとかも9割は無課金で、1割のプレイヤーの課金で収益バンバン出してる構造だったりするし。


 他のF2P基本無料ゲームと比べてちょっと特殊なのは、『石油王ゲー』の課金コンテンツは、他のゲーム要素と特に関係ないってところかな。普通はガチャとか、ちょっと便利なアイテムの課金購入で稼ぐけど、そういう課金要素がない。

 ビジネス的に言うと、『石油王ゲー』のゲーム部分はプレイヤー達をVR空間により長く繋ぎ止めるための餌でしかなく、企業コラボコンテンツでガッポガッポ稼ぐ方があくまでメインの目的なんで〜す――ってのが表向きの説明カバーストーリーなんだろう、きっと。


 などと考え込んでいたけど、何かさっきから外が騒がしい気がする。

 てかあれ? ココネルさんからのフレンドコール履歴が何回もあるな。何か用事かな?


『オールディーさーーーーん!!! よかった、繋がりました!!!』


 と、思っている間にまたココネルさんからのコールだ。

 ええっと、どうしました?


『大変が大変で大変なんです!!! 今どこですか!?!?』


 えっ、まだお店ですけど。今ログインしたところで……え、噴水広場が?

 とにかく大変らしい。よくわからないけど、ちょっと様子を見に行きますか。




    □ □ □




「何が……起きてんだよっ、これ…………!?」


 一言で言えば。

 噴水広場は――この世の地獄・・と化していた。


 普段は多くの人々が行き交う街の中心地。街のゲーム開始地点でもあり、この街のプレイヤーなら誰もがお世話になっている、憩いの場所。


 それが今や……見る影もなく破壊しされ尽くしている。

 広場のシンボル、大きな噴水はメチャクチャに抉り取られ。かつて綺麗に敷き詰められていた石畳には無数のクレーター。周囲の建物は良くて半壊、いくつかは嘘のようにぺシャリ・・・・と潰されている。漂ってくるのは、むせ返る程の血と、肉と、土埃の臭い……。


 ――いや、何よりも。

 広場の中央に陣取る、全ての破壊の元凶。


 凶々しく黄金色に輝く巨兵・・

 奴の放つ圧倒的な迫力プレッシャーが――この場所を、地獄に変え果てていた。


『GRRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』


 誰かがまだ応戦しているらしい。無機質な咆哮を轟かせながら、奴は尚も暴れ回っている。


「なんで街中に、こんな……!?」


 金属製の……ゴーレム、か?

 見た事のない種類だけど、ヤバイ魔物モンスターなのはわかる。確実にその辺に……ましてや、街中に出現して良いような魔物モンスターじゃあ、無い。


 しかも……あの全身を覆う黄金色・・・。あの色はよく知っている。あれほどの量だ、にわかには信じがたいが……ここのところ毎日のように触り、研究し、打ち鍛えていた俺が見間違えるはずもない。

 あれは全部――オリハルコン・・・・・・じゃないかっ!!!


「左様。オリハルコンゴーレム、じゃな。既に完成させておったとは……アヤツめ」


 いつの間にか近くに来ていた幼女ミリアムちゃん。彼女がこの魔物モンスターを知っている、と言う事は……。


「残念ながら、誰かがアソコ・・・から連れて来てしまったようじゃな。ほれ」


 幼女ミリアムちゃんが指し示す方向を見てみると……うーわっ。


 そちらの方向には、出鱈目に破壊され尽くした跡が広場の遥か外まで続いている。あの調子じゃ、街を囲う防壁から破壊されてるな、多分。そしてあっちは……あのヤバイがある方向だ。恐ろしい警備システムが残されていると、幼女ミリアムちゃんが警戒していた、あの館。


「クソッ、そういう事かよ……!!!」


 おそらく、こんな経緯だろう。

 どっかのバカ共が迂闊うかつにも館に踏み入り、館の警備システムであるオリハルコンゴーレムを起動させてしまった。ゴーレムの迫力にビビったバカ共は、逃走しようとし――よりにもよって、街の方向に走り出した。

 あるいは防壁で止まるとか予想したのかもしれない。だが結果的には、バカ共は最悪の魔物モンスターを街中に引き連れトレインして――この惨状を引き起こしやがったんだっ!!!


「オールディーさーん、御無事ですかっ!?」

「せんぱーい、大丈夫ニャー!?」


 おおっ、ココネルさん達が手を振りながら駆け寄って来る。

 ええ、もちろん俺は無事です。今着きました。


 と言っていると、ソレイユ達も駆け寄って来た。2人もちょうど着いたタイミングのようだ。


「なんだか大変な事になってるね、オールディ」


 珍しく険しい顔のソレイユに頷く。ああ、過去最悪のピンチだよ。


「不幸中の幸い、まだNPCの犠牲者は出ていないみたいよ。でも……」


 リュンネの顔も晴れない。それはそうだろう。あの暴れっぷりだ、いつどんな被害が出てもおかしくない。もしかしたら、この町ごと破壊し尽くすことも……!


 っていうかそうか。NPC・・・の被害は出ていない。だが最初に狙われて、引き連れトレインして来たバカ共が無事で済んだとは思えない。つまり、やらかしたバカ共は……プレイヤー・・・・・か!


「まったく……」


 困ったもんだね。

 MMOは多くのプレイヤーがいる。全員が良識ある行動を取れるとは、ハナから思っちゃいない。いくら幼女ミリアムちゃん達が警告を出そうが、いつか誰かがあの館に入るだろうとは予想していた。しかし、まさかこんな事態を引き起こすとは……。

 多分、俺は話した事も無いプレイヤーなんだけどさ。同じプレイヤーがやらかした事だ、誰かがケツくらいは拭いてやらないとな。どのみち放置しとくわけにもいくまいて。


「しょうがない……なんとか攻略しますか」


 全身を無敵の金属で覆われた、黄金色の悪夢――オリハルコンゴーレムを、な。

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