とあるモブが死んだ日
……ざっけんなよ。こんなの、こんなの……!
『はい、見事に斬撃を飛ばして、遠くの巻藁を斬る事が出来ました!』
『すっごーい、と思った人は是非チャンネル登録よろしくお願いしまーす!』
動画の2人は笑顔を振りまいている……クソがっ……!
「こんっなのっっチートじゃねええかあああああ!!!!!!」
「うるっせーぞ
叫んだ瞬間に、スパンと頭を叩かれる。
ひっ、ひでえ! 叩くことねーぜ!
「だってよぅ兄貴! こんな動画見たら誰でもそう思うぜ! なんなんだよこの『飛ぶ斬撃』って!」
「『
おっとっと。最近このアバターの
「まあたしかに……俺もこの動画には思うところはあるけどよ。ましてや、
そうだぜ兄貴ぃ! あいつら絶対チートだって!
リュンネとソレイユ。今や飛ぶ鳥も落とす勢いの『石油王ゲー』において、多分一番有名なプレイヤー。あの『プレイヤー初の魔法動画』は全プレイヤーに……いや、『石油王ゲー』を全くやった事の無い人間にも大きな衝撃を与えた。『リアルな世界で魔法を使える』事は、それだけ映像的なインパクトが大きかったんだ。まあ、その前からNPCが使ってる動画はあったんだけど。ただ、非ゲーマーは普通そこまでチェックしてない。『石油王ゲー』の動画も、バズったリュンネ達の動画を初めて見たケースが多かったらしい。
で、あの動画を見て多くの人間が「魔法を使いたい!」って思った。実際、動画を見て『石油王ゲー』を始めたプレイヤーも多くいるし、それまで棍棒で
そして、最近になってようやく他のプレイヤー達も魔法を使えるようになってきた。剣技を練習するプレイヤーも増えたし、棍棒一択と言われていた初期と比べれば大幅に環境は変わった。まあ、戦闘は早々に諦めて簡単な仕事で小銭稼ぐだけのプレイヤーも多いけど。と言うか、今やそっちの方が多いかもしれない。非ゲーマー層も増えたし。
そんなこんなで大分マシにはなったけど、初期の環境は本当に酷かったなあ。魔法なんて誰も使えなかったし、戦闘もひどいもんだった。詐欺OPでは人外バトルを繰り広げているし、NPCも英雄クラスになるとあんな動きを出来るらしいんだけど……俺たちプレイヤーの動きはクソ雑魚だからな。アシストないからアバターの動かし方が難しいのは当たり前なんだが、そもそもの身体スペックがどう考えても足りてない。なんか攻略法があるのかもしれないが、よくわかんねーんだよな正直。攻略wikiは『石油王ゲー最強リセマラランキング!』とか載せてるだけだし。『石油王ゲー』にガチャもリセマラもねえよっ糞エアプ野郎がよぉっ!
ま、そんなわけで結果的に色々と良い影響も与えてくれたリュンネ達だが……俺たちゲーマーは素直にそんな話を受け入れる程ピュアではない。大体、都合が良すぎないか? 多くのプレイヤーが魔法を諦めて引退を考え始めたタイミングで丁度よく『プレイヤーが魔法を使う動画』を出して来るなんて。しかも、芸能人顔負けの美形2人がだぜ? そんで都合良くバズってプレイヤー増、とかさ。話が出来すぎだろ? 普通に考えて――『
「で、今回は何のシステムの宣伝だ? ソードスキルでも実装された?」
「お前まだ『運営の回し者』とか思ってるのかよバカ」
いやいやそこは確定でしょ。そろそろ現実を認めようぜ、兄貴。
つーかよー、困るんだよなあ剣士がこんな遠距離攻撃できるようになったらよー。せっかく魔法を使えるようになったのに、アドバンテージが無くなっちまうじゃねえか。コロコロ環境変えるんじゃねーよクソ運営! 詫び石よこせ!
「まあ、バカは置いとくとして。うーむ……魔法にしては見た事がないタイプだな。ソレイユが魔法を使えるとも思えないし。リュンネがこっそり魔法を使ってる――にしては位置が遠すぎるか。スキルか、あるいは剣に秘密があるのか……」
あー、たしかにこの黄金色の剣は怪しい。これが『斬撃を飛ばす効果のあるアイテム』だとしたら、人権アイテム間違いなし。ゲーマーとしては至急入手する必要があるなぁ。運営側の2人が動画をあげるくらいだ、他のプレイヤーも入手可能なアイテムに違いない!
「それ、その剣だよ兄貴! よし、早速探しに行こう!」
幸いあの2人の周囲はマークしといたからな。怪しいところは心当たりがある。クックック、出来るゲーマーは準備が違うぜ〜!
□ □ □
「いや、ここは流石にヤバくないか? たしかに何かありそうだけど……大体、このゲームで不法侵入はまずいだろ」
「大丈夫、こんなところまで衛兵は来ねーよ兄貴。おケツに入らずんば何とやらだ」
「おケツじゃなくて虎穴だバカ」
見上げた先に見えるのは、古びた大きな洋館。街外れにある、異様に雰囲気がある建物だ。
リュンネ達とつるんでいる連中がよくこの近辺にいるらしいんだよな。猫耳娘とかピンク髪とか知らないおっさんとか。だから前から何かあるんじゃないかとは思ってた……ところに、あの動画だ。あの剣が隠されている可能性は高いと見たね!
「仲間も集めれるだけ集めたし、いけるっしょ。ま、最悪でもデスペナくらうだけじゃん」
「でもなー、散々NPCがヤバイって言ってたところだからなー……」
兄貴って変なところで慎重だよなあ。考え過ぎ考え過ぎ。
「おーい、壊せたぜー!」
なーんて話している間に仲間が門の鍵を壊し終わったようだ。
「オッケー今行くー! ほら兄貴、さっさと行こうぜー」
さーて、あの館にはなにがあるのかなっと!
門をこじ開け、期待を胸に、仲間達と共にゾロゾロと敷地内に踏み入る。
――変化はすぐに訪れた。
【WARNING! WARNING! WARNING!】
「……何だ?」
「機械音声……か?」
どこからか聞こえる、合成音声のような音。思わず足を止め、周囲を警戒する。
【ENEMY! ENEMY! ENEMY!】
「おい、あの、あそこ……!」
仲間が指差す方向を見れば、館の近くにある
いや……小山ではない。長年動いていなかったから、表面に土が堆積していただけだ。その証拠に、立ち上がる動きで土が滑り落ちた表面からは
『G...GR.......GRRR......』
奴の身じろぎが引き起こす地響きは、地獄の底から聞こえるみたいで……いや、これは奴の唸り声か?
「なん……だよ、これ……!」
息が苦しくなる程の存在感。ゲーマー特有の直感が、ガンガンと警鐘を鳴らしている。こいつは今まで見てきた
5メートルはあるだろう、見上げる程の体躯。全身が黄金色の金属で構成された、異形の巨人。
立ち上がりきった
まるで、俺たちを1人残らず認識しているかのように。
……誰1人、
『GRRRRRRR......!!』
ああ、クソ。ついてねえ。いや違う、兄貴の言うことを聞いていれば……クソ。戦う? 無理だろ、こんな化け物。どうすれば、魔法も攻撃も効く気が……クソッ、思考がまとまらない――!
「……ごめん兄貴」
「言ってる場合か! 全員――」
ははっ、情けねえ。
足が……
『GGGRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!』
金属質な咆哮と共に
「――今すぐ逃げ」ブシュ。
「えっ、あ」
兄貴が
遅れて理解した時には、既に黄金色が目前まで――。
ああ、クソ。
死んだなこ
ブシュ。
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