ドリンクバーで謎の自作レシピとか皆やったよね。やらない?
こうして窓の外を眺めていると良くわかるけど、この街のプレイヤー人口もグッと増えたなぁ。
それほど長い期間が経っているわけでも無いけど、ゲーム始めたての頃と比べると差は歴然だ。絶え間なく多くの人々が行き交うようになって、この通りも随分賑やかになった。
しかも、普段ゲームをそれほどやらなさそうな層が特に増えてるんだよね。女子高生っぽい子達とか。キャピキャピと肩組んでピースしてる光景とかよく見るし、多分その辺の年代な気がする。なんか石油王ゲー内で撮った自撮りをインスマにあげるのが流行ってるらしい。ファンタジーな世界観だし、割と映えるのかね?
「この『窓』は街の様子が見えて良いですね。私、この店気に入りました」
ですねえ。まあ『窓』と言っても本当の窓ではなく、外の光景を投影している仮想ディスプレイ的な物なんだけど。ここ、仮想個室だし。
新しく出来た大手ファミレスの石油王ゲーコラボ店に来ている。ドリアが美味しいあそこね。ドリンクバー頼んどけば長々とダベったり出来るから、ファミレスは結構便利かもな。リアル店舗だと混んでる時は迷惑になるけど、仮想個室あるゲーム内ならそこも気にしなくていいし。
「なんか、同じ柄のタオルを持っている人がよく通りますね。なんでしょう、あれ?」
うん? ココネルさんは知らないんだ? 結構話題になってた気がするけど、まあ興味なければそんなもんか。
「あれはライブグッズですよ。今夜からですから」
「あっ、ヒオトコンのライブ今日からニャ? そういえば、友達も行くって言ってたニャ〜」
「なるほど、ライブのグッズですか!」
カラオケ、ボーリング、ゲーセン、漫喫……等々。あらゆる娯楽施設が『石油王ゲー』内にコラボ出店を始めているけど、コンサートやライブ等のイベントも遂に『石油王ゲー』内でバーチャル開催し始めた。
まあ……ライブとフルダイブVRの相性はどう考えても良いよね。
ライブの魅力は、その場でしか味わえない『臨場感』にある。体感がリアルな『石油王ゲー』ならその点の再現度はバッチリだ。
しかも、イベント主催者側から見るとハコ(ライブ会場の事)の大きさを悩まなくて良いってメリットもある。バーチャル会場で自在に大きさを変えられるからな。客側からしても、チケット争奪戦で売り切れに泣く事が無くなるし。あと遠征しなくて済むとか、メリットは色々あるな。なおチケットはアカウント紐付けなので、転売屋は自動的に消滅する。ハハッ、ざまぁ。
そんなわけで。色々と相性はいいから、ライブやる事自体は別に意外でもないかな。人気アイドルグループのヒオトコンが先陣を切って始めたのは、ちょっと驚いたけど。実は俺も、明日のチケットを確保済だったりする。レレ担なんでね。
「ところでところで! オリハルコンの方はどうなったニャー!?」
よっくぞ聞いてくれました! ふっふっふ。誰かに話したくてウズウズしてたんだよね。
あれから俺も色々検証してみた。その結果――。
「色々と興味深い事がわかったよ。まずあの膜だけど……見せながら説明しようか」
カード状にしたオリハルコンを取り出し、魔力を注入してみせる。すると瞬時に、オリハルコンの表面に赤く発光する薄い膜が生じた。前に見せた時と同じだ。親指と人差し指で摘むように持ち、親指から魔力を注入しているが、膜は指の周囲1cm程度の幅で生じている。
「いつ見ても不思議ですね、この膜。なんなんですか?」
「面白いですよね。俺は仮に、『エーテル固体膜』と呼んでいます」
オリハルコンに魔力を注入しても、空気とオリハルコンが触れていないとこの膜は生成されない。だから魔力と空気中の『何か』が結びついて固体に変わり、膜になった物のようだ。原理としては電気めっきに近いのかな。
電気めっき。電析、電着とも言う(正確に言うと少し違う言葉だけど)。簡単に言えば、金属イオンが存在する溶液中に『めっきしたい物』を入れ電流を流し、表面に金属皮膜を析出させる技法だ。この時、電流を流すことで『めっきしたい物』には電子が注入されている。その注入された電子と溶液中の金属イオンが結びつくことで、金属皮膜が生成される。
多分、この『エーテル固体膜』も同じように生成されている。オリハルコンに注入された魔力と空気中に存在する『何か』――
もっとも、オリハルコン以外の物質に魔力を注入してもこのような膜は生成しない。おそらくオリハルコンが触媒として働いて、魔力と『エーテル』の結合反応を促進しているんだろう。なるほど、想像以上に面白い物質じゃねえかオリハルコン――
いやまあ、膜の生成
「おおっ、カッチコチ! この膜すっっっごく硬いニャー!」
指でつんつんと触りながら、スクスクが驚いている。
そうなんだよね。極薄の金属が生成しているような物で、薄い膜なんだけど硬さはバッチリ。この膜もオリハルコン級の硬さがある。
「それだけじゃない。魔力注入をやめれば、この膜はオリハルコンから簡単に分離する。つまり――」
地面に平行に持っているカード状のオリハルコンを、軽く上に振る。
すると、親指の周りのカード表面に三日月状に生成していた『エーテル固体膜』はカードから離れ、上方向に投げ上げられる。
「おおっ、簡単に飛ばせるんですね!」
「ただし、この『エーテル固体膜』は素早く自己崩壊を起こすから――」
キラキラと赤く光る小さな三日月は、重力にしたがって放物線を描いて落ち始める。
しかし、溶けるようにその体積は小さくなっていき――地面に着く直前、跡形も無く消滅した。
「き、消えちゃいました!」
「あははー、面白いニャー!」
面白いよね。これもまた、色々と悪用出来そうだ。
ただし、問題もある。
「オールディさん、もっと大きい膜には出来ないんですか?」
「このままでは無理ですね。オリハルコンの魔力伝導率が悪すぎるので」
「本当ニャ! ちょっとしか魔力が進まないから、指の周りくらいの大きさしか無理だニャー! どうすれば良いニャー!?」
そのままでの使い道が無いこともないけど……まあ、もうちょっと改良が必要だわな。せめてもう少し魔力伝導率を高めないと、使い勝手が悪すぎる。実は既に、その辺の改良の目処はついている。
「あっ、ドリンク飲み終わっちゃいました。お代わり
おっと、色々話していたらいつの間にか俺も飲み干していたな。ドリンクバーなんだし、もう1杯なんか飲もうか。
「俺のも頼みます。えーっと、オレンジジュースを――」
「はい、オレンジジュース」
……いや、せっかくのドリンクバーなんだし、やっぱ
「――メロンソーダと半々で混ぜたもので」
「ええっ!? 混ぜちゃうんですか!?」
そう、答えは簡単。
後は配合比を決めるだけだし、ほとんど準備は整ったな。ようやく、剣の作成を始められる。材料も構造もこれ以上ない物に決めてあるし、後は俺の腕次第、だな。
さーて……いっちょ気張って、『至高の一振り』作りますか。
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