魔剣を作ろう!
「………………すごい」
放心したように呟くソレイユの瞳は、手に持った武器に奪われている。
それは――美しく、黄金色に輝く
一見して
ようやく剣が完成したので、ソレイユと
この剣には今持てる俺の全てを込めた。自分で言うのも何だが、あらゆる意味で文句無しの最高傑作だ。普通に剣として見ても傑作だし、
剣というか……最終的にはほとんど刀になったけど。まあ、刀も剣の内だ。こういう形にする事については事前にソレイユに許可を取ってあるから問題無い。
「これ、オリハルコン……だよね? それにしては軽いけど……」
「オリハルコンも使ってるけど、それだけじゃない。芯にはミスリルを使ってあるし、刃先は
見た目からしてもうかなり刀だけど、実際に内部の構造も日本刀を参考に作った。具体的に言うと、日本刀で『四方詰め』と呼ばれる構造を、ミスリルとオリハルコンを使って再現したような構造になっている。
『四方詰め』の日本刀は断面方向から見ると、比較的柔軟性のある鉄(
今回の剣では鉄の種類では無く、金属の種類を変えて同じような構造にした。中心は柔軟性の高いミスリル、刃の部分はオルハルコンとミスリルの合金、そして両サイドと峰の部分は純粋なオリハルコンで構成されている。
まあ……複雑な構造である分、製作難易度は超絶高かったんだけど。そもそも『四方詰め』が最高難易度の鍛刀法と呼ばれている技法だからな。その分色々メリットはあるんで、特に後悔はしてないけど。どれほど苦労しようと、それに見合う物を作れるなら報われるってもんだ。
わざわざこんな複雑な構造にするメリットは3つある。
1つ目は日本刀と同じく、「折れず、曲がらず、よく切れる」を実現できる事だ。中心に使ったミスリルはしなやかで柔軟性が高いから「折れず」らいし、外側のオリハルコンは硬いから「曲がらず」を実現できる。さらに、刃の部分はオリハルコンベースの合金だから「よく切れる」ために重要な最高クラスの硬度を備えている。加えて言うなら、刃の部分は適度にミスリルを混ぜる事で粘り強さを持たせ、欠けにくい材料にしてある。
2つ目は、重量が重くなりすぎないって点だ。単純にオリハルコンだけでこれだけの大きさの剣を作ると、かなり重く、扱いにくい武器になってしまう。その点、この剣は軽いミスリルをかなり含んでいるから、そこまで重くならずに済んでいる。
そして3つ目。この構造にする事で、この剣は――
まあこれは、実際に試してみた方が話が早いだろう。
「ソレイユ、試しに魔力を込めてみてくれないか? そのまま柄に込めてくれれば大丈夫だ」
「わかった、やってみる。――っと、おおっ!」
ソレイユが魔力を込めた瞬間、刃全体が赤く発光する薄い膜――『エーテル固体膜』で覆われる。
「これは……なるほどのう。オリハルコンにミスリルを混ぜて使っておるのじゃな。魔力がちゃんと伝わるなら、これだけ大きな膜を作れるんじゃのう」
ご名答。
まあ魔力を通すだけなら、合金じゃなくて薄い『オリハルコンめっき』を使う手もある。ただ、刃先は何度も研ぎ直して使うからな。めっきだとすぐハゲてしまう。ソレイユは遠征にも行くらしいし、メンテ性とかも考慮する必要がある。
ちなみに、刃以外の三方向は魔力をほとんど通さない『純粋なオリハルコン』だから、雑に魔力を込めても魔力は刃の方向にしか流れない。ロスなく魔力を『エーテル固体膜』に変換しやすい構造になっている。
「混ぜる、か。……妾たち錬金術師には、なかった発想じゃのう。面白い、流石は妾の見込んだ【ぷれいやあ】だのう!」
……発想としては基本だと思うけどね。まあ、錬金術師が思いつかなかった理由は想像出来る気がする。錬金術ってのは――現実の錬金術と同じような物であればだが――「完全なもの」を作り出す事を目的としている。そのために、むしろ不純物から純粋な物質を分離精製するための方法を色々と編み出したわけで。おそらくその辺が関係してるんだろうけど――。
などと思っている間に、何回か魔力を込めて感触を確かめていたソレイユが感心したように呟く。
「魔力は精密に操作しなくても、グッと込めるだけで良いんだね。あれ、でもこれ、柄から刀身にはどうやって魔力が通っているんだい?」
「ああ、それな。柄巻とか目釘にもミスリルを使って、魔力の通り道を作ってあるんだよ」
柄巻(柄に巻かれた糸のこと)には『糸状にした加工したミスリル』を混ぜてある。で、このミスリル柄巻がミスリル製の目釘(刀身を柄に固定する留め具)に接続するようにしてあり、目釘を通って刀身に魔力が通るようになっている。刀身も柄の中に入っている部分(
「で、この『エーテル固体膜』を振って飛ばせば良いんだね?」
「そうそう。グッと魔力を込めてビュッと振れば――」
「――斬撃が飛ぶ!」
イエス! その通り!
いや実際に飛んでいくのは、刃の表面に生成したV字型の超硬刃なんだけど。まあいいじゃん。切れるんだから大体斬撃ってことで。
「Foooooo! 最っっっっっっっ高だよ、オールディ! 早くこれ試したい! 自慢したい!」
いいねえ! ソレイユもテンション上がってきたじゃんFooooooo!
よっしゃ、みんな集めて試し斬りしようぜー!
□ □ □
「あ〜、実戦で使うのが楽しみだな〜! はやく遠征行きたいな〜!」
「……今日のソレイユうるさい」
「な〜に〜? リュンネ妬いてんの〜?」
「ほんっっっとうるさいんだけどっ! ちょっと、どうにかしてよ!」
俺に言われても困る。とはいえ……うん、今日のソレイユはテンションぶち壊れてんな。
巻藁の試し切りも上手くいき、いつもの如くお祝い会を始めている。
ソレイユ、リュンネ、ココネルさん、スクスクっていつものメンバーだ。残念ながら
「フフフ。嬉しそうですね、ソレイユさん」
「気持ちはわかるなあ……ニャー! あの剣すっごく楽しそうだったニャ〜」
まあ、気に入って貰えたならいいんだけどさ。あとどうでもいいけど、スクスクってたまに語尾忘れてる時あるよね。
「ところでソレイユさん、その剣の動画も上げるんですか?」
「もっちろん! 最近はリュンネの動画に再生数負けちゃってるしね。ここらで挽回しないと!」
あー、たしかに。
もちろんソレイユの戦闘シーンとかも人気はあるんだけど、それ以上に『リュンネの魔法講座』シリーズが大人気すぎるんだよな。まるで「目で見たかのように魔力の流れを解説してくれる」から、初心者でも分かりやすいと評判だ。まるで、っていうか魔力メガネで見てるからその通りなんだけど。
この前の動画は、特にバズってたよな。インスマ映えするオシャレ魔法エフェクトが何たら〜ってやつ。
「これのことでしょ? ――咲き誇れ、輝き。
詠唱するや否や、リュンネの指先からは白いキラキラの奔流が吹き出し、俺の頬にぶつかってペチペチと軽い衝撃を――って!
「止めろ止めろっ! 俺に向けて魔法を撃つな!」
一見ファンシーな魔法だけど、実際には小さい火花がパチパチしてるだけだからな。意外と物騒な魔法だったりする。
「ダメージは無いんだから、別にいいじゃない」
まあ、そうなんだけどさ。PK対策のシステムプロテクトがあるから、他プレイヤーの魔法でダメージを負う事はない。だからこそ、インスマ映えする自撮りエフェクトとして気軽に使えたりするんだけど……いやでも、気分的にね?
「それより、剣の動画は本当に上げちゃっていいの? 『石油王ゲー』のプレイヤーも増えてるんだし、絶対大反響があるわよ。同じ剣作ってくれーって、注文殺到しちゃったりしない?」
「あー……可能性はあるか」
たしかに、リュンネの言う通りだな。さっきから心配してくれてたのは、その辺の事か。
あの剣、一本作るだけでも大変なんだよなー。手持ちのオリハルコンはほとんど使いきっちゃったし。そもそもソレイユ以外にあの剣を作る気もないけど……いや、でも「何で俺には作れないんだ!」って人が出てきたら面倒だなあ。変な客きて、ガヴナン師匠のお店に迷惑かけても何だし。
でもな〜、俺も動画で自慢して欲しいしな〜。
「もちろん剣の製作者は伏せておくよ。動画だけなら魔法かどうかもわからないし、大丈夫じゃないかな?」
おっ、確かにな。ソレイユ冴えてるじゃん。じゃあ、そういう方向でよろしく〜。
「そうと決まれば……う〜ん、試し斬りだけじゃなくて、魔物斬った動画も早く上げたいな〜! 急にその辺に大っきい魔物出ないかな〜!」
「はいはい、絶対ないから」
絶対ない、か。……本当に大丈夫? ここ、『石油王ゲー』だよ?
実はこのゲーム、
まあ……ゼロではないからって、滅多にある事でもないんだけどな。街は防壁で囲われてるし、衛兵が警備もしている。これまで街中で
だから大丈夫。まず間違いなく、そんな危険な状況にはならない。
ならない…………よな?
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