大解剖! これが超金属の全てだ!?
オリハルコン。
ミスリルと並んでファンタジー作品ではお馴染みの、伝説の金属である。
この『石油王ゲー』においてミスリルは希少だが、オリハルコンは輪をかけて超絶に希少な金属のようだ。
「ミスリルは希少だが、鉱山があるから定期的に市場には出回るんだ。ただし、その鉱山も今まで1つしか見つかっていない。だが、オリハルコンはもっとひどい。今まで1つも鉱脈が見つかった事が無いんだからな。だから市場に出回る事も稀だし、金を積んでも手に入るかは運次第。俺も、実物を見るのはこれが初めてだ」
と、ガヴナン師匠が教えてくれる。長年鍛冶屋をやってるガヴナン師匠ですら見た事がないって、貴重なんてレベルじゃないぞ、おい。と、いうか――。
「鉱脈が見つかった事がない? じゃあ、流通してるオリハルコンはどこから出てきたんですか?」
「さあな。遺跡の奥に隠されていたとか、ドラゴンの秘宝に紛れていたとか。噂話は色々と聞くんだが、何が本当なんだか。色々と謎が多いんだよ、そいつは」
なるほど、少なくとも魔色鉱よりもはるかにレアな素材のようだ。
にもかかわらず。
「あの、ガヴナン師匠。そんな希少なオリハルコンのインゴット、何個も貰っちゃったんですけど……!?」
ミリアムちゃんは「このくらい無いと釣り合わんのじゃー!」とか言いつつ何個もインゴットを置き、さっさと帰ってしまった。メガネ気に入って貰えたのは良かったけどね……幼女は行動が自由すぎる。
「よくこれだけ持っていたもんだ、とは思うが……あきらめろオールディ。錬金術師様の考えることはわからない、考えるだけ無駄だ。悪い話じゃ無いし、運が良かったくらいに思っておけ」
「えええ〜〜……」
良いのかなあ……まあ、師匠がそう言うなら良いか。
師匠曰く、錬金術師ってのは俗世の価値観とは大幅にかけ離れた人達らしい。たんにミリアムちゃんがお人好しなだけな気もするけど……。結局、また借りが増えてしまった気分だ。
「そんな訳で、俺もオリハルコンの性質については、噂で聞く程度しか知らない。悪いな、あまり力になれなくて」
「いいえ、ありがとうございます師匠。大変参考になりました。あとは自分で色々試して、調べてみます」
鑑定もアイテムステータスもない『石油王ゲー』では、地道に検証してみないとどんな物質かもよくわからない。でもまあ、マスクデータの検証作業って、俺は嫌いじゃないよ。こういうのも――ゲームの醍醐味、だよね。
□ □ □
後日。
色々と検証した結果、オリハルコンの性質も大体わかってきた。
ミスリルがすごかったもんで、正直オリハルコンとか今さら出てきても勝てるの? って疑問もあったんだが……いや、これはすげえな。
一般的に手に入る素材の中では、ミスリルは最高の素材とされている。外観状は銀をピカピカに磨き上げて更に輝きを増したような金属だが、その性質は銀と大きく異なる。
ミスリルは鋼のような硬さを持ちながら、非常にしなやかで折れにくい。しかも驚くほど軽い。羽のように、とまではいかないがプラスチックくらいには軽い。武具や防具の素材としては素晴らしい特性を持つ超金属だ。
だが、このオリハルコンも決して負けてはいない。どころか、部分的には明確に優れている。
オリハルコンの一番の特徴は、その圧倒的な
基本的に、刃物の切れ味は素材の硬さと刃先の鋭さで決まる。硬ければ硬いほど、鋭ければ鋭いほどよく切れる。つまり、オリハルコンで作った剣はミスリルや鋼の剣よりもずっと良く切れるわけだ。
それでいて――ミスリルには大幅に劣るものの――しなやかさもそこそこある。そのまま剣にしても、一応実用レベルには出来るだろう。
ただし、欠点もある。オリハルコンはかなり
「オールディさーん! 魔力注入に来ましたー!」
「スクスクも来たニャー!」
おっと、ココネルさんたちが上級ポーション作成のために来てくれたようだ。
「いらっしゃ〜い。あれ、ココネルさんのそのバッグ、もしかして――」
「えへへ、ブランドコラボのやつです。素敵なので、奮発して買っちゃいました!」
「おー、良いですね! 似合いますよ!」
日に日に『石油王ゲー』へのコラボ参入を表明する企業は増え続けているが、遂にファッション業界まで動き始めた。複数の有名ブランドがコラボ参入を表明、『石油王ゲー』内で服やカバンなどの販売を開始している。基本的には現実で売っている物と同じデザインだが、中には『石油王ゲー』限定モデルもあったりと、各社工夫を凝らしているようだ。
まあ……デザインだけでなく、値段も現実と一緒なんだが。一応課金しないでゲーム内マネーを貯めて買う事も出来る。けど正直、ファッションにそこまでお金かけない自分からしたら、かなり割高に感じてしまう。ゲーム内で買うと実物が残るわけでも無いし。ただそこは、慣れの問題もあるかもしれないな。ひと昔前は紙の本が主流だったけど、だんだん電子書籍に抵抗ない人が増えてきたように。ゲーム的に考えてみても、課金でアバターをオシャレにするってのは昔からよくある要素だしね。オシャレ需要ってのは、間違いなく存在する部分なんだろう。
「バッグに使っちゃった分、また頑張ってお金貯めないと……なので、このバイトはありがたいです!」
「いえいえ、こちらも助かりますよ」
上級ポーション作りはそこそこ割のいいバイトになるから、良いアイデアだったな。カリナさんも供給増えて喜んでたし。
「先輩、先輩。ココネル姉の服を見て、何か気が付かないかニャ?」
「初めてみる服ですね、可愛いです。色合いがバッグと合ってて……あ、もしかして合わせて作ったんですか?」
「はい、新作です! ブランドコラボが話題になって、ファッション勢のプレイヤーも増えてますからね〜。うちの店も流れに乗って、お客さんを増やそうと思いまして」
「友達もブランドコラボは課金で買って、ココネル姉の服はゲーム内マネーで買うって言ってたニャー!」
なるほどな〜。企業コラボ以外のお店では、課金で買えないからね。ブランドコラボとか入ってきちゃうとココネルさんとこの店はお客取られてしまうのでは? と思ったけど、そうとばかりも言えないのか。
と、話が盛り上がっているところで再び来客だ。
「こんにちは〜、っとココネルとスクスクも来てたんだね。僕も魔力注入していって良いかな?」
「おおっ、ソレイユも来たか。ポーションはたっぷり用意してあるし、大丈夫大丈夫」
「こんにちはニャー!」
「ソレイユさんこんにちは! あれ、リュンネちゃんは今日は……」
「へんしゅーちゅー。この前の怪鳥戦の見どころ動画をね」
両手でチョキチョキとハサミのポーズをしながら話すソレイユ。ソレイユの整った顔でやると面白いな、その動作。
「今回はリュンネの独壇場だったからさ。編集も自分がやるー、って張り切っちゃって」
「あ、そのライブ配信見たニャァ。あれはしょうがないニャ〜」
「あんなに空を飛ばれると、斬りようがないよね……ねぇオールディ、何とかならない?」
「いやいや、無茶言うな。気持ちはわかるけど」
当然と言えば当然だが、空飛んで遠距離攻撃してくる相手には剣士は対処しようがない。必然的に、魔法使いに頼ることになる。
「うーん、本格的に魔法も練習しようかなあ」
「いやそれは……どうだろうな」
ステ振りはないけど熟練度はあるからなあ、このゲーム。剣と魔法、両方練習しようとしても、どちらも中途半端に終わる可能性は高い。どちらかだけでも技能を磨いていく難易度は高いし。1人で全部出来る必要はないんだし、得意分野を極めて役割分担した方が効率的じゃないか? ピアニストとプロ野球選手を兼ねる必要は無いわけで。
剣と魔法には役割分担がある。遠距離戦闘は魔法使いの独壇場だが、逆に近距離戦闘は剣士の方が有利だ。魔法は発動までに時間がかかるし、魔力には限りがあるからここぞと言う時しか魔法は使いたくない。魔力回復薬を安定的に供給出来るようになれば多少魔法を使いやすくはなるけど、コストがかかる事には変わりないし。
「冗談だよ……半分は。でもとりあえず、魔力操作と魔力量を鍛えとくのは悪くないだろ?」
まあね。魔法も使えるに越したことはないんだし。ポーションへの魔力注入はバイトついでにその辺鍛えられるから、空き時間にやる分には悪くない。ソレイユも普段魔力余ってるしな、有効活用だ。
もっとも。魔力操作の先、魔法発動の部分まで専門の魔法使いレベルまで鍛えようとすると、難易度とかかる時間が跳ね上がってしまうわけだけど……。
「ところで、
「まだ解析途中だけど、最高の素材だな。バッチリ使えると思う」
「イイネ、そうこなくっちゃ! 前にも言ったけど、素材代はいくら使っても良いからね。オールディの最高の剣を頼むよ!」
『いくらでも』なんて言うだけあって、最近のソレイユ達はかなり稼ぎ始めている。
忙しく近隣の村々を回って転移ポイントを登録しまくっているし、輸送依頼も順調にこなしているからな。分割払いならお高い素材でも問題なく使い放題。これ以上無い条件で、鍛冶屋冥利に尽きるってもんだ。さ〜て、どんな剣にしましょうかね……へへっ、腕が鳴るぜ!
「あのー、オールディさん。今日の魔力注入はミスリルマドラーでいいんですか? もしかして、オリハルコンの方が効率良かったりとかします?」
あー、オリハルコンの魔力伝導率はまだ調べてなかったな、そういえば。
まあ、ミスリルがほぼ抵抗ゼロだからな。それより良いって事は無いと思うけど……。
「うーん、ミスリルでいいと思いますけど。一応、ちょっと試してみますね」
言いつつオリハルコンを取り出し、手を置く。
そして、魔力を通してみる、と――。
「な、なんだあっ!?」
初めて見る、奇妙な現象。
置いた手を囲むように、オリハルコンの表面には発光する――薄い
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