急襲! 幼女先輩再び!!

 いつものごとく生産ギルドに納品に来ている。

 ついでに出来立てホヤホヤの魔力回復薬を見てもらっているんだけど……。


「はぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


 何ですか、その深いため息。

 いつも元気一杯なカリナさんらしくもないですよ?


「あのですね、オールディさん」

「あ、はい」


 やべえ、いつになく声がマジトーンだ。どうやら真剣に聞いた方がいい話らしい。

 はい、なんでしょうか。


「たしかに、魔術ギルドの『魔力回復薬』はささやかな魔力量しか無い物です。それでも、魔術ギルドが総力を挙げ、長年の研究を重ねてようやく作り上げた物です。だから魔術ギルドでも最重要物資のひとつとして扱われていますし、外部には製法も材料も厳重に秘匿されています」

「はぁ」


 まあ、そうだろうよ。魔法使い達にとって、魔力量は生命線だ。魔力回復薬なんて、最重要事項であることは想像に難くない。


「で・す・か・ら……間違っても、外部の人間がほんの数日で作れる様な物ではないんです! 何でこんなスゴイ物を、あっさり作れるんですかっ!?」


 何でってそりゃあ……俺が【プレイヤー】だから、だろうな。

 正直、魔力回復薬に関しては運が良かった部分が大きい。ただ、それ抜きにしてもプレイヤーは有利だ。現実世界の知識を持っているからな。この世界はこの世界で研究を積み重ねているんだろうが、俺たちはさらに現実世界の研究成果を上乗せできる。時にはそれらが上手く化学反応を起こし、新しいものが生まれる事もある。だからこの世界の住人からしたら驚くような物でも、比較的簡単に作れる可能性があるわけだ。

 そう考えれば、プレイヤーによる変革は起こるべくして起きる・・・・・・・・・・事象だと思える。ここはそういう世界ゲームだし、プレイヤーは様々な可能性を秘めた――劇薬・・なのだ。


「まして、何ですかこの『魔力回復薬』は! 魔術ギルドの物とは比べ物にならないくらい、魔力濃度が濃厚じゃないですか!!!」

「ああ、やっぱりそうですよね。思ったより濃く出来たので、そこは驚きました」

「私はもう驚くとかそんなレベルじゃないですよ……」


 あれ、もしかしてカリナさん、怒ってます?


「ぜんっぜん怒ってないですっ、驚いてるんですよ! 今にして思えば……サラッと上級ポーションを作って来た時から、もっと疑問に思うべきでした」

「あっ、上級ポーションもまたたくさん作ってきましたよ。ほら」

「わー、ありがとうございます! ……ってこんなにですか!? 前回からそんなに時間たってないですよ!?」


 いちいちリアクションがオーバーで面白いなあ、カリナさん。

 量が多いのはあれだ、魔力メガネとミスリルマドラーで効率的に作ってるおかげだ。言わないけど。


「こんなには必要ないですかね?」

「いります! むっちゃいります! いくらあっても全然足りてないですから!」

「それは良かった。じゃあ、またたくさん作ってきますね」

「ほんともうありがたいです……!」


 考えてみれば、魔力注入だけ他の人に手伝って貰えばもっと量産出来るんだよな。

 ココネルさんとか普段魔力余ってるはずだし、バイトで手伝ってもらおうかな。


「それで、魔力回復薬の方は……」

「すみません、今すぐに買い取りは無理です。私1人ではこんなスゴイ物の買値決められませんし……」

「まあ、そうですよね」


 で、サンプルを渡して各種認定試験や値段検討をして貰う事になった。

 何でも、有識者に意見を求める事もあるらしい。うへえ、色々と面倒くさそうな話だ。お疲れ様で〜す。




    □ □ □




「――ってな事があったのさ」

「ふっふっふ。つまりこれがあれば、魔法を使い放題ってわけね!」


 リュンネ、話聞いてた? 魔力回復薬完成したってとこまでしか聞いてないでしょ?


 恒例の酒場に来ている。リュンネ達も無事に依頼を達成してきたらしい。こっちも上手くいったし、とりあえずお祝い会だ。う〜ん、酒も肉も旨い!


「オールディなら魔力回復薬も作れるって信じてたよ。もう完成させてるとは、流石に予想以上だったけど」


 だからソレイユ、俺に対する謎の高評価なんなのよ。割と今回たまたまだからね。魔力草見つけたのとか8割運だし。


「ソレイユ達も上手くいって良かったな」

「うん、いい感じの人に巡り会えて良かったよ。色々と面白そうな人だしね」


 なぜかソレイユ達はヤサキさんの商会を盛り上げる気満々らしい。別に商会掛け持ちとか、大商会に途中で乗り換えてるって手もあるんだけどな。というかそっちの方が稼げそうな気もするけど……まあいいか。『石油王ゲー』は自由だからな。損得抜きで好きな方を選んでもいい。小さな商会から始めて大商会に打ち勝つのも、面白そうだし。

 大体、今は過渡期だ。プレイヤーによる輸送革命が始まれば、これまでの商会のパワーバランスは容易に崩れ得る。そういう意味でも予想はつきにくいし、面白さ優先で選ぶってのは大いに有りだ。


「ところでオールディ先輩、何で先輩は魔力回復薬を生産ギルドに持ってったんだニャ? お店で売ればいいんじゃないかニャ?」


 いや、俺の店――というかガヴナン師匠の店は鍛冶屋だから、薬品類売ってもな。

 まあ、それを置いといたとしても。


「薬品類は生産ギルドの品質認定が無いと滅多に売れない……んですっけ?」

「そうですね、個人間で余程の信頼関係が無いと」


 ココネルさんの言う通り、その辺で薬品類を売ったところで買う人間は滅多にいない。

 この世界ゲームには鑑定スキルも無いからな。適当なところで買って、ただの色付き水やら毒水やらを売りつけられたら、たまったもんじゃ無い。そういう詐欺はちょくちょくあるらしく、誰もが警戒している。余程お金困っている人間以外は、生産ギルド認定品にしか手を出さない。一応認定だけもらってよそで売ることはできるんだが、それも手間だからな。生産ギルドはあんまり手数料を取らない優良団体なもんで、買取でもほぼ損にならないし。


「今回は新規の薬品って事で、色々品質試験もするらしいけど……まあ、問題は無いだろう。あとは量産体制を整えるだけか」

「魔力草は元気に育ってるニャア! きっと上手くいくと思うニャ〜!」


 元々あの辺に自生してたくらいだからな。環境があってるのか生命力が強いのか、根を埋め直したら元気に育ってくれている。後は魔力コブ(さすがに魔コブは無いわぁ……って事で改名)がどのくらいで回収出来るか、だなあ。今から収穫が楽しみだ。後タネ取って増やさないとね。


 そんな感じでワイワイと話していると、店の入り口の方が何やら騒がしくなってきた。


「――ここにオールディという者はおるか!」


 酒場には似つかわしくない、幼い女の子のような声が聞こえる。

 何やら俺の名前が呼ばれた気がするが……うん、きっと気のせいだろう。特に呼ばれる心当たり無いし。


「オールディ!!! 出てくるのじゃ、オールディ!!!」


 うん、全然気のせいじゃなかった! なぜか俺の名前を呼びまくってるじゃん!


「オールディさん、呼ばれてるみたいですね。何事でしょう……?」

「心当たりがありませんけど……ちょっと見てきます」


 なーんか、どっかで聞いた事がある気がするんだよなあ、あの声。

 入り口の近くには、すでに人だかりが出来ている。


「すみませーん、通してくださーい」


 何とか人だかりをかき分けて中心に向かうと、ようやく入口前の光景が見え始めてきた。どうやら、荒くれ者っぽい男が幼女の前に立ち塞がり、道を塞いでいるようだ。


「おいおいお嬢ちゃん、ここはお子様が遊びにくるところじゃ無いぜぇ? ヒャッヒャッヒャア!」


 うわぁ、すごいテンプレ荒くれムーブ。大体モヒカン肩パッドってお前……あ、よく見たらプレイヤーだ。なるほど荒くれ者ロールプレイってわけね。……リュンネといい、この街こんな奴ばっかりか?


「はぁ? なんじゃお主。まさか、わらわを知らんのか?」


 この口調、この声……あっ、まさか。

 身を乗り出して顔を覗き見てみると……うん、間違いない。幼女先輩、暫定幼女先輩だ!

 ゲーム開始初日に会って、ガヴナン師匠の店を教えてくれたり、魔色鉱をくれたあの幼女だ。探してはいたんだけど、全然見つからなくて困ってたんだよね。


「知らぬなら教えてやろう――妾こそは! かの、有名な!」


 そういえば、初対面の時もただの幼女では無さそうな雰囲気出してたな。

 ついに、その正体が明かされる――!?



「『始原の三賢者』が1人! ミリアムなのじゃ!」



 ………………うん、誰?

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