うんうん、農業も石油王だね

 チューチューとコーヒーフラッぺを吸いながら駄弁っている。

 今回の新作もうんめえなあ。ビターなチョコの味わいと甘いクリームの組み合わせが実に美味。マリアージュ!

 つくづく実感するよ。美味しいってのは、それだけで娯楽足り得る。栄養補給だのなんだのなんて、ただのオマケだったんだ、ってね。


「オールディさん、今日は珍しくメガネかけてるんですね」

「あっ、外すの忘れてました」


 さっきまでポーション作りをしてたから、魔力メガネをつけたままだった。外すの忘れてただけだけど、まあいいか。今日はこういうファッションと言う事で。


 ……ふう。甘い物を摂取したらちょっと落ち着いた。リアルなVRで猫耳美少女ニャンニャンは刺激が強すぎたけど、冷静になればなんて事は無い。

 必要なのはポジティブなマインドセットだ。アイムオジサン・ネコミミダイスキニャン……よし!

 もう絶対、ニャアニャアに動揺なんかしない!


「急にブツブツ言ってどうしたミャア?」

「……っく!」


 こいつ、ついに禁断の『ミャア』まで……!

 いや、もうええわ。んなことより。


「で、何か欲しいって話でしたっけ、ココネルさん?」

「そうなんです。スコップとか、たしかオールディさんの店で売ってましたよね? その辺を買い揃えたくて」

「ええ、一通りありますよ。農業でも始めるんですか?」


 ガヴナン師匠は手広くやってるからな。武器だけでなく、ハサミとかの日用品から農具系まで取り扱っている。


「そうなのニャ。スクスクは、農業をやってみたいんだニャア!」

「へぇ〜、農業を」


 農業プレイかあ。そっちも少し興味はあったけど、まだあんまり調べてないなあ。生産系の中でも、特にやってるプレイヤーが少ない部分だし、そもそもの情報量も限られてそうだけど。

 でもたしか、農地を買おうとするとかなり高いんじゃなかったっけ? お金足りる?


「大丈夫ニャア。町外れの荒地を開墾すると、そこは農地として貰えるらしいんだニャア!」


 カイコン……開墾か。またゲームらしくない単語が出てきたな。

 でもまあ、開墾地を貰えるってのは現実でも聞いた事があるし、多分珍しい制度では無いんだろう。墾田永年私財法的なね。領主は土地を開墾してもらえてお得win、開墾した人は土地を貰えてお得winなwin-win制度。特にこの街は、交易の方がメインで農業系は弱そうだからな。農業を発展させたい、と思えば自然とそういうメリットを与える制度になる。

 逆に言えば、それだけ開墾作業は大変って事なんだけど。余程のメリットが無いと誰もやりたがらない面倒な作業、それが開墾。そんな作業をゲーム内でやらせるとはね。流石は『石油王ゲー』か。褒めてないぞ。


「ふーん、頑張るなあ」


 まあ、そもそも農業もちゃんとやると面倒で大変だしなあ。このリアル系システムの『石油王ゲー』で農業やろうってあたり、スクスクはかなり元気ハツラツなタイプらしい。普段からかなり運動してそうな雰囲気だし、さもありなん。身体の動かし方からいって、陸上部とかその辺かな?


「それで、何育てるとかは決まってるの?」

「何種類か育てようと思ってるけど、まだ具体的には決めてないニャア。なんか希望あるニャ?」

「あっ、じゃあ薬草を育てたら? オールディさんのポーション作成に使えますし」


 おお、それはナイスアイデア。今は採取品を買ってきてるけど、割と高いし供給安定しないからな、あれ。自分達で育てられるならそれに越した事はない。


「じゃあ、ひとつはそれに決まりニャア! その代わりと言ってはなんだけど、できればオールディ先輩も開墾を手伝ってくれないかニャ? 人手があると助かるんだニャ〜」


 ええっ、どうしよう。まあちょっと興味はあるけどね。それで薬草育ててもらえるなら、悪い話じゃない。

 う〜ん、でもなあ。大変そうだしなあ。どうしよっかなあ。


「手伝ってくれたら、ココネル姉ちゃんが特製手作りスイーツをご用意するニャア!」

「えっ!? えと、その、私の手作りなんかでオールディさんが良いなら、喜んで用意しますけど……」

「――やります。是非ともやらせて下さい!!!」


 ココネルさんお手製のスイーツ、だと……!?

 そんな事を言われたら、迷う余地なんてあるわけが無い。どんな荒地だか知らないが……へっ、覚悟しておけよ。今日の俺は一味違うぜ。全身全霊をかけて、必ず開墾し尽くしてやる!


 そう、全ては――スイーツのために!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る