理屈じゃないんだ獣耳は!(にゃにゃっにゃー!)

 Q. あなたはポーションに魔力を注ごうとしています。どのくらい大変でしょうか? ただし、抵抗は無いものとする。

 A. もう笑っちゃうくらい楽ちん。


「いや〜、まじで楽々入るなこれ。ぜんっぜん抵抗感じないじゃん!」


 ただいま上級ポーション作製中。

 装備しますは、まずいつも通りに魔力メガネ。一家に一台、魔力メガネ。これで魔力の流れをしっかりと見ながら、無駄なく魔力を注いでいきます。


 そしてもうひとつ、『ミスリル製のマドラー』です!

 今回の目玉ですね。もうすっごいね、スルスルと魔力が入っていきますよ、これ。

 これまではね、銀のスプーン使ってたんですよ。色々試してみたんだけど、これが一番抵抗を感じなかった。今までの中ではね。でもね、ミスリルは一味違った。銀と比べても桁違いに抵抗が少ない。さすがはファンタジー金属ってところかね。その分、値段も桁違いに高いんだけどね。


 うんうん、ガヴナン師匠におねだりしてミスリルを少し分けて貰って正解だった。「マドラーにする」って言ったら、かなり微妙な表情してたけど。いやでも、こんだけ抵抗が違えば、上級ポーションの生産効率はかなり変わってくるからね。軽く数割増しにはなるだろうし、決して無駄遣いではない。十分過ぎるほどに有意義なミスリル活用法だよ。


 もちろん、本来のミスリルの使い道である武具への加工方法なんかも、教えてもらう予定になっている。元々、その辺を教えるために師匠が入手を手配してくれていたらしい。ほんともう、何から何までありがたい師匠である。今日は師匠の手が空かないから、そっちはまた後日になっちゃったけど。


 で、調子に乗って上級ポーションを量産していたんだが。


「あー、魔力切れた。こんだけ作れば、さすがに足りなくなるか」


 魔力メガネとミスリルマドラーの合わせ技で、極限まで魔力注入効率は上がっているはず。とはいえ、やっぱり個人の魔力量には限りがあるわけで。多分、魔力量も成長要素で徐々に増やせるんだろうが、やっぱり何か手っ取り早い回復手段が欲しいところ。


 などと考えているところに、ココネルさんからフレンドコールが飛んできた。

 いつものお茶のお誘いかな? ちょうど手が空いたところだし、タイミング良いね。




    □ □ □




 「今日も大盛況だな〜、ここは」


 で、待ち合わせ場所の『スノバ』に来ている。石油王ゲー内のやつね。いつ来ても大勢のプレイヤーが出入りしていて、繁盛している事がよくわかる。


 実際、売り上げは好調らしい。コラボは大成功だったと連日マスコミが大々的に報じているからな。意外なのは、リアル店舗の売り上げも同時に伸びているらしいって事。まあ、ゲーム内で飲み食いしても、リアルのお腹は膨れないしな。現実で飲み食いする時に、VR内で味わった美味しさをまた味わいたい、と思うのも不思議ではない。つまり、石油王ゲー内の店舗は有料の試食としても機能しているわけだ。

 そんな『スノバ』の成功を受けて、他の飲食チェーンも次々と石油王ゲーへのコラボ参入を表明し、一部は既に開店し始めている。公式によると、飲食に限らず他業界とのコラボもどんどん始まっていく予定らしい。なんか変な盛り上がり方してんな……ってのが大方のゲーマー達の反応だが、製作者的には想定通りの流れだろうよ。そもそもこのゲームは初めから――そうなる・・・・ように設計されている。


「えーっと、ココネルさんのルームを選んで、っと」


 そんな大盛況な『スノバ』だが、ここ石油王ゲーにおいて満席は存在しない。

 入店口をくぐると、それぞれのプレイヤーは別の仮想個室に行くことが可能だ。インスタンスダンジョンみたいなもんだな。もちろんフレンド同士で同じ個室に入ったり、ルーム指定で待ち合わせたりも簡単に出来る。この辺は仮想空間故の強みと言える。コラボ店では注文物も一瞬で机上に湧いて来るしな。快適度は完全に現実を上回っている。


 そんなわけで。ココネルさんが居るルームを選ぶと、一瞬で転送は完了した。


「お待たせしましたココネルさん、こんにちは」

「こんにちは、オールディさん。急にお呼びして申し訳ありません」

「いえいえ、ちょうど暇だったので」


 そんな挨拶をしながら、目線はココネルさんの隣にいる、初対面の人物に向かう。


「ええっと、それで、そちらが……?」

「はい、今日オールディさんに紹介したい私の従姉妹です」


 ココネルさんの従姉妹か。確かに口元とか、少し似ているかも知れない。

 ただし、全体的な印象はかなり異なる。スラリと引き締まった、それでいて女性らしさのある健康的な体型。活発さを感じさせるショートの黒髪。しなやかな動きに、どことなく猫を思わせるアーモンド型の瞳。

 そして何より――彼女には、立派な猫耳と尻尾・・・・・が生えていた。


「初めまして、私は『スクスク』ニャ!」


 ま、マジかよ。言いやがった。確かに『ニャ』って、そう言いやがった!

 猫耳と尻尾だけならさ、キャラクリで簡単に付けられるからね。まあ、まだわかる。まだ。

 でもさあ、『ニャ』ってシラフで言える? マジで?


「は、初めまして。ところでスクスクさん……身体スキャンって、使いました?」

「もちろんニャア! あ、でも猫耳と尻尾はゲーム内だけだニャア?」


 あったりまえだよ!

 えっ、ていうか待って。じゃあ現実とほぼ同じ容姿でニャアニャア言ってんの? マジで?


「よろしくお願いしますニャア、オールディ先輩!」


 ばっちり猫ポーズを決めながらそう言うスクスクを見て、おじさんは思った。


 最近の子の感覚には、本気でついていける気がしません……。

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