干し草の中から針を見つけるために必要なものは何ですか?

 生命って、すごい。

 ほら、見てごらん。

 抜いても抜いても、掘っても掘っても、まだまだ見渡す限りの雑草が……。


 ダァアアアアアアア!! ほんとにすげえな!!!

 どんだけモサモサ生えまくってんですか、あんた達は!

 すみません、はっきり言って開墾とか舐めてました。これもう果てしないじゃん。ネバーエンディング雑草抜きじゃん。本当にこれ全部抜くの?


 はい、開墾予定地で雑草を抜きまくっております。全てはスイーツのために!

 根っこから抜かないとまた生えてきちゃうからね。シャベルで掘り返しつつも片っ端から抜きまくっている。でも、全然終わらない!


 大体さあ、ゲームでこんなに大量のオブジェクトあるのおかしいでしょ。いや、『石油王ゲー』は世界丸ごとシミュレートしてる頭おかしいゲームだから、この程度は全然おかしくないんだけどさ。


 思えば、ここの開発は前作からどうかしていた。

 『石油王ゲー』の開発、及び運営は『セフィロト』という企業が行っている。『セフィロト』は『石油王ゲー』を遊ぶためのハード――世界初の家庭用没入型フルダイブVRヴァーチャルリアリティ機器『アムリタ』の開発・製造・販売元でもある。要するに超すごい会社だ。

 だが、その『セフィロト』が世間一般に知名度を得たのはごく最近。『石油王ゲー』が話題になってからだ。超次元のAI技術を持っていたり、創業者兼CEOがあの『全能の天才』だったりで、テック業界では元々注目されていた――らしいんだが、ほとんどの人はそんなこと知らないからね。未だに『謎の企業』として経済誌に取り上げられちゃったりする。


 まあ、俺はちょっと前から知ってたけどね。『石油王ゲー』の前にRPGを一本出してたから、ゲーマーの中にはメーカー名を覚えてる人間もいた。そこまで話題作だったわけでもないから、そんなには知られてないゲームだけど。

 で、そのRPG。VRでも無いしストーリーもゲームシステムも何というかスゴく普通オーソドックスな出来だったんだが――フィールドの広さと作り込みと物量だけは凄まじかった。どんだけ製作工数かけたんだよ、と思ったもんだが……聞けば、最新AIを活用してほとんど自動生成で作っちまったんだと。元々そういった自動生成技術は、他の企業も活用し始めている。だけど、『セフィロト』のAI技術は異次元の域だからな。労力の少なさも、出来上がる物のクオリティも段違いだったようだ。

 今にして思えば、あの時あれほど驚いたフィールドの出来も、『石油王ゲー』を作る前のちょっとした準備運動に過ぎなかった……みたいだけどね。


「ニャアアアアアアア! 全然終わらないんだけど、これ!」


 やめなさいスクスク。今、いい感じに現実逃避しながら作業してたんだから。こういう単純作業をこなす時は、出来るだけ心を無にして作業するの。いつ終わるの? とか考えれば考えるだけ辛くなるんだ。回転数が全てだ、ただ祈りながらお守りを掘る時の感じを思い出すんだ。いやだ、やっぱり思い出したくない!


 などと心が折れそうになっていると、ココネルさんからメッセージが届いた。


『もう少ししたら、スコーンが焼き上がりますからね! 2人とも頑張ってくださ〜い!』


 優しさ。今日も推しが尊い。

 こりゃ、へばってる場合じゃねえな。


「メッセージ見たか、スクスク?」

「……見たニャア。やるしか、ないニャア!」

「ああ、やってやろうじゃないか!」

「えいっえいっおー、ニャー!」


 っしゃオラー! やってやらー!




    □ □ □




 まあ、なんだ。

 やってみれば、意外となんとかなるもんである。


「お、終わった……。ありがとう、先輩。意外と体力あるんだね!」

「自分でも意外なくらいだよ。スクスクも、よく頑張ったな!」


 コツンと拳を突き合わせ、お互いの健闘を称える。


 あんなにモサモサ生えてたのに、よく全部抜けたもんだ。これで今日予定してた範囲の草抜きは完了だな。

 自分でも驚くほどに、このアバターはよく動いてくれた。毎日の様に鍛治作業してるからな。あれで知らず知らずのうちに、鍛えられて体力がついているのかもしれない。なるべくゲーム内の食事も取るようにしてるしね。

 あとスクスク、語尾の『ニャ』が抜けて素に戻っちゃってるぞ。キャラ付け甘くね? 別に良いけど。


「あー、達成感すごい! 薬草の栽培も楽しみだニャア!」

「頑張ってくれな。期待してる」

「もちろんっ! 先輩が頑張ってくれた分、スクスクも頑張るニャア!」


 そう言って屈託なく笑うスクスクが、何だかキラキラと輝いて見えた。

 こんな笑顔が見れるなら……こういう作業も、たまには悪くないかもな。



 そんなやり取りをしている所に、ココネルさんが戻ってきた。


「すみません、遅くなっちゃいました。うわぁ、こんなに抜いたんですね……!」


 ココネルさんの言う通り、抜いた雑草はこんもりと山になっている。


「いえいえ、ちょうど良いタイミングですよ」


 あれ、待てよ。何か今、雑草の中に赤い物が見えた気が……。


「はやく! はやくおやつ食べたい!」

「はいはい、今並べるから」


 雑草の山をかき分けてみると、確かにある。赤い何か・・がついている雑草が……!


「オールディさん、紅茶とスコーンの準備ができましたけど……何見てるんですか?」

「……見つけた」


 まさか、こんなところで見つかるとはな。

 思えば、今日の俺は魔力メガネをかけたままだった。

 そして今、雑草の中から引き出した1本の植物。その根に何個もついている、丸いコブ。

 そのコブは見間違いようの無い――赤い魔力の色・・・・を示していた。

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