クラフトゲーは作りたい物が次々あって困る

 いつも通りに店番していると、カランカランと来店を知らせるベルが鳴った。

 あれ、お客さんなんて珍しい。ではでは、営業スマイルを作りまして。


「いらっしゃいませ……って、なんだ。リュンネ達か」

「うわっ、相変わらず笑顔下手ね……」


 ええっ、そんなぁ?

 そろそろ上達すると思うんだけどなぁ。熟練度システム仕事してくれ。

 ま、それはさておき。


「ソレイユも来たって事は、早速依頼を受けたのか?」

「ご名答。ちょうど良く護衛の依頼があってね」


 へぇ、タイミング良いな。


「じゃあそろそろお別れか。短い付き合いだったけど、寂しくなるな……」

「いや、向こうの街に着いたら、転移ポイントからすぐに戻って来れるからね?」


 わかってるよ。冗談冗談。俺たちプレイヤーはファストトラベルがあるから、そこは便利だよな。


「それで、剣のメンテは終わってるかい?」

「バッチリ終わってる。確かめてみてくれ」


 インベントリから預かっていた剣を引き出して渡す。


「……うん、流石だね。完璧な仕上がりだよ」


 スラリと剣を引き抜き、見た目と感触を確かめたソレイユが感心した様に言う。


「そりゃどうも。気に入って貰えて良かったよ」


 大事な護衛の前だからな。今回は特に丹精込めて研ぎ直してある。


「うん、やっぱり手に馴染むしね。オールディの剣が一番だ」


 そりゃまあ、重心バランスとか、かなり気をつかってるからな。何回もソレイユに試してもらって、微調整しまくったし。


「つっても、あんまり過信すんなよ。素材は安物だし、そんなに保たないかもしれない」


 ソレイユ達の予算額では、あまりいい素材は使えなかったからな。そもそも打ったのが見習いの俺だし。全身全霊を込めて造った剣ではあるんだが、俺の腕前はまだまだだ。毎日の様に鍛治に打ち込んではいても、まだ胸をはって一人前とは言えない。


「わかってるよ。例の攻略法でたくさん稼いで、いい素材でまた打って貰わないとね」

「毎度ご贔屓に。上手くいくのを楽しみにしてるよ」


 俺としても、ソレイユにはもっと良い剣を作ってやりたい。あれだけの剣の腕があるんだ。良い装備を整えれば、もっと高みを目指せるはずなんだから。だから、俺ももっと鍛治の腕を磨いて、最高の素材で、最高の一振りを――。


「ねえ、私の魔力メガネはメンテしてくれないの?」

「……いや、メンテったって、レンズ拭くくらいじゃん。自分で出来るじゃん」


 リュンネの魔力メガネは片眼鏡だから、フレームの調整とかもないし。


「それはそうだけど……そうだ! じゃあ、何か売ってよ!」

「いや何だよ急に……そう言われてもなあ」


 もしかして、ソレイユだけ色々買うから気にしてるのか? 若い子は何考えてるのかよくわからんね。

 でもなあ、うち鍛冶屋だからなあ。魔法使いに売る物なんて……あ。


「そう言えば、上級ポーションならあるけど。あんまり使わないかもしれないけど、いちおう一個持っておいたら?」


 配信見てる限り、攻撃喰らってるところ見た事ないけどな。近寄る敵はみんなソレイユが斬っちゃうし。


「へえ、もう上級まで作れるんだ。流石だね」


 いや、まだ作れようになったばかりだけどね。どうもソレイユは俺を過大評価している節がある。


「それ買う!」

「毎度あり!」

「あっ、あと魔力回復薬的な物ない? 探してもどこにも売ってないのよ。私、すぐ魔力切れになっちゃってさ」


 そりゃあんだけ派手に魔法ぶっ放してれば、すぐガス欠になるだろうよ。

 しかし、魔力回復薬か。俺だって欲しいけど……。


「いや、残念ながら俺も見た事ないな。作り方も知らないし」

「そっか〜、残念。もしかしたらと思ったんだけど」


 うーん、残念がらせてしまったか。リュンネには魔力回復薬の方が需要あるよなあ、そりゃ。となれば、やっぱり是非作りたいなあ。しかし……これだけ見た事が無いって事は、この世界ゲームでは魔力回復薬はよほど貴重か、あるいは存在しない可能性すらある。


「ちょっと調べてみるよ。俺も作ってみたいし」

「本当? ありがとう、期待してるから!」

「あんまり期待はしないで……」


 正直言って、現状アテは全然無いし。まあ、とりあえず生産ギルドで聞いてみるか?


「あとさ、前から聞こうと思ってたんだけど。リュンネって魔法使う時に呪文の詠唱するじゃん?」

「うん、するけど。それが?」


 この世界ゲームの魔法に詠唱は存在しない。少なくともNPCは無詠唱でバンバン発動させてるし。魔術ギルドでも詠唱なんて教わらなかった。


「あれ、何か意味あるのか? 実は――詠唱すると威力が上がる、とか」


 あえて詠唱というコストを課す事で、威力と精度が向上する。このゲームにおいては、そんな念能力における『制約と誓約』の様なシステムが隠されていても不思議では無い。

 リュンネはいち早くこのシステムに気がつき、実践している……そういうことか!?

 これが、2本目の『隠された鍵』――なのか!?


「いや、全然無いけど。ただの趣味」


 あっ、はい。そうですか。

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