まず、ゲームのルールを知る事だ。かの天才はそう言った。

 それでは試験合格を祝いまして――。


「かんぱーい!!!」


 かぁ〜〜〜っ、キンッキンッに冷えてやがる!

 この瞬間のために生きてる気がするぅっ!


 うん、この酒場に来るのは初めてじゃないけど、やっぱり良い店だな。

 店の中では多くの冒険者達が賑やかに飲み騒いでいる。ジョッキを付き合わせ、グビグビと飲み干す音、大声で語られる武勇伝、響き渡る豪快な笑い声。こういう雰囲気を味わえるのも、ファンタジーVRゲームの醍醐味だね。料理も美味いし。


「前から思ってたけど、VRでお酒飲んで楽しいもん?」


 無粋なことを聞くんじゃないよ、リュンネ。


「いいのいいの。こういうのは気の持ちようなの」


 確かに酔えるわけじゃ無いんだけどさ。酒税もかからない非実在アルコールだけどさ。

 いや、そこはどっちでも良いんだよ。今日の本題は君たちの合格でしょ。


「2人とも試験受かって良かったな。これで晴れて3級冒険者?」

「そうそう。やっとまともな依頼クエストを受けられるよ」


 ソレイユが笑顔でそう答える。爽やかな笑顔が無駄に似合うな、こいつ。女性ファンが増えまくるわけだ。もうファンクラブまで出来てるって言うから恐ろしい。


「3級資格を取ると、前より高難度の討伐が出来るようになるんですっけ?」

「それと、護衛も出来るようになるんだってさ」


 ココネルさん達が話しているように、資格を取る事で出来るようになる事は多い。というより、資格を持って無い冒険者は活動に制限が掛けられている、と言った方が正確か。

 冒険者ギルドでは色々な仕事を受けられる。ただし、無資格で受けられる仕事は、あまり戦闘技能が必要とされないものだけだ。近隣での薬草採取とか、街中での雑用とか。


「3級の試験はどんな事をするんだ?」

「基本的な戦闘技能の確認だけだったよ。活動実績はこれまでので十分だったし。ホーンラビットとかの魔物はいっぱい狩ってたからね」


 へえ、じゃあ楽勝か。この2人なら戦闘能力は問題無いだろう。あれだけの数の魔物を瞬殺できるんだし。

 

「2級以上だともっと色々試験があるみたいよ。探索技能、サバイバル技能、世界地理とか魔物知識の筆記試験もあるって」


 なるほど、3級と2級以上では明確に分けられてるみたいだな。


 思うに、3級冒険者資格はある程度の戦闘能力を公認する意味合いが強い。

 例えば、護衛をするにはある程度以上の戦闘力が欠かせない。護衛を主に頼むのは、交易路を通行する商人。余程の僻地でも無い限り、大した危険はない。それでも、この世界ではいつ魔物が現れるかわからない。ホーンラビット位ならどこにでもいるし、戦闘技能を鍛えていない商人達にとっては、十分すぎるほどの脅威だ。だから護衛には、彼らを守るだけの戦闘力がいる。そこで客観的に戦闘能力を保証する資格がこの3級資格、なのだろう。


 魔物討伐に関してもそうだ。比較的弱い魔物は無資格でも狩れるが、脅威度の高い魔物を狩ることは基本的に推奨されていない。むしろ無資格が狩猟しようとすると、ペナルティを課されるケースすらある。

 これは、冒険者の安全に配慮し、無駄に損耗を出さないようにする仕組みだ。実力に見合わない魔物を狙えば、容易に返り討ちにあい、死に至る。プレイヤーは(デスペナがあるとはいえ)死に戻り出来るからまだ良いが、NPCは基本的に取り返しがつかない。しっかりと実力をつけ、ギルドのお墨付きを受けてから挑め、という事のようだ。


 一方で、2級以上の資格は魔物対処の専門職エキスパートって意味合いが強そうだ。

 より脅威度の高い魔物は、人里から遠く離れた僻地に生息するケースが多い。単純に魔物と戦う技能以外に、長期間の遠征をこなす能力が必要になる。様々な魔物に対処するためには世界のあちこちを巡る必要があるし、それぞれの魔物への対処法も熟知しておく必要がある。それらの技能を総合的に認められた者が、初めて2級以上の冒険者を名乗る事ができる。


「剣士と魔術師の資格は取らないのか? 3級なら割と簡単に取れそうだけど」

「パーティ変えるわけでもないし、とりあえずは取らなくて良いかな」

「私もパス。魔術師資格は筆記試験が面倒くさそうなのよね」


 ジョブシステムもステータス表示も無いこの『石油王ゲーム』世界。この世界では、取得した資格で自身の技能を示すのが一般的だ。

 例えばパーティメンバー募集の時には、


『求む:剣士3級以上』


とか条件を出す。それに対して応募する側は


『所持資格:剣士2級、冒険者3級、斥候1級

 職歴:チーム・スカーレットで5年活動

 自己アピール:やる気はあります!』


 とか書いて応募する、らしい。完全に履歴書だこれ。自動マッチング機能実装はよ。


 ま、確かにソレイユの言う通りだ。パーティ移る予定が無いなら、別に冒険者以外の資格は取らなくても良いのか。


「資格も取れたわけですし……これからは強い魔物の討伐をしていくんですか?」

「そこでソレイユと意見が合わないのよね。素材も高く売れるし、私はそっちメインで行きたいんだけど」

「僕は護衛をしながら、色んな街を巡ってみたいんだよね。護衛料は安いけど、この世界をもっと味わいたいし」


 なるほど、今後の方針ね。

 どっちの言う事もわかるけど、俺なら迷わず……。


「オールディはどう思う?」


 えっ、俺にふる?

 うーん、そうだなぁ。何を目的とするかにもよるし、最終的には2人で決めれば良いけど……。


「……ゲーム内通貨を稼ぎたいって事なら、取るべき方針は決まってる」

「うんうん、そうよね。やっぱり高難度の討伐を――」

「いや、違う」


 このゲームの仕様を考えれば、答えは1つだ。

 上手くいけば、こっちの方が断然稼げる。


「やるのは――護衛・・だ」

「……は?」


 良い機会だし、試してもらおうか。ソレイユ達なら適任だし。

 おそらく今しかできない、とっておき。

 このゲームの必勝法・・・って奴を、な。

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