中級&上級ポーションを作ろう!(中級編)

 ふう、やれやれ。

 少々混乱していたみたいだ。ちょっと衝撃的だったからね。大丈夫、今は落ち着いたよ。


「本当に大丈夫ですか? しばらくフリーズしてましたけど」


 平気平気。俺は最高にCOOLだ。きっとあれだよ、通信障害でラグったんじゃない?


「はぁ……なら良いですけど。ところで、あの動画配信を勧めたのって、オールディさんなんですよね。どうしてですか?」


 ああ、それね。ココネルさんには詳しく説明してなかったっけ?

 狙いはいくつかあるんだけど――。


「まず、単純に『石油王ゲー』をもっと盛り上げたいってのが1つ。あの動画で興味を持ってこのゲームを始めてくれる人が少しでも増えれば、俺たち生産勢にはメリットがありますから」


 生産プレイヤーからすれば、プレイヤー人口ってのはそのまま潜在顧客数とも言える。つまり、プレイヤー数は多ければ多いほど良い。それだけ、生産品を買って貰える機会が増えるって事になる。NPCのお客さんもいるとは言え、その数は限られてるし。


「あっ、それはわかります。お客さんも増えるかもしれませんもんね」

「そういうことです。それと魔法を使えるようになれば、それだけプレイヤーが儲けやすくなるって事でもあります」


 つまり、プレイヤーの購買力は増す。他のプレイヤーにそもそも生産アイテムを買うだけの資金力が無ければ、俺たちの生産品も売れない。無い袖は振れないからな。現状メジャーな『皆で囲んで袋叩き』な狩りの仕方では大して稼げないし、高価なアイテムなんて売れるはずもない。そう、魔法メガネとかもな。今でも初級ポーションは需要あるけど、あれはそんなに利幅ないし。


「あの動画を見れば、魔法を練習して使えるようになる人も増えるはずです」


 魔鉱石や魔力メガネが無い分時間はかかるだろう。ただ出来る事が分かってさえいれば、諦めない人も少なくないはずだ。諦めさえしなければ、熟練度システムがいずれ仕事をしてくれる。つまり、魔法使いはほぼ確実に増える。


「魔法を使えるようになれば戦闘力も増すし、狩りとかで稼げる額も増える。持ち金に余裕が出来るほど、俺たち生産プレイヤーのアイテムも売れやすくなる」

「なるほど……私が働いている店の服も結構高価ですからね。欲しいけど手が出ないってプレイヤーの方も多いです」


 ココネルさんの店の服は、実用品というより嗜好品だからな。オシャレだけど、戦闘力が上がるとか、即物的なメリットはない。持ち金が慢性的に足りない現状では、積極的に買う人は少ないのだろう。


「あとは……上級ポーションの需要を増やしたい、ってのも」

「上級ポーション、ですか?」


 ココネルさんはコテン、と首を横に倒し疑問符を浮かべている。

 あれれ、どうもピンと来てないらしい。

 

「聞いたこと無いですか? 魔法使いは、上級ポーションじゃないと効果が薄いって」

「そういえば、そんな話を聞いたことがあるような、無いような……」


 そんでもって、上級ポーションは初級ポーションと比べて格段に利幅が大きい。つまり、とても儲かる。やったね。


「あれ、でもオールディさんって上級ポーション作れるんですか? 中級以上の作製方法って、秘匿されてたはずですけど」


 問題はそこなんだよね。実はまだ、中級以上のポーションは作ったことがない。今まではそこまで需要なかったし。ただ、作り方は推測できているし、必要な道具も用意した。つまり――。


「――作れる、はずです」


 俺の予想が正しければ、だけど。

 さあ、レッツ検証タイム!




    □ □ □




 はい、検証のために鍛冶屋に戻ってきました。

 てれてれっててーん。


「アランビック蒸留器〜!」

「何ですか? そのダミ声」


 あれ、今このネタ通じないの? 確かに、声優変わってからずいぶん経つもんなあ……。


「コホン。えー、とにかく。今日はこれを使ってポーションを精製していきます」


 中級ポーションと初級ポーションの違い。それは、ただ単に有効成分濃度の差でしかないらしい。濃ければ中級、薄ければ初級。

 だから、初級ポーションから何らかの方法で有効成分を分離・濃縮できれば、中級ポーションが出来るはずだ。


 そこまではすぐ分かっていたんだが、その濃縮操作に必要な蒸留器がどこの店を探しても売っていなかった。中級ポーションの作製法は錬金術師達が秘匿してるって話だし、こういった道具類も彼らの『秘密道具』なのかもしれないな。そういえば現実世界の蒸留器も、元々は錬金術師達が作った物なんだっけ。

 で、普通はこの時点でお手上げなんだが、俺はこのゲームでガラス細工の技能を身に付けている。だからフラスコとかの実験道具も自作できた、ってわけだ。今回は比較的シンプルな形状の道具で試してみるけど、上手くいったらリービッヒ冷却器なんかも作ってみようかな。


「まずは初級ポーションを普通に作る。濃縮後はグッと量が減るから、最初に多めに作らないとな」


 薬草を刻む。混合、擦り潰す。沸騰した釜の中で加熱しながらかき混ぜる。タイミング良く火を止めて、薬草を濾し取って完成。


「何だか……前に見た時より、速くなってませんか? こんなに短時間で作れるんですっけ?」

「システムアシストが効いてますから。手慣れて作業に無駄が無くなったのも、ありますけどね」


 釜の中で混ぜる時間すら、当初から明らかに短くなってる。単純に動作の上達だけでは説明できない。熟練度システムによる何らかの補正が働いているのは、まず間違い無いだろう。とは言え、そんなに劇的な差では無いけど。きっちり時間を測って検証すればわかる、今のところその程度の差だ。俺がポーション作りを続けてきたのは、このへんの検証も兼ねている。


 ただ、まあ……こういう時間が変わるような動作なら検証もしやすいんだが、剣術とかだとシステムアシストが効いてるかって、かなりわかりにくいんだよな。単純に上達した場合と、区別がつかない。狙ってその程度に抑えてあるんじゃ無いか、って気もするけど。

 長時間の訓練・練習をする前提での、確実に上達をするための補助輪アシスト、あるいは保証。それがこの熟練度システム、なのかもな。


「で、この初級ポーションを蒸留器にかける」


 初級ポーションは薬草の有効成分をお湯に煮出して作っている。つまり、水と有効成分の混合物、って事だ。水が混ざっている分、有効成分の濃度は薄い。

 では、どうやって水と有効成分を分離すればいいか。

 今回は蒸留で分離してみる事にした。


 ポーションを加熱すると、沸点の低い有効成分が、水より先に蒸発する(正確に言うとちょっと違うけど)。蒸発し、気体になった有効成分を冷却・凝集させて、受けフラスコに集める。

 この受けフラスコに集まった液体が、有効成分濃度の高い液体――つまり、中級ポーションだ。


「試験紙でテストしてみると……ちゃんと赤色になりますね。中級ポーションの出来上がりです」

「おおっ、さすがです! じゃあ次は……上級ポーション、ですか?」


 ですね。じゃあ引き続き、上級も作ってみますか。

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