リュンネ&ソレイユの石油王ゲーちゃんねる!
「えー、ではさっそくね。戦闘の方をしていきたんだけど……モンスターが見つかるかな〜」
リュンネ達の配信を見ている。
配信動画らしく、リュンネは小声で実況を交えながら林の中を進んでいく。
隣ではソレイユが剣を構え、周囲を警戒している。動画見てるだけでも中々緊張感あるな。
「あっ、いるいる! 見つけた、あっちあっち!」
リュンネはヒソヒソとそう言うが、配信画面からだと茂みが邪魔でよく見えない。
あっ、もしかしてリュンネは魔力反応で見てるから見つけやすいのか? 魔力メガネで見てるから、魔力持ちの生物は色がついて見えてるのかもしれない。
そんな事を考えている間に、リュンネ達は静かに茂みを掻き分けて進み、視界にターゲットを捉えていた。
「ホーンラビットが……7体!」
ホーンラビット。
名前の通り、額に角を生やしたウサギのような見た目をしている。割とどこにでもいるし、他のゲームで言うところの序盤の雑魚モンスター的なポジション。
ただし、そこは悪名高い『石油王ゲー』。雑魚モンスターと言えども一筋縄ではいかない。
見た目はそこそこ可愛いホーンラビットだが、その攻撃能力は結構高い。その鋭い角で心臓や首筋を刺されればまず即死だし、頸動脈を傷つけられるだけでも割と死ねる。防具をしっかり揃えればそれほど脅威でも無いんだろうけど、初心者プレイヤーにはその金もない。大体、軽装で無理やり戦って怪我をし、ポーションに頼る事になる。しかもピョンピョンと素早く動くから、奴らの小さい身体に攻撃を当てるのは相当難しい。てか素人だとまず無理。
これをモーションアシストとかスキルとか無しで倒せってのが無理無理無理のカタツムリである。そもそもこのゲームのシステムだと、戦闘難易度が高すぎるんだよ。実際、舐めてかかったプレイヤー達がホーンラビットに殺される動画はゴロゴロあがっている。怖い。
ちなみに現在プレイヤー達のメジャー戦術は『誰かを犠牲にして囲んで叩く』である。身も蓋もねえ。もうこれクソゲーでしょ。もうちょっと慣れてくると、『木の盾とかに角を刺させて動きを止めて囲んで叩く』になる。
そんな訳で1体でも初心者には結構な脅威のホーンラビットだが、これが複数体になると更に脅威度は跳ね上がる。そこそこ慣れてるプレイヤーのパーティでも、2、3体くらいが相手取れる限界だろう。それ以上の数の群れと遭遇した場合には、撤退を選ぶのが賢明とされているが――。
「大漁だね。まだこちらに気づかれてはいないみたい。リュンネ、いける?」
「5体は任せて。あとはフォローお願い!」
「おっけー!」
どうやら、退くつもりは毛頭ないらしい。
リュンネは右の掌を前方に向けると、大きく息を吸って
「深淵より出でし原初の火よ、
呪文に呼応するかのように、リュンネの右手の5本の指の先に1つずつ火の玉が浮かんでくる。
……いやいやいや、何の詠唱だよこれ。このゲームの魔法に詠唱とか無いんですけどぉっ!?
「我は示す、汝の道を! 滅却せよ、
へるすか……なんて?
何やら技名らしき叫びと共に放たれた5つの炎弾は、複雑な軌道を描きながらそれぞれ別のホーンラビットに見事
えっ、何この魔法? もうそんな高度な魔法使えるの? こんなん
「キキーッ!」
炎弾を逃れたホーンラビットは2体。仲間の犠牲に怯む事もなく、すかさずリュンネ達に襲いかかる。
だが、その進路にはソレイユが待ち構えていた。
「ハァアッ!」
鋭い気合いと共に一閃。稲妻の如く剣が閃くと、2体のホーンラビットは鮮やかに両断されていた。
「おいおいおい……瞬殺かよ」
思わずそんな呟きが漏れる。
剣術の訓練をしていた成果だろう。それにしたって、短期間でここまでとは。予想を遥かに超える技量だ。それに何というか、動きに華がある。洗練されてるっつうかね。カッコええ〜。
いや、剣って意外と大変なんだよね。俺も試し切りくらいは練習してるけど、巻藁を斬るだけでも苦労してるし。刃筋をちゃんと立てないといけないって、頭ではわかってるんだが……。真剣ってかなり重いから、重さに振り回されないように操るだけでも難しいし。ましてや、動いてるモンスターを実戦で斬る、なんて芸当はかなりの技量が必要だ。
だからまあ、大抵のプレイヤーは一度剣を試してみるものの……結局は棍棒とかに持ち替えてしまう。適当に殴ればそれなりに威力が出て、扱いやすいからな。メンテ楽だし、安いってのもあるけど。そんな事情もあり、ガヴナン師匠の店は相変わらず大して繁盛していなかったりする。世知辛え。
「はいっ、というわけで……見事、魔法を使った狩りに成功しました! どうどう? 凄いでしょ〜?」
おっと、余計な事を考えている間に配信も終わりらしい。
いや〜、まじで凄かった。色々予想以上だったし。間違いない、これは絶対バズる。
「これからもバンバン動画上げてくからね! チャンネル登録も、是非是非お願いしま〜す!」
俺もウカウカしちゃいられないな。
来るべき魔法ブームに備えなければ!
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