ふーん、何でも『お願い』聞いてくれるんだ? じゃあ、やってもらおうかな……アレ。

 一度誤解が解けしまえば、ソレイユは結構話が通じる相手だった。むしろ意気投合できそうなタイプじゃんね。


「改めてお詫びをさせてくれ、オールディ」

「別にいいっての」


 些細な行き違いが招いた不幸な事故だった。そういう事にしておこう。誤解を招きかねない状況ではあった。

 問答無用で斬り掛かってきたわけでもないし、な。ソレイユはこっちの出方を伺っている節があった。内心キレかかってた割には、理性的な態度だった方だろう。


「本当に斬るつもりだった訳でもないだろ?」


 そもそもこのゲーム内では、基本的に他のプレイヤーを害する事は出来ない。そういうシステムプロテクトが掛かっている。仮にソレイユが俺に斬りかかっても、俺に当たる直前でソレイユの剣は不可視の障壁で弾かれる事になる。そんなシステムだから、PKプレイとかもまず無理。当然賛否両論はあるが……完全没入型VRは体感がリアル過ぎるからな。ゲーム内とはいえ、まともに殺し合い・・・・が出来てしまうと社会問題になりそうだ。従来のゲームでもグロ規制とか人殺しゲームの是非とか散々議論になってんだし、完全没入型VRでその辺に気を使うのも無理は無い。


「それはどうかな? 僕でも斬るフリ・・くらいは出来るからね」


 ソレイユは薄く笑う。

 いや、怖えよ。実際にはダメージ入らないとしても、殺気を込めた斬撃を喰らったらビビり散らす自信があるぞ俺。


「ははっ、冗談だよ。しかし……リュンネが僕の妹だって、良くわかったね」

「ま、何となくな」


 恋人にしては甘い雰囲気が全くなかった。その割に距離感は近い、というよりほとんどゼロ。そこまで気が許せる関係となると、家族である可能性が高い。人間にはそれぞれパーソナルスペースって物があるからな。身内以外には、自然と距離を取ってしまう。加えてほとんど歳も離れていなさそう、となれば自ずと関係は限られる。

 つうか、彼氏は流石に無理があるだろ。そもそもソレイユは……いや、今はそれはいい。


「んな事より『お願い』の件、よろしくな」

「ああ、構わないよ」


 俺はソレイユとリュンネに魔法の動画配信を依頼した。

 リュンネはなるべく早く魔法を習得し、魔法を使う様子を動画配信する。ただし、魔力メガネの件は公表しない。そんなお願いだ。


「配信は元々するつもりだったしね。本当にそんな事でいいのかい?」

「いいさ。つうか、そんな大したことは頼めねえよ」


 そもそも代金は後で貰う予定なんだし。出来るのはちょっとしたお願い、が精々だろう。

 動画配信くらいなら大したリスクは無いが、それでも『石油王ゲーム』初の魔法使用プレイヤー動画になる。リュンネ達が注目を浴びるのは避けられない。その点も踏まえて、パーティーメンバーと一緒に判断して貰う必要があった。


「そうかい? オールディの魔鉱石と魔力メガネのおかげで、リュンネは魔法を習得出来そうなんだし、恩は大きいと思うけど……」

「いや、俺は習得を少し早めただけだ。助けが無くても、リュンネは近い内に魔法を習得していたはずだ」


 俺の言葉にソレイユは困惑して眉を潜め、リュンネは抗議の声を上げる。


「えっ、そんな事ないよ? 魔鉱石を使う前は全然上達してる感じもなかったし……」

「それでも、俺やココネルさんより遥かに早く魔力を扱えている」


 まだ完全な魔法発動には至っていないが、今日明日にでも出来そうな感じだ。一方、俺とココネルさんはまだ魔力放出も覚束ない。魔力メガネを使って練習しているにも関わらず、だ。

 つまり、その前の訓練が効いているんだろう。リュンネが魔術ギルドに通い詰めて、必死に足掻いていた時間は、きっと無駄ではなかった。


「……根拠はそれだけかい? それにしては、何だかやけに確信を持っているように見えるけど?」


 チッ、簡単には誤魔化されないか。勘が鋭い。

 そこまで話すつもりはなかったが……まあいいか。ソレイユ達とは情報共有しといたほうがいい気もする。


「――熟練度システム」


 その単語を聞いた途端、ソレイユの眉がピクリと動く。


「このゲームには熟練度などの成長要素があるはずだ」

 

 そう考えると、色々としっくり来る。マスクデータとして存在する成長要素。おそらくそれが、『隠された鍵』の内の1つ。


「俺もまだ検証中だけど……ソレイユも身に覚えがあるんじゃないか? 剣術の訓練はどうだった?」

「……なるほど、君も勘付いていたのか。納得したよ」


 ソレイユは軽く一息つくと、話を進める。


「でも、魔力メガネの宣伝はしなくて良いのかい?」

「それも考えたんだが、今は他にやりたいこともあるしな」


 やりたいことは色々あるから、今は魔力メガネの量産に使う時間がもったいない。

 そもそも現時点だと他のプレイヤーも大して金が無いはずだ。だからあまり高値で売り出しても売れないだろう。かと言って安売りするにはもったいない品物な気もするし……とりあえず秘匿する事にした。まだ時期じゃ無い。多分。


「だとすると、オールディのメリットが見えないな。なぜ、わざわざ配信を依頼する?」


 なるほど、そこを気にしてたのか。

 狙いはいくつかあるんだが……ま、結論から言おう。


「魔法をプレイヤーに普及させる。つまり――革命REVOLUTIONだ」


 さあ、新時代の幕開けと行こうか。

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