魔法を習得しよう!(工夫編)

「で、どこに向かってるのこれ? 変な所に連れ込む気じゃ無いでしょうねぇ、おじさん?」


 リュンネが胡散臭げに聞いてくる。

 いや、そんな警戒しないでも……まあ見た目胡散臭いおっさんだし無理もないか。むしろ知り合って間もないのに、ココネルさんがガード緩すぎるだけな気もする。


「生産ギルドだよ。ちょっと、見せたいものがあってね」


 こんな時は渾身の爽やかスマイルだ。


「うわっ、胡散臭い表情カオ!」

「オールディさん、笑顔苦手ですよね……」

「えぇ……そんなダメかな……」


 幼女にもそう言われたしな……そう言えばあれ以来会えてないけど、どこにいるんだろう。飴ちゃんあげなきゃ。


「あっごめんごめん、そんな落ち込まなくても。でも……その笑顔はやめたほうがいいよ、おっさん。キモいし」


 そ、そんなぁ……ぴえん。

 一応慰めてくれる辺り、リュンネも悪い子ではないらしい。ココネルさんの友達だしね、そりゃそうか。

 言い方に遠慮が無いのは多分、若い子だからだろう。雰囲気的にミドルティーンくらいかな? いや、リアル事情を詮索するのはあんま良く無いか。やめとこ。




   □ □ □




「じゃじゃじゃーん、こ・れ・が! 世にも貴重な『魔色鉱』です!」

「普通の鉱石に見えますね」


 生産ギルドではいつも通り、職員のカリナさんが迎えてくれた。

 そして俺がリュンネに見せたかった物――『魔色鉱』を見せて貰っている。


「ええ、何も無い状態ではこの様にただの鉛色の鉱石です」


 うん、普通だ。いや、でもどこかでこんな鉱石を見た事ある気が……。


「でもでも、こうして魔力を含んだ上級ポーションを近づけると!」

「おお! だんだん赤くなりますね!」

「そうです! 魔色鉱はこんな風に魔力に反応して色を変えます。だから、ポーション内の魔力の有無を判別できるんです。ちなみに、魔力の強さによって色は変わりますよ」

「なるほど……」


 上級ポーションの説明を聞いた時、魔色鉱の事もカリナさんは説明してくれていた。

 あの時は軽く聞き流していたけど……。


「もしかして……これって魔法の練習に使える?」


 じっと見ていたリュンネが呟く。

 そう、魔色鉱は魔力に反応して色を変える。

 だから……。


「はい、魔法発動の第一ステップ。『魔力の放出』の練習には、凄く有用ですよコレ!」


 カリナさんがにこやかに答える。


 やっぱり、か。

 魔法の習得が難しいのは、感覚頼りだからだ。であれば感覚に頼らず……例えば魔力を目に見える形で捉えられれば、習得のハードルはグッと下がる、はずだ。

 だから魔力の存在を可視化できる魔色鉱があれば、かなり魔法を習得しやすくなるはずだ。なんせ、魔力を放出できているかどうかが、色の変化という形でハッキリとわかるわけだから。


「ただ、問題が2つありまして……」


 カリナさんが申し訳なさそうに続ける。


「1つ目の問題は、魔色鉱がすごく貴重で高価って事です。この小さい鉱石一つでも金塊よりも高い物でして……とても皆さんには買えない値段ですよね。だから魔術ギルドでも紹介しなかったのかと。貴族の方とかだと、魔法練習にも使うらしいんですけど」

「あー、そういう事だったんですか」


 言われてみれば納得である。こんな魔法習得に便利そう、というか殆ど必須級に思える物を魔術ギルドが紹介しないのは不思議だった。初心者向けの無料講習だったからな。当然、参加者は金があまり無い。紹介しても買えないなら、紹介しない方がいいと思われたのだろう。


 しかし、見れば見るほどやっぱりこんな鉱石を見たことある気が……いや、待てよ。


「カリナさん、これってもしかして……魔色鉱だったりしませんか?」


 言いながらインベントリからビンを取り出す。

 ゲーム開始初日に謎の幼女に貰ったビン。その中には、鉛色の鉱石が数個入っている。


「ええ〜っと……これ、全部魔色鉱ですね。えっ、何でこんなに持ってるんですか!? かなりの金額しますよ!?」


 いや〜、謎の幼女に貰いまして。なんて言ったらまずいかな。

 そんな高価な物をポンとくれた暫定幼女先輩。一体何者なんだ……?




   □ □ □




「本当に借りていっていいの?」

「いいよ。ちゃんと返してくれれば」

「でも、これ高いんでしょ?」


 リュンネが驚き半分、心配半分と言った感じで聞いてくる。

 確かに高いらしいが、自分で買った物でも無いしな。


「減るもんじゃなし、気にせず練習に使ってくれ。まずは魔力を放出できる様にならないと……リュンネならすぐできる様になるんじゃ無いか? 期待してる」

「そ、そうね! 任せといて!」


 そんなやりとりもありつつ、俺達は各自、魔色鉱を使った魔法練習をすることにした。

 そのために、リュンネとココネルさんに1つづつ魔色鉱を貸してある。


「……問題は、むしろ次のステップだな」

「カリナさんが言っていた、二つ目の問題点ですね」


 ココネルさんの言葉に頷く。


 そう、カリナさんは言っていた。2つ目のプロセスが問題だと。

 初歩的な魔法発動のプロセスはこうだ。


 ①体内の魔力を操作し、手の平などから体外に放出する

 ②体外で魔力を練り上げ、火などに変換する

 ③変換した物を操作する(敵の方に飛ばすとか)


 このうち、魔色鉱による練習が有効なのは①だけ。

 しかし、重要かつ難易度が高いのは②のプロセス。この『魔力を体外で練り上げる』感覚を掴む事が難しいらしい。


「体外の魔力の流れも何かで捉えられればいいんだけど……」

「魔力が見えるメガネとか無いんですかね?……なーんて、あったらカリナさんが言ってますよね」


 メガネか……メガネ?

 そうか、確かに。

 例えば魔力に色がついて見えるメガネ、なんて物があれば体外の魔力の流れも視覚的に捉えられる。

 魔力メガネ。言われてみれば、それしか無いと思えるアイデアだ。


「ココネルさん!」

「は、はい!?」

「それ、それですよ! ナイスアイデア!」


 製法には心当たりがある。そして、材料も揃うはずだ。

 魔色鉱、ガラス、そしてもうひとつアレ・・があれば、リアル過ぎるこのゲームならきっと――。

 こうしちゃいられない、早速作らないと!


「あ、あの、オールディさん……」

「はい?」

「嫌じゃ、無いんですけど、そんな急にだと、ちょっと、恥ずかしいというか……」


 気がつけば、ココネルさんが顔を真っ赤にしている。

 っていうか、ココネルさんの顔が異様に近い・・

 うん?

 何で俺、こんなにココネルさんに近寄って……てか、肩も掴んでるし……!


「ご、ごめんなさい! 興奮してつい! い、今、離れますから!」

「……ねえココネル。このおじさん、やっぱりちょっと怪しいんじゃない?」

「い、嫌では無いんですよ……?」


 申し訳ありませでしたああ!!!

 俺は本日、このゲーム2回目の全力土下座をかますのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る