魔法を習得しよう!(気合編)

 考えDon'tるなthink感じろFeel

 脳内でそんなフレーズが繰り返されている。


「むむむむむ……!」


 右隣ではココネルさんが可愛らしく唸っている。

 この間も唸っていたし、もしかして癖なんだろうか。可愛いからいいけど。


「いいですかぁ? 魔法を使うには、一にも二にも感覚! 魔力を扱う感覚が無ければ、何も出来ません!」


 講師のお姉さんが声を張る。

 ここは魔法ギルドの開催する『初心者向け魔法講習』の会場だ。他ギルドが開催する講座と同じく、初心者向けの講習は無料で受ける事が可能だ。


 講師の説明によれば、魔法を発動するには以下のプロセスを経る必要がある。


 ①体内の魔力を操作し、手の平などから体外に放出する

 ②体外で魔力を練り上げ、火などに変換する

 ③変換した物を操作する(敵の方に飛ばすとか)


 で、これらのプロセスをいずれも感覚的に実行するわけだ。


 感覚……ねえ。そう言われても、漠然とし過ぎである。

 当たり前だが、魔力なんてものは現実には無い。だから『魔力の感覚』なんて、誰も体験した事が無い。全く経験した事が無い感覚を掴め、と言われてもなあ。それこそ、雲を掴むような話だ。

 まずさ、魔力を操作するとか放出するとかの感覚がわかんないんだよね。


「うーん、うーん!」


 左隣ではゴスロリ娘が眉間にシワを寄せている。

 魔女の様な三角帽子を被っているが、魔法はまだ使えないらしい。

 ココネルさんと一緒に一生懸命唸ってはいるが……成果は芳しくない。


「魔法! 感覚! 気合い! 感覚! グッと気合いを入れてズビッと感じるのです!」


 講師が元気に声を張り上げる。いやいや、あまりにも感覚的過ぎるでしょ。


「むむむむむ!」

「うーんうーん!」


 うーむ……どうしたもんかね、これ。




    □ □ □




 数時間前。

 ログインすると、ココネルさんから『相談がある』とのメッセージが来ていた。

 現状唯一のフレンドからの相談だ。もちろん聞きますとも。ココネルさん可愛いし。


 で、一通り内容を聞いたわけなんだが……。


「なるほど、魔法の習得に苦戦しているフレンドがいると……」

「はい。それで今度、私も魔法講習に行ってみようと思うんです。一緒にやれば、何かきっかけが掴めないかと……。良ければ、オールディさんも一緒にいかがですか?」

「丁度行ってみようと思っていたところです。是非ご一緒させて下さい」

「本当ですか!? わー、楽しみです!」


 無邪気に喜ぶココネルさんは可愛いなあ。無防備すぎて、おじさんはちょっと心配にもなりますが。


 しかし――魔法か。

 色々と面倒くさい仕様のこのゲームだが、とりわけ魔法関係は、ヤバイ・・・

 なんせ歴戦のゲーマー達をもってしても……βテスト期間の一週間では誰も習得出来なかった、なんて曰く付きの代物シロモノだ。そもそも魔法システムちゃんと実装されてるの? なんて疑問の声まで出てくる始末。NPCはちゃんと使えてるんで、なんらかの条件を満たしていないのか、あるいは――単純に難易度が高いのか、ってのが大多数の推測だが。

 正式サービスが始まっている現在も、魔法発動については匿名の成功報告が極少数あるだけ。信憑性としてはかなり怪しい。ぶっちゃけ現時点では、習得者はいないと思っていいだろう。


 とはいえ……上級ポーション作製のためにも、いずれは習得しなければならない技能。ココネルさんのフレンドのためにも、いっちょ魔法習得方法を解明してみせますか!




   □ □ □




 と、意気込んで『初心者向け魔法講習』に参加してみたんだが……うん、さっぱりわからん。


「だあー! 何回講習に参加してもさっぱりわからない! 何なの、魔力の感覚って何なの!?」


 ゴスロリ魔女(未満)娘が頭を抱えながら叫んでいる。


 彼女の名前はリュンヌ。ココネルさんの『魔法習得に苦戦しているフレンド』だ。

 金髪ツインテにゴスロリチックな服という、ゲーム内でもなければ滅多にお目にかかれない格好をしている。しかし、その格好が自然に似合う程の西洋風美少女顔だ。さすがココネルさんのフレンド、キャラメイクレベルが高い。まあ、体型に関してはココネルさんとは対照的につるぺった……いや、これ以上はあえて言うまい。おじさんにもその位のデリカシーはある。


 彼女はココネルさんの裁縫の腕に惚れ込んで、ゴスロリ服と三角帽子の製作を頼みこんだらしい。その件がきっかけ、仲良くなったそうだ。当然オーダーメイドなので結構金がかかる。初心者プレイヤーにそんなまとまったお金はないので、分割支払いの途中との事。いきなりそんなファッションに金かける、普通?


「リュンネちゃん、ゲーム初日から毎日あの講習に参加してるんです。今の服を作ってる間も、早く立派な魔女になるんだ〜っ、て楽しそうに話してくれて」


 なるほど、それだけ魔女に憧れがあるって事だろうか。ロールプレイ勢なのかもな。それなら少し気持ちがわかる。魔法が使えない魔女ロールなんて……まあ、やってられない。全力で魔法習得に動くのは納得できる。


「でも……最近は日に日に元気がなくなって来ていて。あんなに頑張ってるのに、なんとかしてあげたいんですけど……」

「……そうですね」


 俺たちの視線の先ではリュンネが再び魔法を発動しようと試行錯誤を続けている。


「うーん、こうかな? それとも……こう!?」


 講習はとっくに終わっている。他の参加者達は皆、魔法習得を諦めて帰っていった。それが正常な反応だろう。

 だけど、リュンネだけは。初日からずっと前進が無くても、彼女だけは諦めずに頑張っている。

 努力をして、頑張って、それでも前に進んでいるのかわからない、意味があるのかわからない。そんな状態は結構つらいもんだ。おじさんも少しは身に覚えがある。


 出来る事なら、なんとかしてあげたい。しかし感覚が掴めない事には……いや、待てよ?

 魔力、魔力か。もしかしたら、アレ・・があれば簡単に――。


「って、こんな相談されても困りますよね、すみません。なんとなくですけど、オールディさんならなんとか出来ちゃうかも、なーんて……」

「――いえ、なんとか出来ちゃうかもしれませんよ」


 俺の予想が合っていれば、だけどね。

 さて、検証開始といきますか。

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