第22話:悲劇の主役との邂逅
キリークに帰った僕は衛兵の詰め所に向かい、駐屯していた人達に今日の出来事を話した。
ニュートマンティスの巣穴を潰した事、そしてタラークの人達と出会った事…結構な近場であるせいか、とても真剣に聞いてくれた。
地図を見ながら目撃した場所と照らし合わせながら話をすると、徐々に険しい表情となっていった。
「ここか…結構近いな。そいつらから何か貰ったりしたか?」
「お礼という事で、お金を少々」
僕がポケットからお金の入った麻袋を取り出すと、訝しむような目を向けられた。
「なぁ、その金は本当に―――いや、なんでもない」
そう言って衛兵の人達は気まずそうな顔をして顔を背けた。
この人達が言おうとした事は分かる…「キリークの情報を売って手に入れた金なんじゃないか?」と言おうしたのだろう。
僕がお金を欲しているという動機があるのもそうだが、根本的には性別…いや、種族としての違いによって疑われている。
キリークの人達は男と交わらない事でその純潔を保ち、それを破ればキリークではなくなる。
そうなれば女の子だけではなく男の子も産む可能性があり、その男の子がもしかしたら他のキリークの純潔をも破るかもしれない。
そうなれば裏切り者なんてものじゃあない、一族を滅ぼすテロリストとして排斥させられる事だろう。
つまるところ、怖いのだ。
別の種族が…男が……キリーク以外の全てが。
そう考えれば僕に対して未だ警戒しているのも仕方がないと思えるし、それについて追求するのも野暮というものだ。
というか転生者であるクレオが異端なだけである、将来的にはエイブラハムさんと同じ扱いになるんじゃないかな…。
「そうか…タラークの男共がいたか。少年、どうしてそいつらがタラークだと分かった?」
「しっかり整えられた装備が、全員分用意されてました。それだけの技術力と資源を持つとなれば個人ではありえません」
夜、館の人払いされた個室でトリュファイナさんに衛兵さんに話した事と同じ内容を話す。
流石に露骨に怪しんだりはされなかったが、何度も質問された。
トリュファイナさんの質問責めが終わって一息ついたところで、今度は僕から尋ねる。
「もしもタラークとの戦争が始まったらどうしますか? こちらから攻め込みますか?」
「昔ならいざしらず、今はそんなことを望んではいない。……弱気であると思うか?」
「いいえ、そうは思いません。ただ、相手が…そして身内がそう思うかどうかは分かりませんけれども」
僕の言葉を聞いてトリュファイナさんがやれやれといった感じで溜息をつく。
やはり人を導く立場というのは、とても苦労するのだろう。
「我らキリークはタラークを山岳の奥地へと、海側へと追いやった。だから、もしも負けたらどのような報復があるか…それが恐ろしい、だから虚勢を張ろうとするのだ」
実際、タラークでもそういった人達がいる。
過去の恨みをつのらせて、憎悪を燃やし、そして征服する事に命を賭けている人達が。
僕はゲームでその人達の味方をしたからよーく知っている。
その時の僕には立派なお題目なんてない、ただ"ちょうどよかった"から手伝っただけである。
「和解は無理であろう。それでもせめて、互いに不干渉であればと思うのだが…それすらも難しいか」
「それは贅沢ですよ。家が隣同士の人達でも互いに不満を溜め込んで喧嘩する時があるんですよ」
「……そうか、贅沢な要望だったか」
僕らは互いに苦笑し合う。
今のこの世界は間違いなくゲームの時よマシだ。
けれども、どうしようもない事は変わらず存在している。
せめてタラーク側の意見でも分かれば…。
「ユリウス……」
「ん? 誰だそれは?」
ふと、タラークについて考えているとひとりの名前を呟いてしまった。
ユリウス・ソール、タラークの青年である。
彼はタラーク権力者の一人息子でありながら、戦争に反対していた。
タラークの中でも良識があり、人気や実力もある将来を熱望される若者であったのだが、戦争を望む人達にとっては邪魔でしかなかった。
彼は権力者達によって斥候隊を任され、その任務を果たしていた。
そんなある日、彼はキリークの兵に見つかってしまい、無惨な死体となって帰ってきた。
これによりタラークの民は一丸となってキリークへの復讐を誓う事になったのだ。
……というシナリオであり、実際は利用されて暗殺されたのだ。
ならば、それを食い止めれば戦争を止める事ができるかもしれない。
僕はゲームの知識であることはぼかして、ユリウスという人物について説明する。
「なるほど…確かにタラークの意見が全て一致しているとは限らない。だが、不用意に接触して大丈夫なのか?」
「まぁ、僕はこれでも男ですから」
クレオがキリークの伝統衣装…まぁ女物の服を好まないせいで、僕に着せようとする人がいるけど、こんなんでも男である。
少なくとも、僕が男であるというだけでタラークの人達はいきなり襲ってきたりはしないはずだ。
……うん、別の意味でも襲う事はないと思う、思いたい。
そして翌日から僕は前にタラークの人達と出会った場所の近くを散策する事にした。
原作の時系列を考えればユリウスは死んでいない、今だからこそ彼と接触する事ができる。
初日は空振り、そして二日目も会えない…。
そして三日目、危険を承知で六本足のムコノに任せるように走らせると、山岳地帯の森で出会うことが出来た。
「皆、待ってくれ! 彼は大丈夫だ!」
突然大きなトカゲが現れたせいでその場にいた人達は武器を構えたのだが、前に会ったその人だけは冷静に皆を落ち着かせていた。
「す、すいません! どうやら驚かせてしまったようで…」
僕はすぐにムコノから降りて挨拶すると、他の人達は子供である僕を見て安堵していた。
そしてリーダー格だと思われる男の人から質問がきた。
「久しぶりだね、マジックユーザーの少年。こんな所でどうしたのかな?」
「お金になるものを探してるんです。そちらは何を探してるんですか?」
「何も面白くない、ただの調査だよ」
そう言って手に持っていた紙を丸めて、ポンポンと手で叩く。
恐らく地図だろう。
それが攻める為のものなのか、それとも守る為のものなのか、両方であるといった方が正しいだろう。
「……よければ、ご一緒しても?」
「ああ、構わないよ。キミはここら辺に詳しそうだね、頼りにさせてもらうよ」
そうして僕とリーダーの人は握手をする。
いきなりの飛び入り参加ではあるものの、他の人達も概ね好意的に僕に接してくれた。
山中を歩きながら、僕は自己紹介をしながら探りを入れる事にした。
「僕はフィル・グリムです。皆さんはタラークの人達ですよね?」
「……あぁ、よく分かったね。どうして分かったのかな」
「ギルドの仕事をしているなら、そんな高品質な装備で統一されているのは不自然です。だから山賊でも無さそうですから、あとは消去法でタラークの人かなと思いました」
正直に答えたせいで警戒されるかと思いきや、リーダーの人は苦笑されて返答してくれた。
「ご明察さ、俺らはタラークの斥候隊で色々と調べている。……なんでだと思う?」
「―――キリークの街を、攻める為ですか?」
相手の核心に踏み込む勢いで、僕は答える。
もしかしたらこの場で拘束されるかもしれないが、彼はその場で大笑いしてしまった。
「ハハハハッ! そうか、いやいや失敬…子供は想像力が豊かだ」
「ち、違うんですか?」
「まぁそういう連中もいるさ、だけど本来の目的は竜だよ。数日前に山に突然現れ、そしてどこかに去っていった。俺らは他に危険がないか調べているってわけさ」
………あぁ、あれが原因だったのか。
どうしよう、僕も原因のひとつだから凄く気まずい。
かといって竜言語を教えてくれましたとか、アズラエルの肋骨を埋め直されましたとか言えるはずもなく…。
「俺の名前はユリウス・ソール。よろしくな、フィル君」
兜を脱いであらわとなったその顔は、僕が知る悲劇の男と同じものであった。
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