第22話 女の勘というやつか?

 桐井の衝撃発言、ゆるるの直球の告白……半日の間に色々なことがありすぎて、頭がパンクしそうになっている。


 20代の、70代への恋。

 8歳の、27歳への恋。しかも、俺が当事者。


 彼女たちの心中を知りたい。

 何十歳も年下の相手から恋心を寄せられた場合の正しい振る舞い方を知りたい。


 ……ああ、俺は何もわかっていない。


 そもそも七香としか恋愛をしたことがないし、彼女への恋心は今思えば憧憬に近いものだった。


 だから、恋愛の本質がよくわからない。ましてや年が離れた人との恋なんて……。


 これ以上考えても埒が明かないと判断した俺は、気分転換をすることにした。


 時刻は午後9時。そろそろシャワーを浴びにネットカフェに向かおう。色々な感情を一旦洗い流すために。


 俺はバスタオルと着替えを詰めたトートバックを肩にかけ、玄関のドアを開けた。



「「わっ⁉」」



 目の前には、美葉がいた。お互いに驚き、変な声が重なった。

 


「ど、どうしてここに」

「や、家賃……回収しに来ただけ、です」



 それならインターフォンを鳴らせばいいのにと思ったが、あえて言わないことにした。

 もしかしたら、また俺に何か言いたいことがあるのかもしれないと勘ぐったから。



「そっか、ちょっと待ってて……というか、上がる?」

「……はい」



 俺は若干緊張しながらも、美葉を部屋の中に入れた。彼女はテーブルの前にちょこんと正座して周囲をきょろきょろと見回している。



「汚い?」

「……いえ、綺麗です」

「よかった」



 俺は密かに安堵のため息を漏らし、バッグから封筒を取り出した。



「はいこれ、桐井さんから」

「ありがとうございます」



 美葉は封筒の中身を確認しながら俺に問いかけた。



「どうやって会うことが出来たんですか?」



 俺はその問いかけを受け、今日の経緯を簡単に説明した。美葉が『三三七拍子』のくだりでころころと笑ったので、俺もつられて笑ってしまう。


 心地のよい時間だな、と思った。


 しかし――



「どんな方でした?」

「えっと、20代くらいの女性だよ。大人しそうな黒髪の」

「……美人?」

「まぁ……うん」



 客観的にはそうだろうと思い同意すると、美葉は何故か頬をぷくりと膨らませた。眉根を寄せ、俺を睨みつけている。



「え、え……怒ってる? なんで?」

「知ーらないっ!」



 動画であれば『ぷいっ』という効果音がつくような勢いでそっぽを向く美葉。俺はいつ地雷を踏んだのか全く分からず、変な汗が出てきた。


 俺は必死になって「ごめん」を繰り返した。

 すると少ししてから美葉の怒りが落ち着いた。


 女子って本当に難しい……。



「……桐井さんとは、どんな話をしたんです?」

「え、あ……」



 そう聞かれ、一瞬動揺した。

 

 桐井は美葉の祖父のことが好き……その衝撃の事実を伝えるべきかどうか。

 

 勿論、桐井のプライバシーを考えると言わない方が賢明だろう。

 だけど、美葉の1番大切な家族に関することとなると、隠しているのも心苦しい。


 言うべきか、言わないべきか……。


 

「どうしたんですか? 何か隠しているんですか?」

「え、あ、いや……」

「もしかして、私に言えないようなこと、話したんですか?」

「そ、そんなことは……」

「例えば、れ、恋愛のこととか……」

「ぎくぅ……」



 やばい。何故、バレているんだろう。


 女の勘というやつか?



「心の声、漏れてましたよ……もう、いいです」

「え、ちょ、ちょっと」



 俺が狼狽えている間に、美葉は立ち上がって玄関のドアノブに手をかけた。



「ごめんって……」

「……ですね」

「え? ごめん、聞き取れない」



 美葉は俺に背を向けたまま暗い声で呟いた。



「そういう女の人が好きなんですね……」

「え?」

「……大人しそうな黒髪の」



 何故、美葉が怒ったのかを何となく察した。


 彼女は『恋愛の話』=俺が桐井に一目惚れして口説いたと思っているんだろう。


 だからこの態度はきっと、タスクの最中に現を抜かしたことへの憤りだ。

 仕事中にそんなことをされたら怒るのも無理はない。



「いや、違うんだ。タスク中にごめん」

「違う……?」

「実は、恋愛の話っていうのは桐井さんの話であって、俺は全く関係ない」

「そう……」



 美葉はドアノブにかけていたてをすっと離し、俺の方に向き直った。



「でも、仕事中に無駄話をごめ――」

「じゃあ、教えてください。桐井さんの恋愛の話」



 美葉は俺の言葉を遮り、低い声で呟いた。

 この流れは……言うしかない、か。



「あの……取り乱さないでね?」

「取り乱す? やっぱり、なめろうが関係して――」

「違う、違うってば。……桐井さんの初恋の人の話なんだけど……」



 美葉が鋭い視線を向けている。

 俺は気圧されながらも、小さく呟いた。



「その……美葉のおじいさんなんだって」

「え……」

「で、でもあくまで初恋ってだけだと思うし本当の恋愛感情かは――」



 俺が言い終わる前に、美葉は玄関の外に飛び出してしまった。


 ……まさか、桐井に問いただす気か⁉


 俺は急いで美葉を追いかけた。

 

 どうか修羅場にならないでくれ――




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


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 3分で読めるので、是非読んでいただけると嬉しいです(*^^*)


 よろしくお願いしますm(_ _)m

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