美しい姫と哀れな狼の物語

昔々、ある所にそれはそれは美しい姫がおりました。

赤色の長い髪に雪の様に白い肌、長い睫毛と薄いグレーの瞳に真っ白いドレスがよく似合う姫でした。

普通のお姫様とは違いました。

姫は髪と同じ色の杖を持ち、名前を食べる狼と戦っていました。

姫は死後の世界の最後の審判人でした。

姫は姫であり願いを叶える死神でもありました。

姫の守っていた世界はとても綺麗でした。

薄いグリーンの川が蓮の花を浮かせ緩やかに流れ、自然の木々が心地良さそうに風吹かれ、綺麗なお家が沢山立っていました。

天国と地獄に行く事が許されなかった魂が集う場所。

罪を償い正しい魂に戻し、再び裁判を待つ場所。

彼女はこの世界の美しい姫でした。

姫は狼を狩るために森に行きました。

そして大勢の狼に虐められている傷だらけの狼がいました。

姫は周りにいた狼を殺しました。

そして傷だらけの狼に尋ねました。

「どうして貴方は虐められているの?」と姫は言いました。

狼は「名前を食べたくないから食べなかった。そしたら皆んなボクを弱虫と言って虐めてくる。」と言いました。

姫は狼の言葉にとても驚きました。

狼は本能のままに生きているのだと思っていました。

姫はそんな狼がとても優しい狼だと思いました。

姫は狼の頬に触れました。

「貴方はどうして名前を食べない?貴方達はこの世界に来た魂の名前を食べる事で生きられるのに。」

姫はこう尋ねました。

狼は答えました。

「他の人の命を奪ってまで生きたくないんだ。」

「貴方は…。どうして狼なの?」

姫は狼を抱き締めました。

狼は驚きました。

姫はどうして悲しそうな顔をしてボクを抱き締めて居るのだろう。

姫は何も悪くないのに…。

姫は狼にある提案をしました。

「貴方、一度死んで私のモノになる気は無いかしら?」

姫の提案は狼を驚かせました。

「ボクが…姫のモノに?」

「そうよ。貴方はとても優しい子。狼で生きるのでは無く、人の姿で生きて欲しいの…私の元で。」

姫の目はとても優しく狼を見つめていました。

狼はその瞳を見て胸が切なくなりました。

「ボクの生も死も貴方のモノだ。ボクは姫と共に生きたい。」

狼は人の姿になる事を選びました。

姫は微笑みそして狼の首を刎ねました。

狼の体は灰になり魂だけになりました。

姫は狼に言いました。

「貴方は今日から私のモノ。名前はガイよ。ガイの名を持って私の事を命が尽きるまで守って。」

姫の言葉は願いでもありそれは縛りでもありました。

狼はその縛りを縛りとは思っていませんでした。

「ボクは貴方の側を離れない。たとえこの世界が滅んでボクと姫だけになったとしても死がボクを迎えに来るまで貴方だけの下僕となります。」

狼は姫に忠誠と言う名の恋に落ちていました。

姫は微笑みそして魂の狼に口付けをしました。

魂の形は人の形と成し、右胸には赤い薔薇が咲き誇り狼は人に成りました。

狼は姫の前に跪き、手の甲に口付けをしました。

美しい姫と哀れな狼の物語。

それはそれは愛に狂った物語。

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