白玉の名に誓って

目を開けるとそこには星達が居なかった。

「ここは何処だろう。暗くて何も見えない。」

魂の形になった妾は暗い道を彷徨っていた。

妾は多分死んでしまったのだろう…。

ふわふわと浮いていると、すると突然ロウソクに青い火が灯され周りが明るくなった。

「急に明るくなった?」

周りをみると一面の青い彼岸花が咲いていていた。

「ここは…?」

「こんな所で迷子か?」

低い男の声がした。

声のした方向を見ると、青い火のランプを持っている男が立っていた。

ようく見ると、とても綺麗な顔をしていた。

青色のサラサラした髪に、サファイアのように美しい瞳。身長が高く全身黒いスーツをスマートに着こなして、黒革に青い薔薇の刺繍が施されたアタッシュケースを持っていた。

魂の妾優しく手で掬い(すく)上げた。

「ここはな、"MADA"に呑み込まれた者が来る所。」

「"MADA"?」

「お前はMADAの存在を知らないで来たのか…。MADAはな、強い殺意の事を言う。選ばれる者は他人に対して強い殺意を湧いた時。MADAの存在を知っている者が選ばれる。ここはそんな殺意に呑み込まれてしまった哀れな魂が送られる所だ。」

「殺意…。妾はアイツが憎い。」

「アイツ?」

妾は死んだ経緯を男に話した。

「ガイの野郎…。禁忌の果実の種を持ち出してたのか。」

「禁忌の果実の種?」

そう言うと、男はアタッシュケースを開き中から大事に保管されている枝付きの白い林檎が姿を見せた。

「林檎か?」

「これは禁忌の林檎(きんきのりんご)でな。人の絶望感を食べる林檎。その種をアイツは持ち出して人に植えてる…って事か。」

「その種は取り除けるの?」

「方法はある。」

「教えて!!妾は星を救いたいんだ!!」

男はしばらく言おうか考えていたらしく、やっと重たい口を開いた。

「もう1人の星を殺す事。」

「殺す…?」

「種を植え付けた時に絶望感から出来た人格が星を乗っ取ってる状態だ。その人格を殺せばいい。」

「どうやって…。」

「魂だけのお前じゃ無理だろうな。」

どうしたら…。

「俺の従者になるか?」

「え!?従者って何?」

「主人(あるじ)を死んでも守る。絶対的服従を誓う事。つまり、俺の事守ってくれればいいだけ。俺の魔力もあげれるしね。」

「家来みたいな感じの?」

「そうそう。どうする?」

力を与えてくれるのなら選択は一つしかない。

星を早く助けたい。

「なる。貴方の従者になる。」

妾がそう言うと男は笑みを浮かべた。

「なら契約するぞ。」

男は指を鳴らした。

すると地面から杖が出て来て、杖を妾の方に向けた。周りに魔法陣が浮かび、男は唱えた。

「哀れな魂よ。青藍の契約の元その魂が尽きるまで首輪と言う契約を経て汝よ、新たな魂戻れ。」

魔法陣が鎖に変わり妾の魂に巻き付いた。

すると妾の魂が実体化した。

人間の少女の姿に変わり、右の心臓の所に青い薔薇のタトゥーが彫られていた。

「こ、これは?妾は猫だったはずじゃ…」

「お前は生まれ変わったんだ。人間の姿に転生させた。

だが、お前はここの死後の世界の住人として生きてもらう。」

「現世には行けないのか?」

「MADAに一度呑み込まれてしまった魂は現世に行けない。そう言う掟(おきて)だ。俺の従者になったから人間の姿に転生出来ただけだ。本来なら左にあるはずの心臓はこの世界には右にある。」

「それじゃあ星を助けられないんじゃ!!」

妾がそう言うと男は妾にジャケットを掛け、妾の目線に合わせる様に腰を落とした。

「いいか、ここからが大事だ。お前に今から名前を付ける。名前を掛けて星を救え。」

「ど、どうやって…。」

「お前に俺の魔力を分ける。俺の能力とガイの能力は相性が悪い。その魔力があるお前はガイと互角に戦える。今、ここで誓えるか。」

「誓う?」

「名前持って誓えるか。名前はな、命と一本の線で繋がっいる。従者になった今、本来なら俺を守ると言う使命がある。だがな、お前は星を助けたいと言う願いがある。2つの契約が重なるわけだ。名前と言う名の誓いを主人である俺が聞く権利がある。名前を持ってその誓いを果たすと言う覚悟はあるか。」

命を掛けて助ける覚悟があるか。

男の瞳がそう言っている気がした。

大切な人を助ける覚悟…。

妾は…星を救いたい。

妾の事を助けてくれて、名前を付けてくれた。

それが嬉しかった。

だから星が苦しんでいるのなら妾が代わって苦しんであげたい。

星が死にたい程に辛い思いをしているなら妾がその思いを代わりにしたい。

大切な人を守りたい。

「妾は星が助かればどうなっても構わない。たとえそれで命を落としたとしてもこの命は名前を付けて貰ったあの日から星の物だ。」

妾は男の目を見つめた。

「聞く必要は無かったな。分かった。お前、星に付けてもらった名前あるだろ?その名前言ってみろ。」

「白玉だ。」

男は杖の先を妾の額に当てた。

「名前の契約の元に、この命が尽きるまで名前に貸せられた契約を果たす。白玉の名に掛けて。」

すると妾の体に青いオーラが流れ込んで来た。

きっとこの男の魔力が妾の体に流れ込んで来たのだろう。

暖かい…。

「よし、これで完了だ。俺の名前は青藍(せいらん)だ。宜しくな白玉。」

「宜しく頼むぞ、青藍。」

こうして妾は青藍の従者になった。

青藍が妾に武器を与えた。

青色の大きな薔薇が沢山付いている鎌だった。

すると青藍の体が小さくなった。

「え!?急に小さく…」

「魔力を分け過ぎただけだ。」

「どう言う事?」

「いいか。ガイはきっとこれからも下界に降りて人間に種を植え付けるだろう。ガイは、アイツの杖を奪った今、俺の魔力は半分アイツを守る為に使っている。だからお前にはガイが種を植え付ける前に種を壊して欲しい。」

「大丈夫なのか?妾にも魔力を分けているのに。」

「それは大丈夫だ。アイツの場合、一時的に睡眠魔法を掛けているだけだ。頼むぞ白玉。」

妾は青藍の前で跪き(ひざまつ)、「主人の為に(イエスマイロード)」と呟いた。

それからの妾は現世に降り、ガイが人間に種を植え付けようとしている所を止めた。

妾は鎌を振りガイの腕を切り落とした。

「!?お前…星の猫か。この魔力とその鎌は…お前、青藍の従者になったのか!!」

「妾は星を助ける為に従者になったのだ。お前を殺す為にな。」

そう言うとガイは笑い出した。

「お前がボクを止める?面白い事言うじゃん。」

ガイは切り落とされた腕を蘇生させた。

「いいぜ?遊んでやるよ。」

ガイは杖を出し、無数の赤い弓矢や剣を時空の歪みから出し妾に振りかざして来た。

妾は鎌を大きく振り暴風を起こし、攻撃を弾き飛ばしガイの後ろに周り鎌を振りがした。

「あははは!!」

そう言ってガイは振り返り歪みから剣を取り出し妾の攻撃を防いだ。

妾は鎌を何度も振り下ろすが、悉く(ことごとく)防がれる。

妾は一瞬の隙を突き、懐にあった種のを奪った。

「あれー?」

妾は青い炎を指から出し種を燃やした。

「本当にムカつくなぁ。青藍もボクの邪魔をするお前も。殺すよ?」

「ただでは殺されんぞ。」

そこから妾とガイの戦いが始まった。

星に飲ませようとするドリンクを壊していた。

傷だらけになりながらも妾は星を守った。

妾は誓ったんだ。

名を掛けてたとえ命を落とす事になっても星を守ると。

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