僕の歌姫

闇side


俺はイライラしながらポケットを漁った。

ガラスの地球儀を取り出し、出されるピンク色の光を辿り暗い路地裏を歩いていた。

「ギュイイイイイッ!」

化け物の叫び声が耳に響く。

目の前には憎らしい化け物の姿があった。

この怒りを収めるのにちょうど良かった。

「麦(ムギ)…。すぐに助けてやるからな。ついでに、お前に八つ当たりさせてもらう。」

そう言って俺は、闇色の鎖が沢山巻き付いた鎌を出し、化け物の体を切り刻んだ。

気性の荒い叫び声が耳に響く。

鎌に沢山巻き付いていた鎖が鎌から離れ、その鎖が化け物の体を拘束した。

俺は鎌を振り頭を切り落とした。

化け物の中からピンク色の欠片が出てきた。

俺が欠片を取ると化け物は灰になり消えて行った。

手のひらに輝く小さなピンク色の欠片。

「麦…。」

俺は欠片を小瓶に入れた。

これで小瓶の中が半分溜まった…。

俺は、自分の命を守る様な戦い方をしていなかった。

自分の命よりも、妹の方が大切だった。

俺は壁にもたれ、ポケットに入れてあった煙草を取り出し、口に咥え火をつけた。

西条麦(サイジョウムギ)、俺の妹で、BLACKというバンドのボーカルだった。

BLACKは麦が入るまでは、人気は無かった。

ライブハウスでライブをしても、少ないファンしか俺達の演奏を聴いていなかった。

だけど麦は毎回演奏を聴きに来ていた。

「お兄ちゃんのベース姿カッコ良かった!」

「ありがとな麦。だけど、全然俺等のライブ見てくれる人が増えねぇな。」

「見る目ないよね!お兄ちゃん達の演奏、凄くカッコイイのにな…。」

いつも、麦は俺を励ましてくれていた。

「ありがとな。麦。」

俺は麦の頭を撫でた。

見た目はお人形の様な顔立ちで俺と同じ赤色の丸瞳、色白の肌にシルバーアッシュの緩まきパーマをハーフツインテールにしていて、ピアスが沢山開けてあった。

麦はなんでも俺の真似をしていた。

ピアスの数や、俺の好きな食べ物を真似して好きになったり、4つ下の妹は俺にとっては可愛く見え

BLACKのボーカルだった奴が抜けて、麦がバンドに入りたいと言っていたので、ボーカルとしてメンバーに加入させた。

すると、今まで集まらなかった客が集まって来た。

麦の歌声は透き通っていて、誰もが聞き惚れするモノだった。

俺も麦の歌声が好きだった。

小さい頃から麦は歌う事が好きだった。

俺も小さい頃から、母親がロックバンドを好きだったのが影響で俺も興味を持ちベースを弾いていた。

その横で麦は楽しそうに歌っていた。

俺はその姿を見るのが好きだった。

ある日の事。

演奏を聴いていた有名な音楽プロデューサーに俺達のバンドが目に止まりそのプロデューサーにスカウトされた。

そこから人気が出るまでそう時間はかからなかった。

麦の歌声が絶大なる歌唱力で、ボイトレをしただけで、すくすくと力を付けていた。

他のメンバーの2人は麦のご機嫌取りを始めていた。

2人は麦に頼りっぱなしで、自分達の技術を磨こうとしなかった。

俺は地道に技術を高めようと、練習した。

そのおかげで、俺のベースを高く評価された。

だが、この時に気付いていれば良かったんだ。

麦の心が壊れて始めていた事を…。

「麦。最近元気ないみたいだけど、どうした?何かあったろ。」

「え!?、別になにもないよ。変なお兄ちゃんー。」

フフフッと軽く笑った。

だけど、その笑顔はどこか無理して笑ってるように見えた。

「前々から思ってたけど。麦、最近痩せたろ。飯もロクに食べてねぇだろ。」

「さ、最近ダイエット始めたの!ほら、人前に出る仕事だしさ!」

やはり何かを隠している様子だった。

俺は高校を卒業をし、実家を出て一人暮らしを始めた。

母親に後で電話して聞いてみよう。

「麦。」

「何?」

「言いたくないなら今は言わなくていい。俺はお前の味方だからな。それは忘れないでほしい。」

「お兄ちゃん…。ありがとう。」

泣きそうになっていた麦を抱きしめた。

その夜。

俺は母親に電話をし、最近の麦の様子を聞いた。

どうやら、SNSで書き込みの嫌がらせと自宅にも嫌がらせを受けていたらしい。

それを知った俺はSNS書き込みを見た。

麦がやっているSNSを覗くと、そこには、酷い書き込みが沢山してあった。

「死ねよ。」

「調子乗んなよ。ブスが」

「流花(ルカ)の妹だからっていい気になんなよ」

コメントや書き込みを読んでいると、ほとんどが俺のファンが書き込んでいた。

「何だこれ…!俺のファンが麦の事、嫌ってこんな書き込みしてんのか…。」

麦は言えなかったのか。

ネット社会をどうにかする事も出来ない。

自宅も調べて、ネズミの死体や剃刀の入った手紙などを送っていたらしい。

俺は母親に「麦を俺の家で保護する。母さんも被害とか嫌がらせ受けてんなら、俺の家に避難してきてもいい。」

そう言うと母親は自分は大丈夫だと言って麦だけお願いと言った。

俺は麦に電話をした。

「お兄ちゃん?どうしたのー?」

「麦。母さんから聞いた。」

「え?なにを?」

「俺のファンが麦に嫌がらせしてた事。ごめんな。お前が嫌な目にあってるのに俺…なんも…。」

俺は泣きそうになったのをグッと堪えた。

「お兄ちゃんは何も悪くないじゃない…。あたしはお兄ちゃんに心配かけたくなかったの…。お兄ちゃんはあたしのために無茶するの分かってたから。」

麦は泣きながら、語った。

「麦。今日から俺の家に来い。」

「え?」

「母さんとは話をつけてある。俺が側に居た方がいい。

嫌がらせの対処もすぐ出来るし。分かったな?今日迎えに行くからな。荷物まとめとけよ。」

そう言うと麦はクスッと軽く笑った。

「え!?今日って…。お兄ちゃんは本当に強引なんだから…。ありがとうお兄ちゃん。あたしお兄ちゃんの妹で良かった。」

「そうか。俺もお前の兄貴で良かったよ。じゃあ迎えに行くから準備しとけよ。」

「うん!分かった!」

俺は電話を切り、車に乗り麦の居る実家に向かった。

「あら!流花早かったわね?麦ならシャワー浴びるってお風呂に入っちゃったわよ。」

「待ってるからいい。」

俺はリビングのソファーに腰かけ、麦が風呂から上がるのを待った。

すると母親が冷たい麦茶を俺に出した。

「サンキュ。」

そう言って俺は麦茶を口に運んだ。

「ありがとう。麦に流花がついて良かったんた。流花にはいつも迷惑かけちゃって。お金も入れてくれてるしね。」

母親は申し訳けなさそうに俺を見つめた。

俺の家は母子家庭で、今まで1人で、俺達2人を育ててくれた。

「当たり前の事してるだけだろ?そんなに気にすんなよ。麦の事は気づいてやれなかった俺が悪いんだ。」

「そんな事ないわよ。麦も流花に心配かけたくなかったのよ。自分の事…責めないでちょうだい。」

「ありがとう、母さん…。」

15分くらい母親と話をしていた。

だが、麦が風呂上がってくる気配がながった。

俺は何か嫌な予感がし、母親に麦の様子を見てくる様に頼んだ。

すると母親の悲鳴声が聞こえた。

俺はすぐに風呂場に向かった。

「嫌…嫌よ!麦!」

そこにはシャワーを浴びながら手首をカッターで切り付け、倒れていた。

俺は麦に近より抱き起こした。

「麦!!おい!麦!起きろ!。母さんは救急車に電話しろ!」

「わ、わかったわ!」

母親は風呂場を出て救急車を呼んだ。

血の気をまったく通っていない顔に白い唇。

俺は麦を抱き締めた。

何度も何度も麦の名前を読んでも返事をしてくれない。

病院に運ばれた頃には時すでに遅そかった。

「御冥福お祈りします」

医者が俺達にそう言った。

信じられなかった。

俺は、麦が死んだ事を信じられなかった。

医者が何言っているのかわからなかった。

母親は眠っている麦に泣きながら抱き締めていた。

俺は眠っている麦の頬を触った。

冷たい…冷たい…。

「俺のせいだ…。」

俺が麦の異変に気付いてあげられなかったから麦が死んだんだ…。

俺が…。

俺は病室を出て、いつの間にか屋上に来ていた。

無我夢中で、屋上のフェンスを超え、飛び降りをしようとしていた。

もう…この世の全てがどうでもいい。

飛び降りよとすると、少女の声が聞こえた。

「死ぬのは惜しいぞ。」

ハッとして声のした方向に目を向けると、さっきまでいたはずの屋上ではなく、灰色の空が広がり空に沢山の家が浮いていてスラム街のような街が広がっていた。

「ここは?俺はさっきまで飛び降りようとしたはずなのに…。」

「それは妾がここに連れてきたからじゃ。」

「誰だ?」

俺の目の前にフードを被った少女が居た。

「妹の死はアイツが自殺をするように仕組んだのだ。」

「!?殺されたって事かよ!?」

俺は少女に近より肩を掴んだ。

「そうだ。」

「誰だよ!?俺がぶっ殺す。」

「だがら。お前にはこっちの世界に来てもわらないといけないんだ。」

「こっちの世界?」

「そうだ。お前にはまず、MADAについて自分で調べてもらう。そして、この死後の世界に来てもらう。」

訳の分からない説明をしだした。

「MADA…?」

「そうだ。時間がないぞ。お前の妹を助ける方法がある。」

「助けられるのか!?どうやってだ!教えろ!」

俺は少女の肩を力強く揺すった。

少女は俺の頭に頭突きをした。

「いってぇーな!なにすんだよ!」

「揺するな!いいか。お前の妹は欠片になってこの世界に散らばっている。それを集めれば妹を助ける事が出来る。」

「欠片…?」

「あぁ。お前はまず、MADAの存在を知り、この世界に来い。話はそれからだ。」

そう言って少女は指を鳴らした。

するとさっきまでの世界が無くなり、もといた屋上に戻っていた。

謎が深まるばかりだった。

「何だったんだ、今の…。いつの間にか戻ってきてるし…。」

だけど…アイツが言っていた事は本当なのか、嘘なのか分からないが…。

俺は、今はまだ死ぬときでは無いって事だな?

とりあえずMADAの事を調べてみるか、麦の部屋にも何かあるかもしれないな。

俺は病院を出て、実家に向かった。

俺は麦の部屋に向かい部屋を開けると、俺の部屋に引っ越すのに必要な物がキャリーバックに詰められていた。

ベットの上に置いてあるスマホが光っていた。

スマホの手に取ると、"MADA"と書かれたサイトが開かれていた。

アイツが言っていたMADAってこれの事か?

俺はサイトに書いてある事を一通り目に通した。

自殺の事と、死後の世界の事が書かれていた。

麦はこのサイトを見て、MADAの存在を知った。

精神的に参っていた麦なら自殺をする可能性は高い。

だが、アイツは麦が自殺をするように仕組まれたと言っていた。

俺は、やっぱり死後の世界に行かないと行けないみたいだな。

麦を助けられるのなら、行かないと言う選択は無かった。

それに、麦を自殺に追い込んだ人物を見つけ出し、この手で殺す。

その為に俺は死後の世界に行く。

外を見ると満月の夜だった。

「ちょうどいいタイミングだな。行くなら早い方がいい。」

そして、俺は窓を開けた。

マンションの25階。

この高さなら、確実に死ねるな。

「待ってろよ麦。お前を殺した奴を俺が殺す。」

そう言って俺は飛び降りた。

目を開けるとあの世界に居た。

「早かったな。」

少女が腕組みをしながら俺を見ていた。

「あぁ。教えてくれよ。麦を助ける方法を。」

「勿論そのつもりだ。名付け屋に向かいながら話そう。」

そう言って少女は歩き出した。

全ての欠片を集めれば死後の世界の死神に1つだけ、願いを叶えてもらえる事。

その願いはなんでも良いらしく、麦を生き還らす事も可能なわけだ。

名付け屋に着くと、俺は49日までに欠片を集めないといけない事、闇と言う仮の名前を名乗る事を説明された。

「美しき兄妹愛だな。」

青藍と名乗った男が煙草を吸いながら俺を見つめ、「一本吸うか?」と言って煙草を一本貰った。

煙草に火をつける一息つくと、バニラの香りがした。

「俺は麦を殺した奴を許せない。だけど…麦を助けられなかった自分自身が1番許せないんだ。」

「だけど、こうして今、妹を助けにここに来たんだろ?その気持ちは胸に閉まっとけ。俺はお前のその覚悟の強さ気に入ったぞ?」

そう言って俺の頭を撫でた。

少女の名前は白玉と言って、白玉に麦を殺した奴は誰だと聞いたら、あと、2人揃ったら話すと言って、それ以上は教えてくれなかった。

俺は白玉に鎌の出し方と自分の能力を教えてもらい、そこから無我夢中に欠片を集めた。

自分を犠牲にする戦い方をしていた為、よく百合に部屋まで担いで運んでもらった。

百合と空蛾は俺とどうやら同じ理由でこの世界が来たと話した。

2人の事はどこか親近感が湧き、信頼感も徐々に築き上げていた。

そして、夜空が来て、白玉の様子がおかしいと思った。

異様に夜空の側を離れようとしなかったのを残りの2人も疑問に思っていた。

夜空が傷だらけで倒れていたのをたまたま見つけた俺に白玉は泣きそうな顔で、夜空を運んで手当てしてくれと頼んできた。

それで、ますます夜空に対して怪しいと思ってしまった。

その夜、白玉を問い詰めたがやはり何も答えてくれなかった。

どうやら夜空の記憶とやらが戻らないと話してくれないみたいだ。

その本人でさえも知らなかったみたいだ。

俺は腹が立って家を飛び出し、化け物に八つ当たりみたいな戦い方をしていた。

俺にも時間が無いんだ。

俺はもし、夜空が黒だった場合、容赦なく俺は夜空を殺す。

月夜に照らされた欠片が輝いていた。

俺はそれを優しく握った。

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