僕の歌姫
闇side
俺はイライラしながらポケットを漁った。
ゴゾゴソッ。
ガラスの地球儀を取り出し、出されるピンク色の光を辿り暗い路地裏を歩き出す。
白玉の庇いようと、夜空の反応…。
夜空は本当に、身に覚えのない事を言われている顔をしてた。
だとしたら、白玉がだけが何かを隠してんのか。
「ギュイイイイイッ!」
化け物の叫び声が耳に響く。
目の前には憎らしい化け物の姿があった。
この怒りを収めるのに、丁度良かった。
「麥(ムギ)…。すぐに助けてやるからな。ついでに、お前に八つ当たりさせてもらう」
ジャキンッ!!!
闇色の鎖が沢山巻き付いた鎌を刻印から出し、化け物の体を切り刻んだ。
ズシャズシャズシャ!!!
「ウキアヤアヤアァァァァァァイ!!」
気性の荒い叫び声が耳に響く。
鎌に沢山巻き付いていた鎖が鎌から離れ、その鎖が化
け物の体を拘束する。
ジャキンッ!!
俺は鎌を振り、勢いを付けて頭を素早く斬り落とす。
ブンッ!!
ズシャッ!!
化け物の中からピンク色の欠片が出て来た。
俺が欠片を取ると、化け物は灰になり消えて行った。
手のひらに輝く小さなピンク色の欠片。
「麥…」
俺は欠片を小瓶に入れ、瞼を閉じる。
これで、小瓶の中が半分溜まった…。
俺は、自分の命を守る様な戦い方をしていなかった。
自分の命よりも、妹の方が大切だった。
壁に背を付け、ポケットから煙草を取り出し、口に咥え火を付ける。
煙草の煙を見ながら、妹が死んだ日を思い出していた。
西条麥(サイジョウムギ)。
俺の妹で、BLACKというバンドのボーカルだった。
BLACKは麥が入るまでは、人気は無かった。
ライブハウスでライブをしても、少ないファンしか俺達の演奏を聴いていなかった。
だけど、麥だけは毎回演奏を聴きに来ていた。
「お兄ちゃんのベース姿カッコ良かった!!」
「ありがとな麥。だけど全然、俺等のライブ見てくれる人が増えねぇな」
「見る目ないよね!お兄ちゃん達の演奏、凄くカッコイイのにな…」
いつも、麥は俺を励ましてくれていた。
「ありがとな、麥」
俺はそう言って、優しく麥の頭を撫でた。
見た目はお人形の様な顔立ちでら俺と同じ赤色の丸瞳。
色白の肌にシルバーアッシュの緩まきパーマをハーフツインテールにしていて、ピアスが沢山開けてあった。
麥はピアスや香水、何もかも俺の真似をしていた。
ピアスの数や、好きな食べ物を真似して食べたり。
俺と同じ煙草を吸いたいと言い出したが、それは流石に止めた。
だからなのか、4つ下の妹は俺にとっては可愛くて仕方がなかった。
BLACKのボーカルだった奴が抜けて、麥がバンドに入りたいと言って出来たのだ。
試しに、歌は上手かった麥をボーカルとしてメンバーに加入させた。
すると、今まで集まらなかった客が集まって来た。
麥の歌声は透き通っていて、誰もが聞き惚れするモノだった。
俺も麥の歌声が好きだった。
小さい頃から麥は歌う事が好きだった。
俺も小さい頃から、母親がロックバンドを好きだったのが影響で、興味を持ちベースを弾き始めた。
その横で麥は音楽を流して、楽しそうに歌っている。
俺はその姿を見るのが好きで、ひたすらベースを引き続けた。
ある日の事。
有名な音楽プロデューサーに俺達のバンドが目に止まり、そのプロデューサーにスカウトされたのだ。
そこから、人気が出るまでそう時間は掛からなかった。
麥の歌声が絶大なる歌唱力で、ボイトレをしただけで、すくすくと力を付けていた。
他のメンバーの2人は麥のご機嫌取りを始めていた。
2人は麥の歌唱力に頼りっぱなしで、自分達の技術を磨こうとしなかった。
俺は地道に技術を高めようと、練習しまくった。
俺達のバンドは麥の歌唱力だけで、知名度を上げて来たようなもの。
俺は麥の横に立って、麥の後ろで演奏していたかった。
そのお陰で、俺のベースを高く評価されバンドの知名度がさらに上がる。
麥は自分の事に俺の事を喜んでくれた。
だが、この時に気付いていれば良かったんだ。
麥の心が壊れて始めていた事を…。
レコーディング中、麥の様子がおかしい事に気付き声を掛けた。
「麥、最近元気ないみたいだけど、どうした?何かあったろ」
「え!?、別になにもないよ。変なお兄ちゃんー」
フフッと軽く笑った。
だけど、その笑顔はどこか無理して笑ってるように見えた。
「前々から思ってたけど。麥、最近痩せたろ。飯もロクに食べてねぇだろ」
「さ、最近ダイエット始めたの!ほら、人前に出る仕事だしさ!」
そう言って、麥はヘッドホンを装着しレコーディングを再開する。
やはり、何かを隠している様子だった。
俺は高校を卒業をし、実家を出て一人暮らしを始めた。
母親に後で電話して聞いてみよう。
そんな事を思いながら、ベースに手を伸ばす。
レコーディングが無事に終わり、麥に声を掛けた。
「麥」
「何?」
「言いたくないなら、今は言わなくていい。俺はお前の味方だからな。それは忘れないでほしい」
「お兄ちゃん…、ありがとう」
泣きそうになっていた麥を抱きしめた。
その夜。
俺は母親に電話をし、最近の麦の様子を聞いた。
どうやらSNSで書き込みの嫌がらせと、自宅にも嫌がらせを受けていたらしい。
それを知った俺は、すぐにSNS書き込みを見た。
麥がやっているSNSを覗くと、そこには酷い書き込みが沢山あった。
「死ねよ」
「調子乗んなよ。ブスが」
「流花(ルカ)の妹だからっていい気になんなよ」
コメントや書き込みを読んでいると、ほとんどが俺のファンが書き込んでいた。
「何だこれ…!俺のファンが麥のら事、嫌ってこんな書き込みしてんのか…」
だから、麥は俺に言えなかったのか。
ネット社会をどうにかする事も出来ない。
自宅も調べて、ネズミの死体や剃刀の入った手紙などを送っていたらしい。
俺は母親に「麥を俺の家で保護する。母さんも被害とか嫌がらせ受けてんなら、俺の家に避難してきてもいい。」
そう言うと母親は自分は大丈夫だと言って、麥だけお願いと言った。
俺はすぐに麥電話をした。
「お兄ちゃん?どうしたのー?」
「麥、母さんから聞いた。」
「え?なにを?」
「俺のファンが麦に嫌がらせしてた事。ごめんな。お前が嫌な目にあってるのに俺…なんも…」
俺は泣きそうになったのをグッと堪えた。
「お兄ちゃんは何も悪くないじゃない…。あたしはお兄ちゃんに心配かけたくなかったの…。お兄ちゃんはあたしのために無茶するの分かってたから」
麥は泣きながら、語った。
「麥、今日から俺の家に来い。」
「え?」
「母さんとは話をつけてある。俺が側に居た方がいい嫌がらせの対処もすぐ出来るし。分かったな?今日迎えに行くからな。荷物まとめとけよ」
そう言うと、麥はクスッと軽く笑った。
「え!?今日って…。お兄ちゃんは本当に強引なんだから…。ありがとうお兄ちゃん。あたしお兄ちゃんの妹で良かった」
「そうか。俺もお前の兄貴で良かったよ。じゃあ迎えに行くから準備しとけよ」
「うん!分かった!」
俺は電話を切り車に乗り、麥の居る実家に向かった。
「あら!流花、早かったわね?麥ならシャワー浴びるってお風呂に入っちゃったわよ」
「待ってるからいい」
俺はリビングのソファーに腰かけ、麥が風呂から上がるのを待った。
キッチンから出て来た母親が、冷たい麦茶を俺に出した。
「サンキュ」
そう言って、俺は麦茶を口に運んだ。
「ありがとう、麥に流花が側に居てくれて良かったわ。流花にはいつも迷惑かけちゃって、お金も入れてくれてるしね」
母親は申し訳けなさそうに俺を見つめた。
俺の家は母子家庭で、今まで1人で俺達2人を育ててくれた。
「当たり前の事してるだけだろ?そんなに気にすんなよ。麥の事は気づいてやれなかった俺が悪いんだ」
「そんな事ないわよ。麥も流花に心配かけたくなかったのよ。自分の事…、責めないでちょうだい」
「ありがとう、母さん…。」
15分くらい母親と話をしていたが、麥が風呂上がってくる気配がながった。
俺は何か嫌な予感がし、母親に麥の様子を見てくる様に頼んだ。
すると、母親の悲鳴声が聞こえた。
俺はすぐに風呂場に向かい、最悪の光景を目にする。
「嫌…嫌よ!麦!」
シャワーを浴びながら手首をカッターで切り付け、麥が倒れていた。
俺は麥に近寄り、急いで抱き起こした。
「麦!!おい!!起きろ!!母さんは救急車に電話しつくれ!」
「わ、わかったわ!」
母親は風呂場を出て、急いで救急車を呼んだ。
血の気をまったく通っていない顔に白い唇。
俺は麥を力強く抱き締めた。
何度も何度も麥の名前を読んでも、返事をしてくれない。
病院に運ばれた頃には、時すでに遅そかった。
「御冥福お祈りします」
医者は淡々と顔色一つ変えずに、俺達にそう言った。
信じられなかった。
俺は、麥が死んだ事を信じられなかった。
医者が何言っているのかわからなかった。
母親は眠っている麥に泣きながら抱き締めていた。
俺は眠っている麥の頬を触った。
冷たい…冷たい…。
「俺の所為だ」
俺が麥の異変に気付けなかったから、麥が死んだんだ…。
俺が…。
俺は病室を出て、いつの間にか屋上に来ていた。
無我夢中で屋上のフェンスを超え、飛び降りをしようとしていた。
もう…、この世の全てがどうでもいい。
飛び降りよとすると、少女の声が聞こえた。
「死ぬのは惜しいぞ」
ハッとして、声のした方向に目を向ける。
だが、さっきまでいたはずの屋上ではなく、灰色の空が広がった。
空に沢山の家が浮いていて、スラム街のような街が広がっていた。
「ここは?俺はさっきまで飛び降りようとしたはずなのに…」
「それは妾がここに連れてきたからじゃ」
「誰だ?」
俺の目の前にフードを被った少女が居た。
「妹の死はアイツが自殺をするように仕組んだのだ」
「殺されたって事かよ!?」
俺は少女に近寄り、ガシッと肩を掴んだ。
「そうだ」
「誰だよ!?俺がぶっ殺す」
「だがら、お前にはこっちの世界に来てもわらないといけないんだ」
「こっちの世界?」
「そうだ。お前にはまず、MADAについて自分で調べてもらう。そして、この死後の世界に来てもらう」
訳の分からない説明をしだした。
「MADA…?」
「そうだ、時間がないぞ。お前の妹を助ける方法がある」
「助けられるのか!?どうやってだ!教えろ!」
俺は少女の肩を力強く揺すった。
少女は俺の頭に頭突きをした。
ゴンッ!!!
「いってぇーな!何すんだよ!」
「揺するな!!良いか、お前の妹は欠片になってこの世界に散らばっている。それを集めれば妹を助ける事が出来る」
「欠片…?」
「あぁ、お前はまず、MADAの存在を知り、この世界に来い。話はそれからだ」
そう言って、少女はパチンッと指を鳴らした。
さっきまでの世界が無くなり、元いた屋上に戻っていた。
謎が深まるばかりだった。
「何だったんだ、今の…。いつの間にか戻ってきてるし…」
だけど…、アイツが言っていた事は本当なのか?
嘘なのか分からないが…。
俺は、今はまだ死ぬときでは無いって事だな?
とりあえずMADAの事を調べてみるか、麥の部屋にも
何かあるかもしれないな。
俺は病院を出て、実家に向かった。
俺は麥の部屋に向かい部屋を開ける。
俺の部屋に引っ越すのに必要な物が、キャリーバックに詰められていた。
ベットの上に置いてあるスマホが光っているのが見える。
スマホの手に取ると、"MADA"と書かれたサイトが開かれていた。
アイツが言っていたMADAって、これの事か?
俺はサイトに書いてある事を一通り目に通した。
自殺の事と、死後の世界の事が書かれていた。
麥はこのサイトを見て、MADAの存在を知った。
精神的に参っていた麦なら自殺をする可能性は高い。
だが、アイツは麥が自殺をするように仕組まれたと言っていた。
俺は、やっぱり死後の世界に行かないと行けないみたいだな。
麥を助けられるのなら、行かないと言う選択は無かった。
それに、麥を自殺に追い込んだ人物を見つけ出し、この手で殺す。
その為に俺は死後の世界に行く。
外を見ると満月の夜だった。
「ちょうどいいタイミングだな。行くなら早い方がいい」
そして、俺は窓をガラッと開けた。
マンションの25階。
この高さなら、確実に死ねるな。
「待ってろよ麥。お前を殺した奴を俺が殺す。」
そう言って、俺は飛び降りた。
ドンッ!!
鈍い音が聞こえ恐る恐る目を開けると、あの世界に居た。
「早かったな」
少女が腕組みをしながら俺を見ていた。
「あぁ、教えてくれよ。麥を助ける方法を。」
「勿論そのつもりだ。名付け屋に向かいながら話そう」
そう言って、少女は歩きながら話をし出す。
全ての欠片を集めれば死後の世界の死神に1つだけ、願いを叶えてもらえる事。
その願いはなんでも良いらしく、麥を生き還らす事も可能なわけだ。
名付け屋に着くと、青藍と言う少年がいた。
そして、49日までに欠片を集めないといけない事を聞かされた。
そして、闇と言う仮の名前を名乗る事を説明された。
「美しき兄妹愛だな」
青藍と名乗った男が煙草を吸いながら俺を見つめ、
「一本吸うか?」と言って煙草を一本を差し出す。
貰った煙草を口に咥え火を付けると、バニラの香りがした。
「俺は麥を殺した奴を許せない。だけど…、麥を助けられなかった自分自身が、1番許せないんだ」
「だけど、こうして今、妹を助けにここに来たんだろ?その気持ちは胸に閉まっとけ。俺はお前のその覚悟の強さ気に入ったぞ?」
そう言って、青藍は俺の頭を撫でた。
少女の名前は白玉と言って、白玉に麦を殺した奴は誰だと聞いた。
あと2人揃ったら話すと言って、それ以上は教えてくれなかった。
白玉に鎌の出し方と自分の能力を教えて貰い、そこから無我夢中に欠片を集めた。
自分を犠牲にする戦い方をしていた為、よく百合に部屋まで担いで運んでもらった。
百合と空蛾はどうやら、同じ理由でこの世界が来たと話した。
2人の事はどこか親近感が湧き、信頼感も徐々に築き上げていた。
そして夜空が来て、白玉の様子がおかしいと思った。
異様に夜空の側を離れようとしなかったのを残りの2人も疑問に思っていた。
夜空が傷だらけで倒れていたのを白玉は泣きそうな顔で、手当てしてくれと頼んできた。
それで、ますます夜空に対して怪しいと思ってしまった。
その夜、白玉を問い詰めたがやはり何も答えてくれなかった。
どうやら、夜空の記憶とやらが戻らないと話してくれないみたいだ。
その本人でさえも知らなかったみたいだ。
俺は腹が立って家を飛び出し、化け物に八つ当たりみたいな戦い方をしていた。
俺にも時間が無いんだ。
俺はもし夜空が黒だった場合、容赦なく夜空を殺す。
月夜に照らされた欠片が輝いていた。
俺はそれを優しく握った。
、
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