敵視

目を開けると、小学生の頃の星が泣いていた。


「ごめん。ごめんな…晃。俺がもっと早く気付いていたらお前がこんな目に遭わなくて済んだのに…」


星が泣きながら、僕に謝っている。


なんで?


なんで…、星が泣くんだよ。


お前何も悪くないだろ?


僕は泣いている星に手を伸ばそうとした。


だけど、星と僕の間に見えない壁があった。


「星…?」


僕は見えない壁を強く叩いた。


ドンッ!!


ドンドンドンドンドンドンッ!!


叩いても叩いても、その壁は壊れる事は無い。


すぐそこに星はいるのに、届かない。


星は涙を拭い、僕を見つめた。


「晃。俺がー  してやるから。」


「何?何言ったか聞こえないよ!なんて言ったんだよ!おい!」


ドンドンッと見えない壁を叩くが、その壁は壊れる事は無い。


「晃は何も心配する事はないよ。俺が全部やるから」


そう言って、星は後ろを向き歩き出した。


「待てよ!星!」


すると、星の周りに黒い羽が舞っている事に気付く。


「黒い羽…?何で、黒い羽が…っ」


星の姿は黒い羽根に包まれ、共に消えて行ってしまった。


「星!!」


そこで、僕はハッと目が覚めた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」


上がった息を整え、僕は周りを見渡した。


いつの間にか、自分の部屋のベッドに寝かされている。


体を起こすと鈍い痛みが走った。


ズキッ!!


傷んだ部分を見ると、包帯があちこち巻かれていた。


誰が手当てしてくれたのか…。


窓を見ると夜なっていた。


どれだけ意識無かったんだろ、外を見る限り夜みたいだけど…。


周りを見渡すと、白玉の姿が部屋に無かった。


白玉が手当してくれたのかな…。


「どこ行ったんだろ…?喉乾いたな…。水でも飲みかな行こうかな…」


僕は部屋を出て、リビングに向かった。


ギシギシッと音を鳴らしながら階段を降りていると、リビングから明かりが漏れていた。


もしかしたら、白玉はリビングにいるのかな。


「白玉、しらばっくれてんじゃねぇぞ!」


そんな事を考えていると、闇の怒鳴り声がリビングから聞こえた。


扉の隙間からリビングを覗くと、白玉が闇に胸ぐらを捕まれている。  


「え!?ちょっとっ!?」


バンッ!!


「ちょっと闇!何やってんだよ!」


グイッ!!


僕は白玉と闇の間に入り、2人を引き離した。


「白玉、大丈夫?」


「夜空!?起きて大丈夫なの?」


白玉は僕の姿を見て驚いた表情を見せた後、眉を下げた。


「僕は大丈夫だけど。闇、どうしたんだよ」


「お前もお前だ。夜空、アイツと関係してんだろ」


闇はそう言って、白玉と僕を睨み付ける。



「アイツ?誰の事言ってんだよ」


「闇、コイツは関係してないと何度も言っているだろ」


白玉が僕と闇の間に割って入る。


「怪しいんだよ。てめぇがコイツに引っ付いて歩いてんのも、3人揃ったら話すって話もいつすんだよ。俺等には時間が無いんだよ!」


闇は拳を強く握りしめて叫んだ。


白玉は闇に何かを話そうとしていたのか?


だから、闇はあんなに怒ってるのか?


「もう少しまってくれ。お前達に時間が無いのは分っている。夜空の記憶が戻らないと意味ない事なんだよ」


「僕の記憶が戻らないと意味が無いって?どう言う事だよ、白玉」


僕が関係しているって事なのか?


記憶?


何の記憶の事を言っているんだ、白玉は…。


闇がアイツと関係してるのかって聞いてたけど…。


それも、一体どういう事なんだ?


僕の記憶って…?


頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。


「チッ、話しにならねぇ」


闇はリビングを出て行き、玄関が乱暴に閉まる音が部屋に響いた。


バンッ!!!


その騒ぎを聞きつけた、空蛾と百合もリビングに来た。


「闇が凄い怒ってだけど、喧嘩か?」


百合は風呂上がりだったのか、髪の毛をタオルで拭きながら訪ねた。


「いや、喧嘩では無い。闇があの事を聞きたいと聞きに来た。妾はもう少し待ってくれと言ったのだ」


白玉が淡々と先程の出来事を説明をした。


すると、空蛾が僕を睨んでいるのが分かった。


何で、空蛾に睨まれているのか分からなかった。


「白玉…あたし達、待ってるんだよ。話してくれるのを。夜空が来て、4人揃ったから話してくれると思ってた」


「すまない、空蛾」


「だけど、何?夜空の記憶が戻るのを待て?そんなのいつ戻るか分からないのに待てって?」


空蛾はそう言って、白玉に詰め寄った。


「あたしは、あの人を取り戻したいんだよ!!」


「く、空蛾っ」


大声を出した空蛾を宥めようとするも、キッと睨まれてしまった。


「あんたが夜空を可愛がるのは勝手だけど、良い加減にして欲しいわね」


そう言って空蛾は僕とは口を聞かずに、リビングを出て行った。


バンッ!!!


「お前も今日はもう部屋に戻れ」


百合は僕の肩を優しく叩いた。


「百合…僕、何が何だか分からな…」


「悪いな。俺もお前の事、ハッキリ言って白だって言えねぇんだわ」


「えっ?」


「アイツ等だって悪気はないんだぜ?皆んな焦ってんだよ、俺も。白玉はまだ、話してくれる気はないみたいだしな」


「ゆ、百合…」


百合は悲しく笑い「おやすみ」と言って、部屋を出て行った。


3人に向けられた明らかな敵意に困惑してしまう。


身に覚えのない事を言われ、白玉は明らかに僕を庇っている。


3人は僕の記憶を早く戻したがってるけど…。


「白玉…、一体なんだよ!僕の記憶?って!教えてくれよ白玉!」


「教えられない。お前が自分自身で知らなきゃいけないんだ。」


白玉はそれだけしか言わなかった。


僕はその場で呆然とするしか無かった。





「へぇ、面白い事になってんなぁ。なぁ?お前もそう思うだろ?」


2人の男がこの光景を鏡越しで見ていた。


「嫌な趣味だな」


「ボクは人が揉めてんのとか見るの好きなんだよねぇ。人間の汚い部分が出るだろ?人間ってのは強欲なものさ」


1人の男が鏡越しの晃を見つめていた。

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