住宅路地105の住民

女の子は白玉を見て驚いていた。

「何だ、白玉じゃん。それに隣の男の子は…。あぁなるほど。」

「空蛾(クウガ)だったか。とりあえず助かった。」

そう言って白玉はお礼を言った。

女の子も僕を見て1人で納得していた。

「白玉…。もしかしてこの女の子と知り合いなの?」

「あぁ。夜空と同じMADAに選ばれた者だ。」

「え!?」

この子も自殺をして、ここに来たって事か…。

空蛾と呼ばれていた女の子はポケットから小瓶を出しその中に欠片を入れていた。

小瓶の中には大粒の欠片や小粒の欠片が4個ほど入っていた。

「やっと5個貯まった…。」

空蛾はホッと小さく笑みが溢れていた。

その光景を見ていたら目が合ってしまった。

するとスゥッと笑顔が無くなった。

「今日来たばっかりなのね。君。」

そう言って持っていた鎌が刻印の中に戻っていった。

「名付け屋の帰りじゃ。ほら、お前も挨拶しろ。一応ここでの先輩なんだから。」

白玉はポンッと僕の背中を叩いた。

「あ、えっと、僕はあき…じゃなくて夜空です。よろしくお願いします…。」

「夜空ね。あたしは空蛾よ。空って書いて虫の蛾って字で空蛾。今日来たばかりならさっきの化け物見てびっくりしたでしょ。まぁ、そのうち慣れるから。」

「な、慣れるもんなのか?」

僕が、この世界に来る前から空蛾は来ていたんだ。

さっきの戦いも戦闘慣れしていた。

動きに無駄が無く、確実に仕留めていて、見ていて綺麗だと思ってしまう程だった。

「白玉。夜空もあたし等の住んでる所に案内するの?」

「あぁ。そのつもりじゃ。」

「そう。じゃあ行きましょうか。夜空、行くよ。」

「あ、うん!待って!」

僕は2人の後を足速に追った。

路地裏を通り、ビルの階段を登り軽々と屋根を越えていく2人に僕は付いて行くのに必死だった。

2人とも沈黙のまま歩いていた。

何となく気まずい雰囲気が漂っていた。

ここの事を空蛾に聞いてみようかな…。

「ねぇ、空蛾はいつからここに、来たの?」

「あたし?そうね…10日前にここに来たわ。」

「そっか…。さっきの戦いすごかったね!あんな化け物をパパッと倒しちゃってさ。」

「夜空も欠片を集めるんでしょ?それなら早く実戦をした方が良いよ。強くならなきゃ死ぬんだから。あたしは…早く取り戻したいのよ…。」

どこか悲しげな目をして空蛾は話した。

そうだよな…。

空蛾だって、僕と同じ目的で来たんだ。

助けたい人、大事な人の為に来たんだよな。

僕も早く欠片を集めないと…。

そう思っていると白玉が「着いたぞ」と僕に声をかけた。

そこには古い建物が建っていて、4階建てのマンションみたいだが、4階の所が小さな家の形をしていて、3階、2階、1階になるごとに大きくなっていて、歪な建物だ。

「今日からお前の拠点はこことなる。」

白玉が古い建物を指差した。

「ここは?」

僕が質問すると、空蛾が口を開いた。

「住宅105。」

「住宅105?ってことはアパートみたいなモノ?」

「そうね。あたし達と同じ人間が住んでいるの。」

「他にもいるの!?」

「えぇ。あと2人居るわ。紹介するから入って。」

キィッと扉をゆっくり開け僕達を手招きした。

「お、お邪魔します…。」

中に入ると豆電球の一つの光で照らされた廊下は不気味さを感じた。

中もボロいな…

外もボロかったけど…。

空蛾の後について行くとリビングに通された。

外装とは違って洋風のリビングだった。

壁には鹿の置物や、魚の置物が飾られていて、赤色のダイニングソファーが2つ置かれていた。

アジアンテイストの絨毯、ダイニングテーブルの上には小さなガラスの地球儀が置かれ、山小屋の様な雰囲気だった。

「2人を呼んでくるからちょっと待ってて。」

そう言って空蛾は階段を登っていった。

バンッ!

玄関が乱暴に開かれる音がした。

うるさい足音がリビングの方まで近付いて来た。

誰か帰って来たのかな…。

すると、そこに立っていたのは、黒髪に赤メッシュ、襟足は長く、赤い瞳の狐目に、沢山のピアス。

脇腹からは血が流れているせいか、色白なのにさらに血色が悪くなっていた。

「誰だてめぇ。」

「闇(ヤミ)!?怪我してるじゃない!」

白玉が闇と呼ばれる男に駆け寄った。

そしてその男はフッと意識が無くなって倒れそうになっていた。

僕は足速にその男に駆け寄り抱き留めた。

「セーフ。良かった!息はしてる…。眠っちゃっただけみたいだけど…早く手当てしないと…。」

「あーあ。派手にやられたなぁ。」

僕の頭の上から声がした。

見上げると煙草を吸いながら見下ろしている男がいた。

ネイビー色の少し短めの髪は左に分けられていて、紫色の切長な目で黒のタートルネックを着こなしている。

「ん?お前。もしかして新入りか?」

「そうです…っというか!この人の手当てしないと!」

「あー。そこのソファーに寝かせろ。無茶ばっかりする奴だな本当。」

僕は指示にしたがいソファーに寝かせた。

「また手当てしないといけないわね。」

救急箱を持った空蛾が闇って男の服を脱がし、消毒をし手慣れた手つきで包帯を巻いていた。

「白玉。そいつ新入りだろ?お前が連れて来てんだから」

「あぁ。そうだ。」

「お前名前は?俺は百合だ。百合の花の百合な」

「僕は夜空です。」

「よろしくな。そこで寝てんのが闇だ。暗黒の闇の闇な。」

「大丈夫なんですか?闇さん」

スゥッと静かに寝息を立てていた。

「それなら大丈夫よ。あたし達、怪我してもすぐ治るのよ。この刻印がある限りそういうのも優遇されてるみたいなのよ。」

そう言って空蛾は百合さんの隣に腰掛けた。

「夜空。俺等に敬語はいらないぜ。名前もさん付けじゃなくていい。同じ同士な訳だしな。」

「そうね。一応同じ目的な訳だし。」

意外にも2人はとてもフランクに僕に接してくれてた。

僕の緊張していた心がだんだんと緩んできた。

「ありがとう。」

「良かったな。夜空。」

白玉が僕の肩をポンポンっと軽く叩いた。

百合が煙草を灰皿に押し付け、にこやかに話してくれた。

「夜空。お前歳いくつなんだ?」

「16歳だよ。百合は?」

「30歳だ。じゃあ高校生か。青春真っ盛りだな。」

「空蛾は?」

「あたしは18歳よ。高校3年よ。」

皆んな歳上なんだ…。

「百合は何の仕事してるの?」

「俺は刑事だよ。」

「え!?刑事なの!?すごいな。」

「別に大した事はねぇよ。闇の方が有名人だしな。」

確かに闇は、何処かで見た事あった。

何処で見たのか考えていると空蛾が口を開いた。

「BLACKって言うバンドのベース担当だよ」

「BLACK…BLACKってもしかして、あの有名なバンドの!?」

「そうそう。びっくりよね。」

「何処かで見た事あるって思ったらそうだったのか…!」

BLACKとは今大人気のバンドで知らない人が居ないくらい有名バンドだ。

そのベースの流花は21歳と言う若い歳で天才的ベースの能力が高く評価され、そのボーカルの麦の歌唱力も評価されていた。

「すごい…。」

「まぁともかく。俺、そろそろ出掛けるから、空蛾、夜空の部屋案外してやってくれ。」

そう言って百合は壁に掛けてあった黒いジャケットを羽織り、テーブルに置いてあったガラスの地球儀を持ってリビングを出て行った。

「地球儀持って何処行ったのかな。」

「あれは、化け物の居場所を察知する機械だ。青藍の所にあった奴だ。お前のもあるぞ。」

そう言って白玉は僕にガラスの地球儀を渡した。

「もう夜も遅いから部屋に案内するわ。今日は休みな。」

「そうさて貰おうかな…。」

「白玉も同じ部屋で良いわよね。」

「問題ない。」

「ちょっと待って!」

僕は話が勝手に進んでしまっているのを止めた。

「何だ。夜空。」

「い、いやいやいや!女の子と同じ部屋って良くないでしょ!。」

「妾はお前の監視人だ。離れる事は許されないんだ。」

「だ、だけど…!」

「可愛いじゃん。こんな所に来てもウブな反応出来るんだから。とりあえず部屋に案内するわ。」

空蛾がクスッと笑い階段を登って行った。

僕は渋々後について行った。

僕の部屋は4階らしい。

「ここがあなたの部屋だから。あたしはもう行くわね。」

そう言って空蛾は階段を降りて行った。

部屋は7.5畳の広さでセミダブルのベットと小さな棚に、埃の被ったソファーだけだった。

「僕はソファーで寝るから白玉はベット使って。」

「良いのか?悪いな。」

そう言って白玉はベットに横になり布団を被った。

「明日から実践で特訓する。今日は寝ろ。いいな。」

「わかった。化け物と戦うんだね。」

「そうだ。49日までに集めないといけないんだ。時間はいくらあっても足りないからな。」

白玉は「おやすみ」と言って目を閉じた。

僕もソファーに転がり目を瞑った。

早く、あの化け物と戦える様にならないと…。

疲れがどっと一気に来た。

いつの間にか僕は眠りの世界に入っていた。


  残り48日



   第二章  完

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