ガラスの大鎌の少女と怪物

僕と白玉は名付け屋を出た後、ひたすら白玉の後について行った。


タタタタタタタッ!!


高い屋根の上を歩いている白玉は、子猫みたいだっだ。


タン、タン、タン、タン。


小さい体で軽々と高い場所に飛び移り、僕の様子を伺うような視線を送る。


身軽だな…。


僕は落ちないように、慎重に白玉の後を追い掛ける。


白玉が歩く道は険しい所ばかりを選んで、歩いてるなぁ…。

 

足場なんてグラグラしてるし…。


建物の屋根なんか、普通だったら登る機会は無いだろう。


今、思いっきり体重を掛けたら、屋根が壊れそうだ。


「白玉…、一体どこに向かってるんだよ。ずっと歩いている気がするんだけど…!!」


ピタッ。


そう言うと、白玉は足を止めた。


「夜空に見せてやろうと思ってな。」


「一体、何を?」


「どうしたら、欠片を集める事が出来るか、だよ。」

 

「!?」


僕の反応を見た白玉は、ニヤリと笑った。


「知りたいだろ?静かにあれを見てみろ。」


白玉が指を指す方向を見た。


そこには、悍ましいほどの黒いオーラが放たれていた。


体全体には黒い靄を纏っていて、変な鳴き声を出している。


「キィィェェゥア!!」


耳にキィーッとする鳴き声を、延々と出している。


ジッと見つめていると、人間の顔や手が沢山付いていて、目は赤く光っていた。


間違いなく、誰が見ても化け物だと分かる。


「な…!何だあっ、むぐっ!?」

 

僕は思わず大声を出してしまいそうになり、白玉に口を乱暴に抑えられた。


「静かしろ、喰われたいのか?」


僕は激しく首を横に振り、小声で白玉に尋ねた。


「白玉!あの化け物は何だよ!?」


ゆっくりと、白玉は静かに語り出した。


「あれは欠片だ。」


欠片!?


全然、欠片じゃなくない!?


ただの化け物にしか、見えないんだけど!?


「あれが欠片だって!?欠片の要素が1つも無いじゃん!」


欠片って、ガラスの割れた破片みたいな物じゃないの!?

 

あんな怪物が欠片…?


「迷いの魂が欠片を飲み込もうとしている。欠片は

まだ、生命力が残っている状態だ。」


「生命力が残っている?」


欠片の生命力って…、何だ?


「ここは天国と地獄の間の世界なんだ。だから、どっちにも行けない魂達が化け物の形になる。欠片とはつまり、欠片になった本人が自分の命よりも大切な人への強い想いが形になったものだ。迷いの魂はその光に縋り付くんだ。」

 

「自分よりも大切な人…。」


星にとって僕は大切な人で、僕への想いが強かったから欠片になったんだ。


迷いの魂?

 

それは一体、どういう事なんだ?


白玉の話を聞いていても、理解が出来なかった。


「ちょっと、待って白玉。迷いの魂って?MADAに選ばれなかった者は、欠片になって飛ばされるって、言ってたじゃないか。」


「そうだな。迷いの魂とは、MADAの存在を知らずに、自殺をした者の事だ。本来、自殺は1番の罪なんだ。自らを傷付けて死んだ魂は天国も、地獄も行く事が許されない罪の魂として化け物にされ、死後の世界に落とされる。」


自殺が1番の罪…。

 

天国も地獄も行く事が許されない魂…。


自殺した星の魂も、天国に行けないって事だよな…。

 

「化け物達は欠片を好物としている。」


「好物って…、化け物は欠片を食べるのか!?」


「その通り。」

 

そして、白玉は僕の胸を軽く指でトンッと突いた。


「夜空、よく聞いて。刻印を持つ者は、あの化け物を倒して、欠片を集めるんだ。」

 

化け物と戦うって…。


武器も何も持っていない状態で、どうやって戦えば良いんだ!?


「だけど…、どうやって?あんなのと戦うんだよ…。武器もないのに…!」


「既に武器はある。」


「あるってどこに!?」


そう言うと、白玉は手の刻印に触れた。


「この刻印は、もう1つ意味がある。」

 

「意味って…。」


「そう。これはこの世界で、戦う武器が刻印に封じ

込まれている。」


僕は、ジッと刻印を見つめた。


ただの十字架に見えるだけどな…。


この中に武器が入ってるって事なのか…?


ピカァァァァァ!!


すると、刻印が光出した。


「え!?どういう事!?光ってるんだけど…!」


「夜空と言う名前を貰った今、その刻印の力が解き放たれたんだ。これで武器を出せるようになるはずだ。」

 

「どうやって武器を出すんだ?」

 

「目を閉じ、息を整えてみろ。」


僕は白玉に言われた通りに息を整え、静かに目を閉じた。

 

「スゥ…、ハァ…。」


ヒュュュュウ!!!


すると、僕の周りに風が集まり、手に何か重たい物を感じた。


ガシッ。


空気が冷たくなって、物音が何1つ聞こえなくなった。


この感覚…、何だろう。

 

体にしっくり来ると言うか、言葉では表せれない感覚だ。


目を開くと、手には大きな鎌が握られていた。


夜空色の大きな刃に、同じく夜空色の薔薇や棘が刃の周りに巻き付いていた。 


ゲームの中に出て来るような、幻想的な鎌だった。


鎌の刃が夜空色で、光が流れ星のように動いている。


「これが…、僕の武器…。」


「よし、武器の召喚が出来たな。ならー」


「キュイイインー!」

 「「!?」」


「キィィィン!!」


耳が割れそうだ、頭痛てぇっ!!

 

ズキズキと頭と鼓膜が痛み始める。

 

奇声のような声が後ろから聞こえた。


振り向くとそこには、さっきの化け物がゆらゆらと、こちらに向かって動いていた。

 

「まずい!夜空、妾の後ろに一旦さがっ…。」


「キュエエエエエ!!」

 

ビュンッ!!


化け物は物凄い速さで、僕の目の前まで飛んで来た。


白玉のその声が間に合う事なく、化け物の大きな鋭い爪が僕に振りかざそうとしていた。

 

シュンッ!!


やばい!殺される!


思わず、目を瞑ってしまった。


グサッ!!


「ギャイヤアアアイッ!!!!」


化け物は大きく口を開け、悲鳴のような声がした。


グ、グサッ?


何か刺さる音がした?


シュアアア…。


目を開けると、化け物が倒れていて霧の様に消えていた。


すると、そこから一筋の光が出て来た。


ビュンッ!!


キラキラと光るガラスの花が、灰の中から現れた。


あまりにも綺麗過ぎて、思わず手が伸びてしまいそうになった。


「それは、あたしの欠片よ。」

 

ピクッと、体が少し反応した。

 

その声の主の元に、ガラスの花が飛んで行った。


「一体、どうなっているんだよ…。」

 

あの化け物の中から、綺麗なガラスの花が出て来るなんて…。


「夜空!平気!?」

 

白玉が慌てて、僕の体をあちこち触った。


サワサワサワサワッ!!


「大丈夫だけど…、白玉これは一体ど…。」


声の方向を見るとそこに居たのは、女の子だった。


ミルクティ色のバッサリと切られたショートヘアー、耳には沢山のピアスが輝いて、月夜に照らされた白い肌、黒い瞳。


ダメージの効いたジージャンに、ショーパンの服を着ていた。


透き通ったガラスの大鎌には、クリスタルが埋め込

まれ、持ち手部分には大きなクリスタルがあった。


そして、女の子の手には欠片が光っていた。


女の子は冷たい目で、僕を見下ろした。


「貴方、死にたいの?」


そう冷たく僕に言い放った。


死後の世界で、初めて僕以外の欠片を探す人と出会った瞬間だった。

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