衝突 一
ーー数日前。
「村」ーーエリザベートらが住む地域にて。
夜中。一軒の木造の家屋。剥き出しの材木、ギシギシと音をたてる廊下。その一番奥の広い部屋には、家具などは何もない。だがその硬い木の床の上に、四十人ほどの人間が集っていた。
その中の一人、若い青年が車座に囲まれている黒い服の男に質問するように手をあげた。
「ーーで、ガーナさん、その女性は?」
「あぁ、彼女か。ここに来る途中で巻き込んでしまった。俺は朱雀と遭遇した。ということはウルフもきているだろう。俺の匂いがついているから、放置しておけば彼女は殺される。ーーだから、ここでかくまおうと思ってな」
「意識がないみたいですが……」
「眠り薬を飲ませた。彼女はただ巻き込まれただけだ。俺たちに関わる必要はない」
「……でも、この革命は、彼らのためなんですよ! こいつらはそんなことも知らずにのうのうとーー」
「ーーのうのうと、資源にされていた、か? ライハルド?」
重いガーナの言葉にさっきまで発言していた若い
男ーーライハルドがはっとして口をつぐむ。
「い、いえ、そんなつもりじゃーー」
「目的を見失うな。俺たちは腐りきった王国を変えるために、ここまできた。今ある非人道的な制度を撤廃し、資源の種類を変える。その上で皇国と対等な関係を築けるだけの国力を持つ。そうだよな?」
「は、はい……!」
「けどよぉ、ガーナさん。本当にこの第一戦、勝てる確証はあんのかい?」
鋭い目つきをした大柄な男が髭の生えた顎を撫でながら問いかける。
「話じゃあ、今日までにあんたは『力』を支配してるって? とてもそうは見えねぇけどなぁ? ーーわかってんのか、この戦い、負けたらオレ達は薄汚い野良犬みたいに棒切れでボコボコに殴られて地べたでくたばるだけだぜ? 負ければ様子見してる奴らはあっさり俺たちのことを見捨てるさ」
「ーーそれについてはすまない、カーボン。ーーだが!」
むっとして発言しようとしたカーボンを黙らせるようにしてガーナは立ち上がった。彼を囲んでいる仲間たちを見渡す。
「ーーまさか、俺たちが負けるはずはないよな?」
その言葉にこれまで不安そうに話を聞いていた面々がパッと顔を輝かせた。
小柄な少年が立ち上がる。
「ああ、そうだ! 万が一にでも僕たちが負けるはずがない! そうだよな、皆⁉︎」
「そうだ、その通りだぜ、カサ!」
「だな……! 我らが負けることなんて有り得ん」
「明日は俺たちの力を見せつけてやろうじゃないか!」
ざわざわとしてきた部屋の中央でガーナはニヤリとわらう。
「ーーでは貴様ら、明日は奴等にーー頭のてっぺんから爪先まで脂肪と糞にまみれた王の家畜に、古代からまるで進化していない脳のちっぽけな原始人どもにーー本当の戦いをーー本当の魔法の使い方というものを教えてやれ!」
『おおおぉぉぉぉっ‼︎』
広い部屋の柱を、声の振動が震わした。
翌朝。一軒の家屋を物々しい格好をした集団が取り囲んでいた。その中の一人、立派な格好をした男が叫ぶ。
「同志諸君、ついに裏切り者に制裁を加える日が来た! 奴らはもはや王国の人間ではない! ならば猿だ! 人の言葉を喋る猿である! 我々は一致団結して彼奴等を駆除しなければならない! 今日こそ偉大で勇敢かつ慈悲深い王様から賜った力を行使するときだ、我らが王国に栄光を!」
男の呼びかけをかき消すように大きな雄叫びがあがってーー
男の頭が吹き飛んだ。
「えーー?」
指示系統を失った体が拳をぐっと握りしめたまま、ゆっくり地に倒れーー
建物の奥から黒ずくめの男が出てくる。
さわやかな笑顔で、
「おはよう、王国のみなさん。朝食はお済みかな?」
「あ、あいつはガーナだ! 裏切り者の『龍』だっ!」
「変身しろ!」
慌てる王国軍など意に介さずーー
「もしお済みでないならーー」
家屋の玄関が崩れて、右腕を前にまっすぐ伸ばし右肘に左手を当てたガーナの手勢が現れた。
「さっさとーー地獄の釜でーー血のサラメを啜りやがれ!」
ガーナが叫ぶ。同時に右腕の先端から解き放たれる極度に圧縮された魔力が銃弾となって、王国軍兵士の身体を次々にぶち抜いていく。
いくら変身したところで銃弾を防ぐほど身体が強化されるわけではない。待っているのはただ一つーー死。
そこからは一方的な殺戮であった。
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