始まり
一:王国の人間は十五になると動物と人肉をともに喰う儀式を魔法使いの立会のもと行う。
ニ:その儀式によってその動物の能力を得る。例えば熊だと熊のような強靭な力、犬だと犬のような鋭敏な嗅覚。なおその力は物理的な事象によるものではない。それゆえそのような類の力を王国の人々は「魔法」と呼ぶ。
三:この王国に生まれた者で、この儀式を受けないことを選択した者は処刑。特例は存在しない。
四:儀式によって選べる動物の種類は選択可。
以下続く
暗部:魔法使いを筆頭に下に白虎、朱雀、龍、玄武の四人の幹部、さらにその幹部の下の配下からなる。活動は非公開。
幹部は儀式で得た動物の力とあわせて火や水を生成する、操作する力を得る。
「で、あなたたちがやっていることは?」
私の質問に白虎がこたえる。
「人買いよ。それと、もう一度言うと」
「皇国からの死体の輸入」
ジーナが繰り返した。
今私たちは白虎の屋敷にいる。大きな食卓机に座り私の手元には二本の短刀。
「どうして、そんなことを?」
「……」
白虎とジーナは黙っている。と、ノースが代わりにこたえる。
「理由は言えない」
「もし、死体の輸入をやめろと言ったら?」
イルが硬い声で言う。
「我が国とあなた方の国ーー皇国は不可侵条約を結んでいる。その条件には死体の輸入も含まれている。不履行、それは我が国にとって宣戦布告と同意」
「……そんなに死体を集めてどうするの?」
「なぁエルゼ、葬式って知ってるか?」
急にジーナが話の腰を折ってきた。
「……なにそれ」
聞いたことのない言葉に戸惑う。ソウシキ? なんだそれは。
と、そんな私の質問にジーナは両手を広げた。
「ほら、わかってねぇ。こいつらは自分が一体なんなのか分かってねぇ」
その言い草に眉をひそめる。まるで私たちが怪物でもあるかのような言い方だ。
「わかってないのはそっちでしょ、動物みたいな力を使うくせに」
と、そこで、今までずっと黙っていた白虎が口を開いた。
「エルゼーー、いい、いまからの話をよく聞いて欲しいの。あなた、いえ、あなたたちはーー」
次の瞬間ドアが勢いよく開いた。ボロボロの格好をした男が飛び込んできて叫んだ。
「ミス・キサラーン! ついさっき『村』で、戦闘勃発! 『龍』ガーナとその手勢が王国軍の特別部隊と衝突した模様! そしてーー皇国軍が、作戦『ナダ』の決行を!」
その場にいた全員が固まった。みるみる顔から血の気が引いていく。
「……大変なことになったわ」
あの白虎さえ白い顔でつぶやく。私を幽霊であるかのように見て、
「あなたの故郷が侵攻されてーーそこにいる人々は皆殺しにされる」
事態に最も早く反応したのはジーナだった。
「アタシにエルゼを任せてくれ! こいつの安全は私が守る」
ジーナが勢いよく叫んだ。
「わかったわ、あなたにエルゼを任せる。絶対に奪われてはダメよ」
「ちょっと待って、どうして私の故郷が侵攻? 皆殺し? 資源も何もないのに、っ……どうしてーー?」
そんな理不尽なことを?
「資源ならあるんだよ。あんたは、いや、あんたたちは教えられてこなかったんだ。説明してる場合じゃない。もうすぐに皇国の奴らがこの大使館に来る。手荷物だけ持って、一刻も早く出発するぞ!」
ジーナの叱咤に、みんながあわだたしく動き始める。
「ノース、他の子を呼んで。イル、脱出準備をしてちょうだい。私は情報の破棄を行う」
「了解、キサラーン様!」
三人とすれ違い様、検討を祈るとささやかれて、ジーナは固い顔で頷いた。
「ちょっと待って、待ってよ、こっちはわからないことだらけなんだ! せめてどこに行くのか教えてよ!」
ジーナは私を振り返らずーー
「決まってんだろ、アタシたちの国ーー王国さ」
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